高速化する車載ネットワーク技術 - 最適な通信プロトコルを考える

8月21日(水)7時55分 マイナビニュース

一般的に現代の自動車には、100個ほどの電子制御ユニット(ECU)が搭載されています。高級車であればその数がさらに多くなっている可能性があります。ECUは、ブレーキやトランスミッションの制御から、エンジンや空調の管理まで、あらゆる種類の機能を制御しています。現在ECUは、多重バスを通じて相互に通信を行っています。しかしパフォーマンスレベルの向上と迅速な応答がシステムに要求される中で、この先、車載ネットワークプロトコルにも変化を余儀なくされるでしょう。

近年、自動車メーカーのエンジニアリングチームが、新しいデータ集約型の機能を設計しており、その機能をサポートするため、車載ネットワークのインフラで必要とされる帯域幅が急激に増加しています。たとえば、先進運転支援システム(ADAS)技術がさらに普及すれば、大量のデータの取得と処理が不可欠になります。加えて、今後10年の間に全自動運転が進めば、処理が必要なデータが桁違いに増えることは間違いありません。

ローカル相互接続ネットワーク(LIN)やコントローラエリアネットワーク(CAN)など従来のプロトコルは、依然として広範に採用されているとはいえ、運用上の限界がますます明らかになっています。それらのプロトコルを補完するものと見られていたMedia Oriented Systems Transport(MOST)やFlexRayなどの高帯域幅のプロトコルも、期待されたほどの牽引力を発揮していません。

一方、自動車メーカーと一次供給パートナーは、多数のバスに依存する形態から、より均質なネットワーク構成に移行する動きを見せています。均質なネットワークであれば、高速なデータ転送と低遅延が実現します。また関連するケーブル接続が減ることでBOMコストが抑制され、燃費が向上します(ケーブルハーネスは車体重量にさほど影響しません)。最終的に運用上のセキュリティが向上し、大きな脅威に発展し得るサイバー攻撃を防御できます。
○イーサネットの優れた特性

次世代の車載ネットワークインフラで想定されるデータ転送の需要に応えるうえで、自動車業界が有望視しているのがイーサネットです。主にエンタープライズ、産業分野で利用され、長い歴史を持つ通信プロトコルであるイーサネットは、コンポーネント、ソフトウェア、ツールなどについて再利用可能な余地が大きいのが特徴です。BMW、Broadcom、Freescale、Harman、Hyundai、NXPなどの有名企業で構成された業界団体であるOne-Pair Ethernet(OPEN)Alliance Special Interest Group(SIG)は、イーサネットベースの通信を将来の車載ネットワークの基盤として位置付けており、IEEEが定義する自動車関連規格の導入を奨励しています。

車載用としてのイーサネットでは、従来型のイーサネット技術では問われなかった、エンジニアリングに伴うさまざまな要素を考慮する必要があります。データは単一の非シールドツイストペア銅線ケーブルで送信されます(従来のような複数のケーブルペアは不要です)。そのため実装が容易であり、必要なスペースも低減します。高温という要因や、静電放電(ESD)事象や電磁干渉(EMI)の影響を受ける可能性も考慮しなければなりません。車載イーサネットPHYトランシーバは、妥協できない運用環境にあっても、信号品位が影響を受けないように、許容可能なビット誤り率(BER)を維持できなければなりません。

もう1つの重要な要素が確定的運用です。ADASの導入が進み、全自動運転が普及すれば、周囲の状況にリアルタイムに反応し、乗員や他の道路利用者の安全を確保するために、低遅延のデータ転送が必要になります。ネットワークに組み込まれているPHYも、低電力モードに対応している必要があります。エンジンをオフにすると、ECUやその他のハードウェアはスリープモードになります。一方PHYは部分的に電源がオンのままになり、ネットワーク上で何らかの動作があった場合にシステムが起動します。現在のイーサネットPHYは高度に統合されており、多くの場合他のコンポーネント(電圧レギュレーターなど)は必要としません。そのためエネルギー消費特性が大幅に向上し、バッテリー寿命が長くなります。

100BASE-T1イーサネットプロトコル(IEEE 802.3bw)は、初期の車載イーサネット導入に伴う、データ転送速度の段階的な高速化に対応することを意図して開発されたものです。その結果、半二重通信による100Mbpsの転送速度と相対的な低遅延が可能になり、運転中に適応制御を効果的に管理できるようになりました。100BASE-T1はオーバーラップの原理を適用し、特定のエンコーディングとスクランブリングのシステムを利用することで、EMIの軽減を実現しました。さらに高度になった1000BASE-T1プロトコル(IEEE 802.3bp)では、全二重モードの通信によって、最高速度1Gbpsのデータ転送が可能になっています。また数年以内にマルチギガビット単位のデータ転送速度が必要になると予想されることから、それに対応するイーサネット規格が開発段階にあります。
○車載用イーサネットのポートフォリオ

現在、自動車用イーサネットICの種類が増え続けています。NXP、Microchip、Broadcomなどが積極的に導入を進めながら、標準化プロセスにも深く関与しています。NXPの「TJA1100」(図1参照)は、シングルポートの100BASE-T1イーサネットPHYであり、100Mbpsのデータ転送速度を実現しています。

これは低電力での運用に最適化されたもので、1.8V LDO電圧レギュレータを内蔵しており、ローカルでのウェイクアップをサポートするスリープモードに対応しています。AEC-Q100に完全に準拠し、動作温度範囲は-40℃〜+125℃となっています。Texas Instruments(TI)の100MbpsイーサネットPHY「DP83TC811S-Q1」は、広範な独立型マルチメディア・インタフェースをサポートしています。システムがケーブル破損を監視して検出し、温度と電圧の変動、さらにESDストライクに反応できるように、このデバイスには総合的な診断ツールキット(図2参照)が搭載されています。

Microchipの「KSZ9031RNX」(図3参照)は、鉛フリーの48ピンQFNパッケージで1Gbpsの最大データ転送速度をサポートする、最新の車載向けに最適化された3倍速(10BASE-T/100BASE-TX/1000BASE-T)イーサネットPHYです。オートネゴシエーション機能により、対応可能な最高接続速度が自動的に選択されます。このICにはLDO電圧コントローラが搭載されており、1.2Vのコア電圧を供給する低コストのMOSFETを駆動しています。

またBroadcomの10BASE-T/100BASE-TX/1000BASE-T PHY「BCM89610」も最高1Gbpsをサポートしています(図4参照)。この製品は業界をリードするノイズキャンセレーション機能とトランスミッション・ジッター機能を備え、多様な品質のケーブルを接続して使用できます。

○まとめ

車載ネットワークのインフラを経由するデータ量の増加に対応するには、高パフォーマンスが標準化されたインタフェースと通信プロトコルが必要であることは明らかです。車載システムの規模と複雑さが増大し、サポートすべき機能の領域が拡張し続ける中で、ICメーカーは、必要とされる高度なテクノロジーを提供しながらコストも削減するというプレッシャーにさらされています。

イーサネットはこうした問題に対応します。車載に最適な、広範に利用可能で安定した通信プロトコルであり、将来のデータ転送の高速化にも対応できます。

著者プロフィール
Mark Patrick
Mouser Electronics
テクニカル・マーケティング・マネージャ

Mouserでヨーロッパ地区向けの技術コンテンツ(ホワイトペーパー、ブログ)の作成を担当

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