CRISPR-Cas9でマウスからHIVウイルスを除去することに成功。AIDSの画期的治療法の確立に期待

7月16日(火)8時30分 GIZMODO


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ノーベル賞もの?

CRISPR-Cas9とは、DNA二本鎖を切断してゲノム配列を改変するという、新しい遺伝子改変技術のようです。「Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats」の頭文字...直訳すると「クラスタ化され等間隔にスペーサー配列が入った、回文型の短鎖反復配列」となんだかよくわかりませんね。とりあえず、ゲノム編集ツールとも呼ばれているようです。このゲノム編集でなんとHIVウィルスを消しちゃった...という報告があります。米GizmodoのGeorge Dvorsky記者のレポートをご覧ください。

多分野の科学者が参加するチームが、なんとCRISPR-Cas9ゲノム編集ツールと実験中の新薬を組み合わせることにより、マウスのゲノムからHIVウィルスを消し去ったと報告しています。HIVとAIDSと戦うための、新たな光としてこの新療法の行き先に期待がもたれています。しかし、臨床治験が始まるのはまだまだ先のことのようです。

CRISPRといったゲノム編集ツールで感染症などを消し去るなんて、ちょっと突拍子もないように感じるかもしれませんね。HIVはレトロウイルス科に属するウィルスで、DNAに自身を組み込んで複製していきます。 「ART」と呼ばれている抗HIV療法では、HIVの複製を抑えることができますが、HIVを完全に消し去ることはできません。休眠状態のウィルスを体内から排出することはできないからです。

「HIVウィルスを体内から除去」は史上初この新しい研究は『Nature Communications』誌に掲載され、CRISPR-Cas9を既存のARTと組み合わせた場合に相乗効果を発揮し、生体のゲノムからウィルスを排出することに成功したとしています。これは史上初の功績なんです。

遺伝子を改変され、人間により近い遺伝子配列を持つマウスでの実験で、ルイス・カッツ・スクール・オブ・メディスン・アット・テンプル大学のカーメル・ハリリ博士率いる研究チームは、HIVに感染させたマウスのうちの30%以上で、HIVウィルスを完全に体内から排除することに成功したとしています。完璧な結果が得られたわけではないとするものの、これは期待を持ってよいのでは。

「これで人間以外の霊長類での実験に進むことができます。数年のうちに人間の患者で臨床治験を行なうことができるはずです」

ハリリ博士はプレスリリースで頼もしげに言っています。

ハリリ博士は、ベンチャー企業「Excision BioTherapeutics」の創設者であり、主な科学顧問でもあります。フィラデルフィアを拠点に、CRISPRを使用したウィルス性疾患の治療を目指しています。UNAIDSによれば、世界には約3700万の人々がHIV-1に感染していると言われており、5000人以上が毎日新たに感染しているのです。

チームが臨床治験に進みたいのは山々なのですが、新しい研究だけに慎重には慎重を期す必要があります。成功率が低いことについて説明しなくてはならないのに加え、CRISPR編集が「がん」などの長期の副作用を引き起こすことがないことを証明しなくてはなりません。

AIDSには根治療法がないAIDSに対抗する抗HIV療法は、多くの人の生活を変えましたが、根治治療ではありません。患者はHIVウィルスを検査して体内に危険な量が出現しないよう定期的に確認し、投薬を受け続けなくてはなりません。現在求められているのは、体内からHIVを完全に消し去る治療法です。これこそハリリ博士が数年かけて研究を続けているものなのです。

先行研究以前ハリリ博士のチームは論文でCRISPRを使用して感染したHIVのDNAに感染したゲノムを切除できることを示しました。しかし、このアプローチでは抗HIVと同様、完全にウィルスだけを完全に消去することはできませんでした。新しい研究により、ハリリ博士はネブラスカ・メディカル・センター大学の感染症学と内科医学の教授である、ハワード・ジェンデルマン博士とタッグを組んでいます。

ジェンデルマン教授は、LASER(Long Acting Slow Effective Release)と呼ばれる新しい形でARTにアプローチしていました。このシステムはHIVウィルスが隠れる細胞の潜伏場所である細胞の貯留スポットを標的にします。また長期間ウィルスが繁殖するのを抑える能力があります。 このためには、HIVウィルスが休眠のすみかとする組織に広がるよう薬をナノ結晶で包む必要があります。標的とする場所に届いたら、ナノ結晶は細胞の内部に数週間滞在するこができ、ゆっくりと薬を放出していくのです。

今回行なわれた実験ハリリ博士はこの新しいアプローチに目をつけます。「もしかしたら、LASER ARTによって完全にウィルスのDNAを消し去るのに十分な時間だけ体内にCRISPR-Cas9を維持させることができるため、HIVの繁殖を抑えられるのではないか」と考えたと、プレスリリースで語っています。

実験では生物工学によりHIVに感染できるよう人間のT細胞を組み込んだマウスを使用しています。LASER ARTとCRISPR-Cas9を組み合わせることにより、HIVに感染させたマウスのうちの三分の一でHIVのDNAを完全に除去したとしています。HIVが好んで隠れ家とし休眠する血液、骨髄、 リンパ組織にはウィルスが跡形もなくなっていたとのこと。またマウスの細胞にも損傷は認められなかったとも付け加えています。

第三者的立ち位置の専門家からは「懸念すべきことがある」シティ・オブ・ホープの遺伝子治療センターのケビン・モリス教授は米ギズモード編集部に「非常にエキサイティングな論文です」と語ってくれました。モリス教授はこの新研究には関わっていません。また、「HIVに感染したマウスからHIVウィルスを除去できた」ということは「懸念すべきことがある」とも。それでは一体何が問題となるのでしょう。

「まずがんを発症する危険性があります」とモリス教授。

「このアプローチは体内で長期間持続させなくてはならない遺伝治療に依存しなくてはならないのです。CRISPRはHIVを細胞から除去するだけでなく、体内の他のものも制御不能な形で消し去る可能性が秘められています。これにより人間の細胞ががん化してしまうかもしれないのです」

その危険についてはさておき、HIVに感染したマウスからウィルスを除去するという、コンセプト自体はよいものだと思うとモリス教授。

ちなみに、この研究は多分野にわたる研究者が関与しています。ウィルス学者、免疫学者、分子生物学者、薬理学者、また医薬の専門家も参加しています。いずれにせよHIVの治療の道は一筋縄にはいかないでしょう。それでも、これだけの分野の専門家が一丸となってそれに挑むというアプローチは、わたしたちに一筋の希望の光を与えてくれたのではないでしょうか。

GIZMODO

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