オンラインゲームで顔と心拍数を表示すると心の距離が縮む、筑波大が発表

2024年8月23日(金)17時49分 マイナビニュース

筑波大学は8月22日、オンライン(OL)コミュニケーションツールにおいて、心理的距離を近づけるには、「一緒に居る」という感覚の「社会的存在感」が重要なことから、生体信号の視覚的共有が、互いに面識のない人同士によるOLゲーム時の社会的存在感に及ぼす効果の検討が行われた結果、プレーヤーの心拍数と顔を同時に表示すると、互いの視線を十分に引きつけることがわかり、社会的存在感が対面プレーとほぼ同等のレベルにまで高まることがわかったと発表した。
同成果は、筑波大 体育系の松井崇助教、同・大学 システム情報系のModar Hassan 助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、IEEEが関心を寄せるすべての分野を扱う学際的な学術誌「IEEE Access」に掲載された。
現在、インターネットを介したさまざまなコミュニケーション手段が存在するが、それらにおいて面識のない人同士の心理的距離をどのように縮めるかについての関心が高まっている。この心理的距離を縮めるという感覚を、社会的存在感という。
社会的交流を促進するインタラクティブなメディアの一形態に、ビデオゲームがある。特に、多人数参加型のOLゲームでは、競争や協力などの仕組みが組み込まれているため、プレーヤー間の相互作用が多く発生する。しかし、OLゲームにおいては社会的存在感が生じにくく、他のプレーヤーと空間を共有していることを説得力を持って感じられる没入体験を作り出すことが重要な課題となっている。
そうした中で、コミュニケーション技術を使うユーザーの身体的、感情的、および認知的状態の解釈に役立つとされているのが、心拍、筋肉活動、精神発汗、脳波など、身体性に根ざした生体信号だ。そこで研究チームは今回、OLゲーム時の自分の心拍数を対戦相手と互いに共有することが、面識のない相手との社会的存在感の形成に及ぼす影響を検討することにしたという。
まず、心拍数などの各種センサ情報(生体信号)と顔画像を、OLのクラウドシステムを介して対戦相手と互いにゲーム画面にリアルタイムに表示・共有できるプラットフォーム「BioShare(バイオ・シェア)」が開発された。そして同システムの利用が、OLコミュニケーションにおける社会的存在感を促進するのかどうかを、互いに面識のないプレーヤー同士のゲーム対戦において検討された。
実験にはゲーム経験のある若齢成人男女20名が参加し、それぞれ見知らぬ相手との5試合のバーチャルサッカーゲームが、以下の5条件で実施された。
相手と対面するオフラインプレー(対面条件)
相手に関する情報を一切得られないOLプレー(OL条件)
相手の顔のビデオが表示されるOLプレー(顔のみ条件)
相手の心拍数が表示されるOLプレー(心拍のみ条件)
相手の顔と心拍数が表示されるOLプレー(顔+心拍条件)
ゲーム中には、プレーヤーが生体情報の表示を見ているかどうかをアイトラッカーで分析し、プレー直後に社会的存在感に関するアンケートが実施された。
その結果、プレーヤーは3や4において、顔や心拍数が示された画面の一部を確かに見るようになることが判明。さらに、その部位は5で最も多く見られていたという。一方、当該部位は、対面条件やOL条件ではまったく見られなかったとした。この時の社会的存在感は、3や4では2よりは高まるものの、1には及ばなかったとする。しかし、5の社会的存在感は、1とほぼ同等のレベルにまで高まったとした。
以上の結果は、生体情報のリアルタイム共有が、OLゲームのようなサイバー空間でのコミュニケーションにおける社会的存在感を引き出すことを明確に示すものだという。さらに、生体情報と顔のビデオを組み合わせて共有すると相乗効果が認められ、対面プレー時と同等の社会的存在感が醸成されたことから、生体信号と表情という「非言語的な身体性要素の統合」が、物理的存在である人間のコミュニケーションにとって重要である可能性があるとした。
今後は、心拍信号の視覚共有の提示デザイン(サイズ、色、位置など)をブラッシュアップし、多人数によるコミュニケーションでの効果も確認しながら、BioShareの効果と適用範囲を最適化していくという。また、今回は視覚的共有のみが検討されたが、触力覚デバイスなどのさまざまな手法とその効果を、脳波、筋電図、発汗、体温、ホルモン濃度など、社会的存在感の形成メカニズムに基づいて探求することで、より豊かなBioShare体験を構築できることが考えられるという。こうした取り組みを通じて、OLゲームに限らず、現代人の大きな健康リスクである「孤独」を前向きに解消できる、豊かな「サイバー・コミュニケーション」のあり方を構築していくとしている。

マイナビニュース

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