XMASS-I実験全データからはWIMPダークマター存在の有意な証拠は見つからず、XMASSコラボレーション
2024年10月8日(火)19時40分 マイナビニュース
同成果は、東京大学 宇宙線研究所 附属神岡宇宙素粒子研究施設の安部航助教を論文筆頭著者とする、30名強の研究者が参加した国際共同研究チームのXMASSコラボレーションによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する素粒子物理学や場の理論・重力などを扱う学術誌「Physical Review D」に掲載された。
XMASS-I実験は、世界最大の水チェレンコフ宇宙素粒子観測装置「スーパーカミオカンデ」などで知られる、岐阜県飛騨市神岡鉱山内の地下1000mに設置された約1トンの液体キセノンを用いた「XMASS-I検出器」を用いたダークマター検出実験である。
ダークマターは一般的に、通常物質とは重力以外では相互作用しないと説明されるが、極めてまれではあるが、通常物質の原子核と衝突(弾性散乱)することがある。中でもおよそ-100℃まで冷却された液体キセノンは、衝突時の発光量が多く、装置を10トンクラスに大型化しやすいこと、バックグラウンド(ノイズ)のもとであるウランやトリウムなどを極めて少なくできるなどの特徴を有するほか、検出器は800トンの水タンクの中にあり、外部から侵入する放射線が引き起こすノイズ事象の多くは水に吸収されてしまうことから、検出器の中心部(この部分を有効体積という)はノイズの少ない環境となり、中心部で発光した事象のみを選ぶことで高い感度での探索が可能になるとされている。
そして現在、ダークマターの候補は複数あるが、液体キセノンは、そのうちのWINP(Weakly interacting massive particle、ダークマターの候補の1つである仮説上の粒子)の一種である「ニュートラリーノ」(超対称性理論によって予言されている、光子やヒッグス粒子などの超対称パートナー)や、「アクシオン」および「アクシオン類似粒子」(強いCP問題を解決するために考案された仮装粒子とその類似粒子)、「ダークフォトン」(光子の類似粒子)を検出できると考えられている。
2019年の発表では705.9日分のデータを用いた解析結果が発表されたが、今回は1590.9日分のデータが用いられた。結果として有意な信号は見つからなかったとしたが、それによって散乱断面積の上限値を得ることができ、最も厳しい上限値は前回の1.6倍の60GeV/c2のダークマターに対する1.4×10-44cm2だったとした。
「季節変動解析」はもっと質量の小さいWIMPを探すことを目的としており、ダークマターの信号が季節で変動することを利用し、季節で変動をしないノイズ事象の中に季節変動をする成分があるかどうかを調べることでダークマターの信号探索を行うという内容である。質量が小さいWIMPは散乱時の発光がとても弱く、有効体積内での事象だけを選ぶことがうまくできないというが、ノイズは多くても、ノイズが時間的に安定であれば季節変動するWIMPの信号を探せるので、同解析の方が有利になるという。また、同解析では、有効体積内の解析と同じ原子核散乱による信号の探索だけでなく、発光が弱いキセノン原子の「制動放射」や「ミグダル効果」(原子核反跳において、低確率だが、追加の励起や電離が発生するという効果)が引き起こす信号の探索も行われた。
今回の1.6年分増加した4.4年分のデータを用いた原子核散乱による探索ではダークマターの質量8GeV/c2(前回の1.3倍)に対して2.3×10-42cm2、同様に4.4年分のデータでの電子散乱を用いた探索の制動放射からの信号に対してはダークマターの質量0.5GeV/c2(前回の1.5倍)で1.1×10-33cm2、今回初実施のミグダル効果からの信号では同じ0.5GeV/c2で1.4×10-35cm2という結果が得られ、前回よりも感度が向上した結果が得られたとした。有意な信号は見つからなかったが、上限値が得られたとしている。
XMASS実験は今後、液体キセノンを約5トンに増やし、改良型の光電子倍増管を用いることで感度を向上させる「XMASS-1.5」、最終的には液体キセノンの量を約20トンとすることで、低エネルギー太陽ニュートリノやニュートリノの質量を測定する二重ベータ崩壊の観測も行える「XMASS-II」の実現に向けて計画を進めていくとしている。