北極の暑さ、もはや一線を超えた? 森林火災が史上最多ペース

8月4日(日)22時0分 GIZMODO


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7月23日、シベリアの森を焼く野火。Image: Pierre Markuse (Flickr)

猛暑は北極まで。

北半球全体的に暑い暑い夏、その中でも多少過ごしやすそうな北極圏でも、不快指数がピークに達しつつあります。不快というか、不安といったほうがいいかもしれません。ヨーロッパの記録的猛暑を引き起こした熱波がグリーンランドに到達して氷を溶かし、地球全体の海面をぐっと高めようとしているんです。それだけじゃなく、あちこちの大陸で森林火災が引き起こされ、大気中に二酸化炭素を放出しています。海氷は記録的に小さく、薄くなっています。

今年の北極圏の暑さが危険な一線を超えつつあるのかどうか、専門家の間でも意見が分かれるところではあります。でもとにかく、悪い意味での大きな変化が起きつつあることは否定できません。一線を超えるのが今年なのか10年後なのかはともかく、恐ろしいのは、超えた先に何があるのかわからないということです。

過去数十年、北極圏は現在の混乱へと突き進んできました。二酸化炭素で地球全体が温暖化されていますが、特に北極圏の気温は全体の2倍のペースで上昇しています。2019年の夏は、そのことが浮彫りになりました。

北極圏での森林火災、過去1万年で最多レベル以下に今起きている現象をまとめていきますが、まずは北極圏の大半を巻き込んでいる森林火災について見てみましょう。火災はアラスカ、カナダ、ロシア、そしてグリーンランドにまで及びました。グリーンランド以外では、北極圏のツンドラ生態系の南端に達する寒帯森林まで火災に飲み込まれています。カナダのゲルフ大学の火災生態学を専門とする准教授、Merritt Turetsky氏は取材に対し、北極圏での森林火災そのものは異常ではなく、これらの地域は火災に依存する生態系であると教えてくれました。それでも気候変動でその関係が変化していて、今年の山火事はその顕著な例だと言います。

「今年の森林火災シーズンは普通ではありません」とMerritt氏。

「世界中の複数の大陸で、北は火災によって形成されています。大事なことは、大規模な森林火災がより頻繁に起きているのは長期的な10年単位のトレンドで、50年以上前より頻繁になっているということです。私たちは今、大きな仕組みが目の前で変化するのを目撃しているのです。」

北極圏の火災そのものの記録からわかる変化は10年とかの単位ですが、湖の堆積物の分析ではもっと長期間での変化を見ることができます。木炭やいろいろな同位体について年代推定を行うことで、数千年前に起きた火災までさかのぼれます。数年前に発表された研究では過去1万年の森林火災の頻度を推定し、それと現状を比較した結果、案の定最近の火災の頻度が突出していることを明らかにしました。

「私の科学者としての仕事は、データを批判的にバイアスのない見方で検討することですが、この変化の速さには心が痛みます。(略)地球で一番魅力的な場所が燃えるのを、力なく見ていることしかできないなんて」上記の研究に携わったシラキュース大学の研究者、Melissa Chipman氏はメールで語りました。

今が転換点なのかと聞いたところ、Chipman氏の答えは「イエス」でした。ただそれは「火災が劇的に増えるような温度・湿度条件のしきい値(いわゆる「転換点」)」があるという意味においてです。

「アラスカやシベリア、グリーンランド(!)で今起きている火災は、最近の気象条件が、火災が発生するのに十分なほど乾燥して高温であり、またバイオマスが燃えるのに十分乾燥しているという事例です。」

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの環境地理学准教授で自然火災を専門とするThomas Smith氏は、現状は転換点というより「しきい値」と言うのが妥当ではないかと示唆しています。

「転換点というと『もう元に戻れない状況』という感じですが、今はそうではありません」とSmith氏。

「燃料の湿度が上がりさえすれば、火災の確率は下がります。こうした火災は良好な循環サイクルに貢献しています。ただし泥炭火災(植物の再生によって隔離されない)からの温室効果ガスは気候変動を進め、その後の泥炭火災の可能性を高めてしまいます。」

たしかに泥炭火災は一番の問題で、2019年6月だけでもスウェーデンが1年かけて排出する分を超える炭素を排出しました。寒帯森林は大気から炭素を吸い出して泥炭の豊富な土壌に貯蔵してくれますが、こうした泥炭の土壌は気温上昇で燃えやすくなり、しかも燃えた後は鎮火したように見えてくすぶり続け、越冬して「ゾンビ火災」となります。アラスカでは実際そう名付けられています。

「ここに蓄積されるまでに数千年かかった炭素が、ボンと一瞬でなくなってしまうのです。」Chipman氏は語りました。


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6月27日、カナダのノースウエスト準州での森林火災。
Image: Pierre Markuse (Flickr)
古代以来前例のない暑さどう切り取ったって、これらの森林火災は将来の北極の姿を映しています。暑くて乾燥していれば、火災が多くなるんです。Turetsky氏いわく、寒帯森林、特に北米の針葉樹林は「これから50年、同じ見え方ではいられないだろう」と言います。これによって火災と森林、森林と気候の関係は変化し、寒帯森林は落葉樹林や草原に置き換わっていくものと考えられます。

古代の気候を研究すれば未来へのヒントにはなりますが、今北極圏で起きているような急速な変化には前例がありません。現在の火災も怖いんですが、この先の森林火災がどうなっていくかわからないことも本当に恐ろしいです。まるでパイロットとしての訓練をしていないのに、目が見えない状態で飛行機を着陸させようとしているようなものです。

北極圏の夏の変化の中で、森林火災は全体の一部に過ぎません。グリーンランドは熱波を受けて、1950年以来最大の範囲で地表の氷が溶けています。先日グリーンランド東北地域で打ち上げられた気象観測気球は、下層大気で史上最高気温を観測しました。2012年7月、氷床がほとんど溶ける異常事態が発生したのですが、今年はそれに次ぐ規模の60%が溶けるという予報も出ています。

リエージュ大学の北極研究者、Xavier Fettweis氏によれば、グリーンランドの氷は7月末からの1週間だけで4000万トンも溶けた可能性があり、それは地球全体の海面を0.65ミリ上昇させるのに相当する量です。氷床から生まれる川はすでに怒涛の勢いで流れていて、これから熱波がさらに強まれば下流の地域が危険にさらされるレベルです。Fettweis氏は、2050年までにはこんな夏が「普通」になってしまうだろうと警告しています。

The Naujatkuat River in West Greenland running high in end of July, my gauging station is perched on the bedrock. With the exceptional heat wave coming I have my fingers crossed for it not being washed away. pic.twitter.com/JPofxDIELN

— Irina Overeem (@IrinaOvereem) July 30, 2019

氷が溶けているのは現在の気象条件のせいですが、それはより大きな傾向と合致しています。氷床は森林火災から来るチリとすすで黒ずみ、より熱を吸収しやすくなっています。実際、2012年に氷床が溶け切った一因はロシアでの森林火災で発生したすすだったのです。ただ、ヨーロッパの地球観測プログラム・コペルニクスの火災専門家、Mark Parrington氏いわく、今年の夏の火災の間は北からの風が吹いていないので、それによって氷床と海氷の溶解がこれでも抑えられている可能性があります。ただしParrington氏は、火災から出る汚染物質がどれくらい氷に到達しているか具体的に計算したわけではないとも言っています

研究によれば、よりたくさんの森林が燃えて氷床がさらに黒ずみ、気温が上昇していくと、今世紀末には2012年に起きたようなメルトダウンがもはや毎年の風物詩になってしまうかもしれません。

北極圏の氷床は今、この時期としては記録的に小さくなっています。7月末の熱波は強烈でしたが、それがなくても北極の氷は9月までどんどん縮小を続けます。そしてこれらはすべて、1970年代以来10年ごとに13%ずつ小さくなっている海氷サイズの長期トレンドと完全に一致しています。

「全体的に私は、今年の夏もまったく驚いていません」カリフォルニア大学アーバイン校の博士課程の研究員、Zack Labe氏は取材に対し語りました。「我々は北極の温暖化、そして海氷の面積と厚さの縮小を、リアルタイムに見ているのです。」

専門家がもはや驚きもしないという事実は、恐怖でしかありません。

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