どこでもサイエンス 第165回 磁石はノーベル賞の夢を見るか?

10月2日(水)8時13分 マイナビニュース

毎年10月初旬はノーベル賞の受賞者が発表される時期でございます。その中で人もしばしば候補にあがりつつ、受賞に至っていない「磁石」についてちょっとご紹介しますね。

毎年10月初旬のノーベル賞の受賞者の発表は、1年間を通じて、科学報道が一番燃える出来事でございます。特に6つあるノーベル賞のうち、科学3賞と言われる、物理学、化学、生理学・医学については、第二次世界大戦敗戦でズタズタになった日本のプライドを、湯川秀樹 先生(1949年)が中間子論の研究でノーベル物理学賞を受賞して救って以来?? ほんまに燃えるわけでございます。ちなみに、大阪のJR大阪環状線に乗ると、焼肉で有名な鶴橋と、ほぼ地元民しか知らない桃谷駅の間に、湯川胃腸病院というのがあって、これ、湯川秀樹さんの奥さんのスミさんの実家です(湯川さんは婿養子です)。

さて、ノーベル賞ですが、今年2019年は、10月7日に生理学・医学賞、8日に物理学賞、9日に化学賞の発表が予定されています。発表は日本時間で夕方の6時30分と6時45分で(遅れることがよくある)、ノーベル財団のネット中継で見られます。東京の日本科学未来館では、ニコニコ動画で解説を生中継するらしいですな。まあ、世間では2018年にノーベル賞の選考委員会のスキャンダルで見送られた文学賞が2年分発表で、村上春樹が受賞するか? が話題になるかもでございますが(え? 村上さんもう70歳なの? うーむ)。

ちなみに授賞式は、ノーベル賞の設置を遺言したスポンサー、アルフレッド・ノーベルの命日の12月10日ですが、まあその時には興奮がだいぶん落ち着いてしまっています。受賞スピーチが結構面白いのですけどねー。あ、そうだ、ノーベル賞についての楽しみ方は以前にも書いときましたのでご笑覧いただければ幸いでございますー。

さて、1901年に始まり、今や科学賞でも最高の権威を持つこのノーベル賞。LEDや光ファイバーなど身近な発明が受賞することもあれば、ダークエネルギーやら光子ピンセットのような非日常の不思議なものが受賞することもありますな。20世紀の初頭は、放射線や新しい元素の発見、素粒子に低温科学などが多く受賞していますし、最近は、実用的なものの発明も多いし、重力波やニュートリノなど宇宙についての発見もよく受賞していますな。

そんな中で、あまり受賞例がないジャンルがあります。それは「磁石」でございます。そう、アインシュタインも少年時代に魅了され、誰もが子供のころに世界の不思議の扉を意識するあの磁石です。Wikipedia にノーベル物理学賞のリストがありますので「磁」で検索すると…。

一見多そうに見えますが、そのほとんどが「磁石」そのものではないのですな。

上げてみると、1902年にローレンツとゼーマンが「放射に対する磁性の影響」、1943年にシュテルンが「核磁気モーメント」、1944年にラービが「原子核の磁気的性質の測定法」、1952年にプロッホとパーセルが「核磁気の精密な測定法」、1955年にクッシュが「電子の磁気モーメントの測定法」、1965年に朝永振一郎、シュウィンガー、ファインマンが「量子電磁力学の基礎研究」とあるのですが、まあこれらは、極微の世界の磁性の話でございます。1970年のアルヴェーンの「電磁流体力学」はプラズマ物理で、まあ大きな磁場に関する話ですが「磁石」ではないですな。

同じ1970年のルイ・ネールの「反磁性体とフェリ磁性」に至って、ようやくこれは、冷蔵庫の扉にはりついているのでお馴染みのフェライト磁石に関する研究ですので、磁石の受賞といってもいいかなというところです。

また、1977年のアンダーソン、モット、ブレッグの「磁性体と無秩序系の電子構造の基礎理論的研究」は、これはもう強力な磁性を持つ磁石の基礎研究といって良いですね。

そして2007年のフェールとグリューンベルグの「巨大磁気抵抗の発見」は、磁石応用の権化みたいなハードディスクの読み書きの効率化に貢献した発見でございますな。

なお、著名なキュリー夫婦は、放射線の研究でノーベル賞を受賞していますが、そのうち夫のピエール・キュリーは、磁石(強磁性体)が磁石じゃなくなっちゃう温度「キュリー温度」を提唱しています。まあ先端科学者が磁石を無視していたわけじゃないのです。磁石の発見も研究も、それこそ「中国の3大発明」になるように、千年単位のむかーしからあるので、第一回受賞のエックス線のように「人類が初めて知った」ということにならなかっただけでございます。

さて、その磁石ですが、最近、非常に強力になりましたな。おかげでNMR(核磁気共鳴装置)などの医療機器に応用されたり、リニアモーターカーが走ったり、いやいやスマホのバイブモーターや掃除機や扇風機のモーターが超小型、超高性能になったりしています。

それこそ紀元前から知られていた磁石が、こうも強力になったのは、磁性材料の発見と開発の歴史があるのですな。この辺りは、応用の話なのであちこちの磁石関係の団体や企業のWebサイトに、しっかりとした解説がございます。

ここではかいつまんでご紹介です。

まず、磁石そのものは紀元前から知られていました。大航海時代は羅針盤として使われますな。18世紀から19世紀にかけて、磁場と電磁場の関係がわかってきて、電磁石やらモーターやらが発明されます。ただこのころの磁石は「たまたまできた合金が磁石として使えるねえ」というレベルでございました。

20世紀になると、磁石の源となる磁性体の研究がされ、1917年に日本の(とよく紹介されますね)東北大学の本多光太郎さんと高木弘さんが、鉄・コバルト・タングステン・クロム・炭素の合金で、従来の3倍の磁力を持つKS鋼を発明しています。ここから強い磁石の開発が進み、本多さんやアメリカのエジソンが創業したゼネラル・エレクトリニック(GE)社などが、その発展型の強力なアルニコ磁石を開発していきます。

一方で、日本の(とよく紹介されます)の加藤与五郎さん、武井武さんは、1930年ごろ酸化鉄からフェライト磁石の開発に成功します。合金ではなく、瀬戸物が磁石になるという画期的なもので、今でも冷蔵庫や掲示板などで広く使われていますな。日本のTDKが量産で力を持ち、同社の看板となります。TDKは、磁石を中心に展示する博物館を秋田で公開しています。評判いいんですけど、私いったことがないんですよー。

そして、さらに強力な磁石が作られますが、それまでの鉄・ニッケル・コバルトだけではなく、まったく違う元素である、サマリウム、ネオジムを使ったのがポイントです。いわゆるレア・アースを使ったものですな。サマリウムを使ったのがサマコバ磁石。ネオジムはお馴染みのネオジム磁石です。その磁力は、従来のアルニコ磁石の5倍以上であり(フェライト磁石の10倍以上)、すごーく小さくて強力な磁石が作られるようになりました。おかげで、超小型のモーターなどが作れるようになったのですな。ソニーのウォークマンが実現したのは、この超小型のモーターによるところが大です。

さて、これらのレア・アースを使った磁石は画期的なものなのですが、今までノーベル賞の対象になっていません。ということで、注目されるわけです。

レア・アースを使った最初の磁石、サマコバ磁石は、1966年にアメリカのシュトルナート(Karl Strnat 故人)のチームが発明しています。

一方、同じくレア・アースを使い、世界を席巻しているネオジム磁石は、1982年に日本の佐川眞人さんが住友特殊金属(現在は日立金属)に在籍していた頃に発明しています。佐川さんは数々の科学賞を受賞していますが、ノーベル賞はまだですね。

さて、どうなりますかねー。

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