ウィリアム・シャトナー氏、最後の開拓地へ! 10分間の驚異に満ちた宇宙旅行

10月20日(水)15時23分 マイナビニュース

●シャトナー氏らを乗せた「ニュー・シェパード」宇宙船、打ち上げ成功
宇宙、それは人類に残された最後の開拓地である。
1966年、23世紀を舞台に新しい文明と生命を求めて宇宙を旅するSF作品『スタートレック』の放送が始まった。名優ウィリアム・シャトナー氏演じるカーク船長は、いまなお愛される伝説的なキャラクターとなった。
それから約半世紀。そのシャトナー氏が本当に宇宙へと飛び立った。人類最初でもなければ、わずか10分間の飛行ではあったが、驚異に満ちた物語がつむがれた。
シャトナー氏、宇宙へ
ウィリアム・シャトナー氏は1931年3月22日生まれの、現在90歳。1966年から放送されたテレビドラマ『スタートレック』で、ジェームズ・T・カーク船長を演じたことで知られる。その後製作された映画版にも出演し、そのうち1本では監督も務めた。
宇宙という人類に残された最後の開拓地を、新しい文明、新しい生命を求めて旅したカーク船長と、彼が率いるU.S.S.エンタープライズ号とそのクルーたちの冒険譚は、いまなお多くのファンに愛され、そして宇宙を志す人々を鼓舞し続けてきた。
世界一の大富豪として知られるジェフ・ベゾス氏も、そんな一人だった。Amazonの創業者として、ワシントン・ポストのオーナーとしても知られるベゾス氏だが、子どものころから宇宙開発に関心を持ち、宇宙に人が暮らす未来を思い描いていた。
2000年には、宇宙企業「ブルー・オリジン」を設立。宇宙旅行や科学実験を行える宇宙船「ニュー・シェパード」を開発し、さらに大型ロケット「ニュー・グレン」などの開発も続けている。さらに2012年には私財を投じて、アポロ計画で使われた「サターンV」ロケットのエンジンを海底から引き上げたり、2016年の映画『スター・トレック BEYOND』にも出演したりと、宇宙とスタートレックをこよなく愛してきた。
その彼にとって、自分の宇宙船で、カーク船長ことシャトナー氏を宇宙に招待することは、このうえない夢だったに違いない。
一方でシャトナー氏も、長い間実際に宇宙に行くことを夢見てきたという。
「昔から宇宙には関心があり、宇宙旅行もしたいと考えていました」(シャトナー氏)。
そんな中、今年7月にベゾス氏は、自らニュー・シェパードに乗り込み、初の有人宇宙飛行を実施。飛行は無事に成功し、人を乗せて飛行できることを実証した。そして満を持して、ベゾス氏はシャトナー氏にニュー・シェパードの搭乗券を渡し、宇宙へ招待したのだった。
10分間の宇宙旅行
シャトナー氏が乗るニュー・シェパードは、U.S.S.エンタープライズ号とは似ても似つかないロケットである。
全長は18mで、ロケットエンジンは1基。6人しか乗ることができず、最大速度もマッハ3。到達できるのは高度約100kmまでで、飛行時間はわずか10分間。宇宙の入り口に行って帰ってくることしかできない。惑星連邦の基準で言えば、ファースト・コンタクトを禁じられているほどの低い文明レベルの乗り物に該当する。
それでも、現代の地球人にとっては、宇宙進出に向けた大きな一歩となる乗り物である。
高度100kmからは青い地球や黒い宇宙を眺めることができ、また船内は微小重力(いわゆる無重力)状態になるため、宇宙にいる感覚を味わうことができる。これまで、その甘美な体験ができたのはわずか数百人に過ぎないが、ニュー・シェパードのような宇宙船の運用が始まれば、一気に増えていくことになる。
さらに旅行だけでなく、微小重力環境を使った実験を行うこともできる。宇宙旅行から科学実験まで一定の需要が見込まれており、その可能性は計り知れない。
ニュー・シェパードはこれまでに4機が製造され、今回の飛行までに17回の宇宙飛行を実施。初の飛行でブースターが着陸に失敗した以外はすべて飛行に成功しており、今年7月に打ち上げられた16回目の飛行では、ベゾス氏らを乗せて初の有人飛行にも成功した。
ベゾス氏からの招待を受けたシャトナー氏は、「この機会に、自分の目で宇宙を見てみたいと思っています。なんともミラクルな体験です」と語っている。
シャトナー氏ら4人の搭乗者を乗せたニュー・シェパードは、日本時間10月13日23時49分(米中央夏時間9時49分)、テキサス州にある同社の発射場「ローンチ・サイト・ワン」から離昇した。
ブースターは順調に飛行し、離昇から約1分後に音速を突破。成層圏を一気に駆け上がった。
離昇から約2分20秒後にはロケット・エンジンの燃焼が終了。慣性飛行に入り、やがてブースターと、シャトナー氏らが乗り込んでいるクルー・カプセルが分離された。
クルー・カプセルは離昇から約4分後に最高高度106kmに到達。シャトナー氏らは3〜4分間の微小重力状態を楽しみ、地球の壮大な景色を堪能した。飛行後に公開された映像には、輝く地球と漆黒の宇宙空間に魅了され、静かに見つめ続けるシャトナー氏の姿が映っていた。
やがてクルー・カプセルは降下を始め、そしてパラシュートを開き、離昇から10分17秒後、穏やかに着陸した。ブースターも無事に着陸している。
着陸後、宇宙船から降りたシャトナー氏は「世界中のみんなが、これを体験すべきです」とコメント。時折言葉をつまらせながら、「信じられない、とても信じられない体験でした。青い空気の覆いを突き抜け、漆黒の闇を見ました。これはものすごいことでした。まるで寝ているときにシーツを剥がされるように、私たちが青空だと思っているものを突き抜け、真っ暗闇になってしまうのです」と語った。
そして、ベゾス氏に対して「あなたが私に与えてくれたのは、想像できる中で最も大きな経験でした。いま経験したことに感動しています。ただただ、並外れた経験だったとしか言えません。この夢のような状態から目覚めないでいたい、この感動をずっと味わっていたいと思っています」と、涙ぐみながら話し続けた。
90歳のシャトナー氏はまた、宇宙飛行の最年長記録も達成した。これまでの最年長記録は、ニュー・シェパードの最初の有人飛行に搭乗した、ウォリー・ファンク氏の82歳だった。
飛行に向けては、シャトナー氏は十分な医学検査を受けたうえで、飛行に問題ないことを確認。宇宙空間では0Gに、帰還中に5Gに耐えなければならなかったが、シャトナー氏の体調に影響はなかった。「むしろ宇宙船に乗り込むときに、7階建ての発射台の階段をのぼったことのほうが一番疲れた」と冗談を飛ばしたほどだった。
今回の飛行は、新しい文明も生命も待ち受けてはおらず、そもそも人類最初の試みでもなかった。それでも、カーク船長が5年間の調査飛行で味わったのと同じくらい、シャトナー氏にとってこの10分間の宇宙旅行は、驚異に満ちた物語となったのである。
●夢を見る人、創る人が生み出した、2021年という“宇宙旅行元年”
夢を見る人、創る人
今回のニュー・シェパードの飛行には、シャトナー氏のほか、民間の地球観測衛星会社プラネットの共同創業者クリス・ボスヘーズン(Chris Boshuizen)氏、ライフサイエンス企業メディデータ・ソリューションズの共同創業者グレン・ダヴリース(Glen de Vries)氏、そしてブルー・オリジンのミッション・フライト・オペレーション担当副社長であるオードリー・パワーズ(Audrey Powers)氏ら3人も搭乗した。
このうちボスヘーズン氏とダヴリース氏は、運賃を自費で支払って搭乗した。金額は25万ドルとも、50万ドルともされる。
7月の最初の有人飛行では、ベゾス氏とその弟のほか、招待客とチャリティ・オークションで搭乗権を獲得した人物が飛行しており、今回の飛行は、正式に販売されたチケットを買った乗客を乗せた、初のケースともなった。
ブルー・オリジンのCEOを務めるボブ・スミス(Bob Smith)氏は「今日飛行したクルーは、夢を見る人と創る人を体現しています。ボスヘーズンさんとダヴリースさんはそれぞれ事業に成功し、宇宙旅行という長年の夢を叶えました。また、弊社のパワーズは、長年ニュー・シェパードの開発に従事し、ボスヘーズンさんらの夢を叶えるとともに、自らも宇宙へ行くという生涯の夢を叶えました。そしてシャトナーさんは、宇宙の素晴らしさを表現し、想像するうえで重要な役割を演じ、多くの人が宇宙を舞台に働くきっかけとなりました」とコメントしている。
そして、「今回の飛行は、宇宙旅行を安全かつ頻繁に行うための新たな一歩となりました。私たちの挑戦はまだ始まったばかりです」と続けた。
ブルー・オリジンは今後、今年中にさらに1回の有人飛行を計画しているという。搭乗者などの詳しい情報はまだ明らかになっていない。また、2022年にはさらに数回の有人飛行を行う予定だとしている。
宇宙旅行元年
ニュー・シェパードのような宇宙空間へ行って帰ってくる、サブオービタルの宇宙旅行は、米国のヴァージン・ギャラクティックも事業化に取り組んでいる。同社が開発中の「スペースシップツー」は、飛行機で上空から発射する空中発射型の宇宙船で、高度約80kmまで到達する能力がある。
今年7月には、同社創業者のリチャード・ブランソン氏らを乗せた試験飛行に成功。2022年の商業運航の開始を目指した試験が繰り返されているほか、改良型の宇宙船「スペースシップIII」の開発や試験も続けており、ブルー・オリジンと並んで本格的な宇宙旅行の実現に近づきつつある。
宇宙旅行のチケットについては、ヴァージン・ギャラクティックは8月5日から販売を開始。価格は1人あたり45万ドル(約5000万円)となっている。ブルー・オリジンは価格を公表していないが、25万ドルから50万ドルほどとされる。
一方、国際宇宙ステーション(ISS)のような、地球を回る軌道まで行く宇宙旅行も活発になりつつある。
もともと2001年から、米国のスペース・アドベンチャーズによる、ロシアの「ソユーズ」宇宙船を使った宇宙旅行はたびたび行われていたが、今年9月には、米宇宙企業スペースXが開発した「クルー・ドラゴン」宇宙船に民間人4人が搭乗し、3日間の宇宙旅行を実施した。
また今月5日には、ロシア人の映画監督と俳優がISSを訪れ、史上初となる宇宙での本格的な映画撮影を行っている。
さらに12月には、実業家の前澤友作氏と、前澤氏の会社の役員を務める平野陽三氏が、ソユーズでISSを訪れる予定となっているなど、民間人による宇宙飛行、宇宙旅行がかつてないほど大きな盛り上がりを見せつつある。
今回、シャトナー氏が行ったようなサブオービタル宇宙旅行でも数千万円、クルー・ドラゴンやISSで地球を回るともなると数十億円もかかり、一般人にとっては到底手が出ない金額である。しかし、厳しい試験や審査を経て選ばれた宇宙飛行士しか行けなかった時代は終わり、お金と健康さえあれば宇宙へ行けるようになったのは大きな一歩といえよう。
スタートレックで描かれるような、人類が宇宙に本格的に進出する未来につながる扉が、いままさに開かれようとしている。いつか人類が、新しい文明と生命を求めて宇宙を旅する時代が来たとき、今日を含む2021年という年は、歴史の転換点のひとつとして、かならず思い出されることになるだろう。
○参考文献
・Blue Origin | Blue Origin successfully and safely completes second human flight to space and back
・Blue Origin | New Shepard
・Blue Origin | William Shatner and Blue Origin’s Audrey Powers to fly on New Shepard’s 18th mission
・William Shatnerさん (@WilliamShatner) / Twitter
鳥嶋真也 とりしましんや
著者プロフィール 宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。 宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 この著者の記事一覧はこちら

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