神戸大、木星衛星ガニメデに直径300kmの巨大小惑星が衝突していたと発表
2024年9月6日(金)10時17分 マイナビニュース
神戸大学は9月4日、惑星である水星よりも大きく、太陽系最大の衛星である木星の第三衛星「ガニメデ」を調査したところ、約40億年前、直径約300kmの小惑星(約6500万年前に恐竜を絶滅させた小惑星(チクシュルーブ衝突体)の約20〜30倍のサイズ)が衝突し、同衛星の自転軸を激変させていたことを発見したと発表した。
同成果は、神戸大大学院 理学研究科の平田直之助教によるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
ガニメデにはユニークな特徴が複数あるが、そのうちの1つが、ボイジャー1・2号が1979年に木星をフライバイ観測した際に発見された溝状の構造地形の「ファロウ」(「畑の畝(うね)と畝の間の溝(畝間)」を意味する言葉で、あたかも畑の畝間のように整然と並んだ溝が表面にあったことからそう命名された)。
ファロウが重要な点は、ガニメデで最も古い地形だという点。ガニメデには層序的に同構造よりも古い地形がなく、ガニメデが形成されて間もない時代(約40億年前)をうかがうことができる、「化石」のような貴重な記録だという。1980年代の研究で、同構造はガニメデのある1点に対して同心円状に並んでいることが発見され、小惑星が衝突した痕跡であると結論づけられた。平田助教らが2020年に発表した論文によれば、同構造の規模に基づいて、衝突した小惑星が直径100〜300km程度であることが示されていた。しかし、衝突した小惑星の大きさは依然として不確かであり、大規模な衝突だったにも関わらず、ガニメデにどのような影響があったのかについてもわかっていなかったとする。そこで平田助教は今回、そうした謎に迫ることにしたという。
ファロウは、月の南極エイトケン盆地に匹敵する太陽系で最大規模の衝突構造とされ、その衝突はガニメデの初期の歴史に大きな影響を与えたことが予想される。しかし、その実像のほとんどがわかっていない理由は、まだガニメデのデータが少なく、地形や重力異常などの測地学的データすら得られていない状態のため。
そうした中、今回の研究で突破口となったのが、ファロウの中心の位置だという。同構造の発見から45年が経って平田助教が初めて発見したのが、その中心が木星からの潮汐力が最大になる「潮汐軸上」と一致しているという事実だった。これは測地学的な知見に基づくと、同構造の中心付近に大きな「正の重力異常」があるということを示唆しており、その発見により、同構造が形成された際の衝突についてさまざまなことがわかってきたとする。
小惑星が落ちると、その衝撃や、結果として巨大なクレーターができたり、衝撃で弾き出された大量の岩塊が降り積もったりすることによって、表面や地下の構造が大きく変わる。これによってその変化のなかった周囲と比べて密度分布にむらが生じ、重力的に異質な状態の「重力異常」になる(恐竜を絶滅させた衝突の痕跡である「チクシュルーブ・クレーター」にも重力異常が確認されている)。
天体表面に正の重力異常が生じると、その重力異常に引っ張られて自転軸が多少変化することがわかっている。つまり、重力異常が大きければ、自転軸も大きく変化することになる。そこで今回の研究では、ガニメデ表面の衝突の規模に対し、どれくらいの重力異常が生じるのかが計算された。そして重力異常の規模に対してガニメデの自転軸がどのように変化するかも調べられた。
その結果、潮汐軸とファロウの中心の一致を説明できるような重力異常を作り出せるのは、直径300kmの小惑星が衝突したと仮定する場合が最も整合的だったという。この時の衝突で、直径5300km弱のガニメデに700kmもの巨大なクレーター(チクシュルーブ・クレーターは約180km)が一時的に形成されたはずであり、生じた重力異常によって、自転が安定するまでの1000年にわたりガニメデを振動させたことが考えられるという。この衝突の規模は、痕跡が明確に残っているものの中では太陽系最大であり、まさに太陽系史上最大の天体衝突イベントの1つだったと考えられるとした。
このような大きな衝突が天体にどのような影響を与えるのかについてはまだ謎が多く、天体の表層進化・構造進化・熱進化という観点で貴重な事例であり、今後のさらなる研究によって、月・地球やガリレオ衛星の初期進化に関する研究の進展も期待できるとしている。
また、日本も参加している欧州宇宙機関主導の木星氷衛星探査計画「JUICE」や、NASAの木星氷衛星探査計画「エウロパ・クリッパー」が2030年代に木星圏に到着し、ガニメデの探査も実施する予定だ。それらによって、この巨大衝突についてのさらなる事実が発見されていくことが期待されるとしている。
同成果は、神戸大大学院 理学研究科の平田直之助教によるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
ガニメデにはユニークな特徴が複数あるが、そのうちの1つが、ボイジャー1・2号が1979年に木星をフライバイ観測した際に発見された溝状の構造地形の「ファロウ」(「畑の畝(うね)と畝の間の溝(畝間)」を意味する言葉で、あたかも畑の畝間のように整然と並んだ溝が表面にあったことからそう命名された)。
ファロウが重要な点は、ガニメデで最も古い地形だという点。ガニメデには層序的に同構造よりも古い地形がなく、ガニメデが形成されて間もない時代(約40億年前)をうかがうことができる、「化石」のような貴重な記録だという。1980年代の研究で、同構造はガニメデのある1点に対して同心円状に並んでいることが発見され、小惑星が衝突した痕跡であると結論づけられた。平田助教らが2020年に発表した論文によれば、同構造の規模に基づいて、衝突した小惑星が直径100〜300km程度であることが示されていた。しかし、衝突した小惑星の大きさは依然として不確かであり、大規模な衝突だったにも関わらず、ガニメデにどのような影響があったのかについてもわかっていなかったとする。そこで平田助教は今回、そうした謎に迫ることにしたという。
ファロウは、月の南極エイトケン盆地に匹敵する太陽系で最大規模の衝突構造とされ、その衝突はガニメデの初期の歴史に大きな影響を与えたことが予想される。しかし、その実像のほとんどがわかっていない理由は、まだガニメデのデータが少なく、地形や重力異常などの測地学的データすら得られていない状態のため。
そうした中、今回の研究で突破口となったのが、ファロウの中心の位置だという。同構造の発見から45年が経って平田助教が初めて発見したのが、その中心が木星からの潮汐力が最大になる「潮汐軸上」と一致しているという事実だった。これは測地学的な知見に基づくと、同構造の中心付近に大きな「正の重力異常」があるということを示唆しており、その発見により、同構造が形成された際の衝突についてさまざまなことがわかってきたとする。
小惑星が落ちると、その衝撃や、結果として巨大なクレーターができたり、衝撃で弾き出された大量の岩塊が降り積もったりすることによって、表面や地下の構造が大きく変わる。これによってその変化のなかった周囲と比べて密度分布にむらが生じ、重力的に異質な状態の「重力異常」になる(恐竜を絶滅させた衝突の痕跡である「チクシュルーブ・クレーター」にも重力異常が確認されている)。
天体表面に正の重力異常が生じると、その重力異常に引っ張られて自転軸が多少変化することがわかっている。つまり、重力異常が大きければ、自転軸も大きく変化することになる。そこで今回の研究では、ガニメデ表面の衝突の規模に対し、どれくらいの重力異常が生じるのかが計算された。そして重力異常の規模に対してガニメデの自転軸がどのように変化するかも調べられた。
その結果、潮汐軸とファロウの中心の一致を説明できるような重力異常を作り出せるのは、直径300kmの小惑星が衝突したと仮定する場合が最も整合的だったという。この時の衝突で、直径5300km弱のガニメデに700kmもの巨大なクレーター(チクシュルーブ・クレーターは約180km)が一時的に形成されたはずであり、生じた重力異常によって、自転が安定するまでの1000年にわたりガニメデを振動させたことが考えられるという。この衝突の規模は、痕跡が明確に残っているものの中では太陽系最大であり、まさに太陽系史上最大の天体衝突イベントの1つだったと考えられるとした。
このような大きな衝突が天体にどのような影響を与えるのかについてはまだ謎が多く、天体の表層進化・構造進化・熱進化という観点で貴重な事例であり、今後のさらなる研究によって、月・地球やガリレオ衛星の初期進化に関する研究の進展も期待できるとしている。
また、日本も参加している欧州宇宙機関主導の木星氷衛星探査計画「JUICE」や、NASAの木星氷衛星探査計画「エウロパ・クリッパー」が2030年代に木星圏に到着し、ガニメデの探査も実施する予定だ。それらによって、この巨大衝突についてのさらなる事実が発見されていくことが期待されるとしている。