「配管の状態がわからない」、建設業のスタンダードを変えたロボットとは?
2024年9月6日(金)10時14分 マイナビニュース
暮らしに欠かせない配管修理の現状
配管は我々の生活には欠かせない存在である。中でも今回同社が注目したのが、住宅・ビル・工場における配管。普段、意識されることが少ないそうした配管に対して、船橋氏は「人間も外見には気を使うことは多いですが、自身の内臓のメンテナンスにまで意識が向いているかというとそうではない人もいるでしょう。しかし、内臓に問題があれば重い病気を発症するなど大事になりますよね。配管もそうした人間の内臓と一緒で普段目に見えてない分、おろそかにされがちですが、故障してしまうと水が思うように使えなかったりと大事になります」とその重要性を語る。
建物の老朽化に伴い、配管にも故障が生じて流れ不良が起きたり、水が出なくなったりした場合、水関係であれば水道局が検診に来ることになるが、配管は建屋のコンクリート内部に隠されているため、どこかに故障が生じ水が漏れていることは分かっても、実際にどこで漏れているかは分からないという問題が多々あるという。そのため、配管が壊れた場合、すべての配管を入れ替えることが多く、膨大な予算が必要となるが、点検がしにくいこともあり、何か問題が起きてから修理をすることが業界のスタンダードとなっているとのこと。
また、公共施設である駅などでは改装されるたびに配管が増えていくことが多いというが、古い建物になると、そもそもの図面が現存していなかったり、図面の更新がされていなかったりと不明の配管ルートも多く、配管図面を整理したいという思いはあるものの、配管がどこにあるのか分からないまま長年放置されているケースも多いとのこと。
こうした「配管のルートがわからない」「配管の状態がわからない」「ピンポイントで修理がしたい」といった多くの配管にかかわる人たちの声を受ける形で同社は、配管の中で自由に動き回ることができるロボットの開発をスタートさせたとする。
「配管くん」開発までの経緯と仕組み
もともとロボット開発を行っている会社ではなかったこともあり、構想を掲げた当初、社内からは反対の声が多かったという。しかし、今後の社会において配管ロボットの存在が必要不可欠になることを確信していた船橋氏はあきらめなかったという。
そして巡り巡って出会ったのが、立命館大学 理工学部ロボティクス学科生物知能機械学研究室が開発した連結車輪型配管内検査ロボット「AIRo」。
同社は研究室にコンタクトを取り、2018年より技術協力を得る形で、2020年11月より拠点である山形県内の学校や公共施設での試験導入を推進。2020年10月14日よりパイプ探査ロボット「配管くん」として本格的なサービスの開始に至る。
同ロボットは、複数のジグザグ型リンクを備えた自走式ロボット。関節に備わったバネにより、車輪を配管内壁に押し付けることで、水平だけでなく垂直の配管内も走行可能だ。また、車軸とリンク間の関節軸が同一直線状に配置してあるため、曲管走破性を損なわずに小型化が実現されており、先端と後端に備わった球状車輪によって、ロボットの姿勢を配管軸回りに転がすこともできるという。
この技術をベースとして前後にCMOSカメラとLED、ジャイロセンサ、角速度計を搭載し、直径100〜150mmの配管内を自由に移動しながら内部の映像を撮影、配管の状況を確認していくことを可能とした。また、現在までに配管の位置計測や診断と図面作成を行うソフトウェアも開発し、設備のメンテナンスやリニューアル工事の提案を行うサービスも展開するようになったという。
3種類の形態が用意されている配管くん
他社にも似たようなロボットはあるが、建設設備に特化し、マップデータの取得もできるところが独自の特長だと船橋氏は語る。
配管くんには3種類のラインナップがあり、「I型」はAIRoの技術を活用した最初のモデルとなる。口径が変わる配管も通過が可能で、配管内の画像やマップも保存することができる。
「II型」は、高圧洗浄ノズルに接続し水の力を使い、洗いながら前に進むAタイプと、船のように水流で配管内を移動するBタイプがあり、映像で内部状況を確認しながら、配管洗浄、マッピングが可能だ。
そして「III型」では、ファイバースコープ型のMTカメラが搭載され、MTカメラの周りに取り付けてあるバネワイヤーによる螺旋の力で、8箇所以上のエルボー、T字管など曲がりの多い小口径の管を通過することができるとする。従来の管内カメラでは届かなかった場所の内部撮影が可能になるほか、直径15mmと小さなサイズであるため、ガス管内の腐食状態も保守点検できるとのこと。
これらの配管くんを用途に応じてうまく使い分けていくことで、複雑に曲がっている配管でも見たい位置までカメラを入れることができるようになり、配管内部まで特別な技術を必要することなく手軽に点検できるようになるという。また、ロボットが通った軌跡をマップデータで取得できるため、配管図面を自動作成でき、工事や費用を最小限に抑えることができるメリットもあるとした。
配管くんの進化、今後の展望
船橋氏に配管くんの今後について聞くと、今後はガス管など水を使いたくない場所にて、水を使わずとも十分に動かせる配管くんを開発したいとのこと。II型、III型と形や性能は進化しているものの、現状、水を使わなくても駆動できるものはモーターが大きく持ち運びが大変であるほか、細い配管やくねくねと何回も曲がる配管だと、まだまだ不便なことも多いのだという。モーターを小さくすると駆動するための力が弱くなり動かすことができなくなるため、今後、水を使わずとも前進する力は大きく、さらに小型化軽量化が実現した配管くんを開発していきたいと意気込みを語っていた。
また、最後には「建設業を盛り上げたい」という開発にかける根本の思いも語ってくれた。「少子高齢化が進み、建設産業のキツイイメージもあってか、就職を希望する若者も減っています。でも人が生きていくには空間が必要で、水も必要です。建設産業はなくてはならない存在だと思います。そのため、今後もパートナーシップを全国へ広げていき、配管くんを通して建築設備業の地位向上を目指したいです」(船橋氏)
暮らしを陰で支えてくれている配管の見える化を実現させた弘栄ドリームワークス。今後もさまざまな機能を備え、さらにパワーアップを果たした配管くんの開発が続いていくことだろう。