小学生向けeスポーツ教室ってどんな場所? 授業参観に行ってきた

11月28日(木)18時0分 マイナビニュース

「こんにちは!」と、大きな声であいさつをしながら部屋に入ってくる小学生。学校帰りにそのまま来たのだろうか。背負っていたランドセルを下ろし、慣れた手つきでデスクトップPCを操作しはじめる。

みんなが集まったら、元気に開始のあいさつ。

「気をつけ、礼。よろしくお願いします!」

そこから1時間の授業が始まる。科目は「eスポーツ」だ。
○ゲームを通じて考える力を養う

小学生を対象にしたeスポーツ教室「eSPアカデミー」。一般的な進学塾とは違い、ここでは「eスポーツ」を教材として扱っている。2019年5月に1校目の練馬校がスタートしたたばかりだが、10月には代々木校と青山校もオープン(いずれも東京都)。3校合計で、すでに100人近くの生徒が集まった。

「まぁ、世間で知られているeスポーツと、うちのeスポーツは路線が違いますけどね」

eSP マネージャーの安藤靖人氏は、そう前置きする。

「うちでは、入会したらまずは全員『マインクラフト』をプレイしてもらっています。eスポーツを競技とするならば、『マインクラフト』がeスポーツじゃないことはもちろんわかっていますが、そのうえで選定しました」

eSPアカデミー練馬校では、「週1回コース」「週2回コース」「通い放題コース」の3つが用意されており、月曜を除く平日は「16時15分〜17時15分」「17時30分〜18時30分」「18時45分〜19時45分」の3コマ、土曜、日曜は「11時〜12時」「12時15分〜13時15分」「13時30分〜14時30分」の3コマで授業を実施している。代々木校、青山校は借りたスペースで授業を行っているため、週1回の開催だ。

気になるのは、授業で『マインクラフト』を扱う点。オンラインストラテジーゲーム『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』や、FPSゲーム『レインボーシックス シージ』、格闘ゲーム『ストリートファイターV』といった、eスポーツタイトルのスキルを身につけるわけではなく、ブロックを配置して建築を楽しんだり、材料を探して冒険したりと、サバイバル生活を楽しむ『マインクラフト』である。

「もともと、我々はフィジカルスポーツの教室を10年以上運営している企業。野球、サッカー、チアダンスなど、15,000人の生徒を抱えています。ただし、決してプロ野球選手やJリーガーを育てようと思っているわけではありません。初めてグローブをつける子や初めてボールを蹴る子に、スポーツの一歩目を踏み出してもらう目的で教室を運営しています。eスポーツの方針も基本的には同じ。ゲームを通して子どもたちの人間的な成長を目指したいと考えています。なので、ゲームのスキル向上ではなく、あいさつや礼儀、考える力などを身につけてもらえるようカリキュラムを組んでいます」

スポーツ教室でも、eスポーツ教室でも、決してプロプレイヤーの輩出を目標にしているわけではないと話す安藤氏。eSPアカデミーには、小学1年生の生徒もいる。いわば、ゲームにおいて“初めてグローブをつける”子だ。実際、初めてゲームに触れる子もいるだろう。そのため、いきなりガチガチのeスポーツタイトルをプレイしてもらうのではなく、まずは『マインクラフト』をプレイしながら「考える力」などを身につけてもらおうと思ったわけだ。

では、どのような授業をすれば、『マインクラフト』で考える力が伸びるのか。具体的なカリキュラムについて聞いてみると、安藤氏は1冊の冊子を手渡してくれた。

「これが生徒に配っているテキストです。まずは、このテキストが終わるまで『マインクラフト』をやってっもらいます。テキストがひと通り終われば、次は大会が実施されるようなeスポーツタイトルに移行しようと考えていますが、いまは『マインクラフト』の進めかたがようやく固まった段階。先のことはこれから考えていくつもりです。また、なかには『マインクラフト』が好きな子もいますし、武器を扱うゲームはやってほしくないと考える保護者もいらっしゃいます。なので、そのあたりは相談しながら、3〜4つのタイトルから選択するスタイルにしようかなと思っています」

テキストを開くと『マインクラフト』で行うチェックリストがズラリ。だが、授業では、テキストの内容に沿ってゲームを進めていくわけではない。

「まず、子どもたちには、授業開始前に『今日の目標』を決めてもらいます。その目標達成に向けて、1時間の授業なかで何をどう進めればいいのか、考えながら取り組んでもらいます。こちらから『ああしろ』『こうしろ』と指示は出しません。自分で課題を設定して、クリアするためのプロセスを踏んでいくことは、ゲームでもスポーツでも一緒。その習慣が身に付けばいいなと思っています」

生徒は授業がスタートする前に全員必ず「今日の目標」をホワイトボードに記入する。「寝室をつくる」「村人と交換」「城をつくる」など、それぞれ名前の横に授業内での「目標」が書かれていた。まずは『マインクラフト』で達成したい目標を明確化して、クリアするために何が必要か考えながらプレイすることで、「考える力」が身に付くというわけだ。

「もちろん、どうしてもわからないことがあれば我々がサポートしますが、それは最終手段。まずは『お友だちに聞いてごらん』と伝えるようにしています。すると、自然と子どもたち同士で相談して、アイテムを交換したり、協力したりするようになりました。我々はなるべく裏方に徹し、最終的に子どもたちだけで1時間過ごせるようになるのが理想ですね」

だからといって、子どもたちを勝手に遊ばせておくわけではない。実際に教室の様子を見学していると、先生は「今日は早いね」「目標どうしよっか」など、積極的にコミュニケーションを図るシーンが多かった。「画面消えちゃった」と呼ばれれば、しっかりフォロー。だが、授業と聞いてイメージしがちな「座学」の時間はなく、子どもたち同士で活発にコミュニケーションを図りながら、『マインクラフト』をプレイしていた。

また授業では、ゲームに詳しいインストラクターの学生が一緒にサポートする。

「私は陸上競技の経験者で、eSPアカデミーを担当する前はサッカー教室の先生でした。そのため、あまりゲームには詳しくありません。インストラクターの学生さんに手伝ってもらっています。ただ、アルバイト募集を出すと、たくさんの学生さんが応募してくださるんですが、なかには『僕の知っているeスポーツじゃないです』と去っていくケースも少なくありません。まぁ、それはそれでしかたないかなと思います。ただ、いま働いているのは、『自分の知っているeスポーツとは違うけれども、eスポーツを大きくするためには、こういう場所が必要だと思う』と共感してくれたメンバー。ゲームを知らない私が上に立っていろいろ指示を出しているのですが、嫌な顔をせずにしっかりとやってくれています。彼らのような人も増えていくといいですね」

○「しょせんゲーム」と思っていた先生が、いま保護者に伝えたいこと

eスポーツを通じて子どもたちの人間的な成長を目指すeSPアカデミー。生徒は自分で目標を立て、1時間の授業でどのようにその目標をクリアするか考えながら『マインクラフト』に取り組む。「人間的な成長」というと漠然としているが、具体的にどのような面での成長があるのだろうか。

「保護者からは『1時間座っていられるようになった』とか『パソコンへの抵抗感がなくなった』とか、ゲーム以外でしっかりするようになったとお声をいただくことが多いですね。我々としても、そこを一番大事に考えているのでうれしい限りです。ほかには、ずっと自分のやりかただけにこだわっていた子が、お友だちのプレイを見て『そういうやりかたもできるんだ』と柔軟な考えをするようにもなりました」

普段とは違う環境で、近い年齢の子どもたちと一緒にプレイすることは、新しい発見にもつながるのだろう。だが、決して「もともと仲良しだったグループ」で授業に参加しているわけではない。eSPアカデミーに通っている生徒は、学年がバラバラなだけでなく、通っている小学校も異なる。なかには、埼玉県の草加や川口から通っている子もいるという。

「9月に入ったばかりの子もいますが、ゲームという共通言語があるからか、すぐに打ち解けていました。また、ゲームを通じた成長面でいうと、授業が1時間なのも大きいと思います。キッチリ時間を区切ると、時間配分なども考えなければなりませんからね。それに、フィジカルスポーツのオーバーワークと同じで、やりすぎるのもよくないですし、まだゲームに対してよく思っていらっしゃらない人が多いのも事実ですし」

課題達成に必要なことを洗い出し、限られた時間内に1つずつクリアしていくことは、スポーツだけでなく、勉強や
仕事にも通じる部分があるだろう。それを小学生のうちから身につけられれば、子どもたちがどんな道に進むか関係なく、役立ちそうな気がする。

「私たちは“日本代表を育てる”というコピーでやらせてもらっています。競技の日本代表ではなく、ここで学んだことを活かして、日本を代表するような人材に育ってほしいと願いを込めました。そのなかで、もしかすると将来プロゲーマーが生まれるかもしれませんし、eスポーツシーンに関わる子が出てくるかもしれません。全然関係のないところで活躍する子もいるでしょう。ただ、どこに向かうにせよ、やりたいことはまず始めてみることが大事。グローブをつけてキャッチボールをはじめれば、野球部に入る子が出てくるかもしれません。そのなかから甲子園、プロ野球へと進む子が出てくるわけです。すでにゲームをやっている子はたくさんいるわけですから、その子たちがもう一歩先に行けるようサポートする場所がもっとあればいいんじゃないかと思いますね」

そのためにもゲームにおいて“グローブのつけかた”から子どもたちをサポートするeSPアカデミー。まずはプレイするハードルの低い『マインクラフト』からスタートして、少しずつゲームの幅を広げていく考えだ。『マインクラフト』の流れがようやく決まった段階だと話していた安藤氏だが、採用タイトルの増加以外で検討していることはあるのだろうか。

「フィジカルスポーツの教室では合宿をやっているので、eスポーツ施設の見学や大会・イベントツアーなど、うちでもなにかやりたいと考えています。活躍している選手を間近で見るのは、子どもたちにとっても刺激になりますしね。実際、高校生を対象にしたeスポーツ大会『STAGE:0』は、うちの生徒もかなり見ていたようです。やはり、年齢の近い選手には親近感を覚えるのでしょう。『先生見た? すごいカッコよかったよね』と話す子がいましたよ」

裾野が広がっていくとは、こういうことなのだろう。限定的な閉じた世界の出来事ではなく、夏休みに子どもたちが公園に集まって野球をするように、お母さんが甲子園の試合に手に汗握るように、そして、お父さんが晩酌しながら家族とプロ野球のナイター中継を観るように、一般家庭のなかにあたりまえのように浸透していく。いまはeスポーツイベントやプロ選手、スポンサーなどに注目が集まっているが、eSPアカデミーのような存在がeスポーツの波紋を少しずつ広げていくことで、より多くの人に届くのではないだろうか。

最後に、もともとスポーツ教室の先生をしていた安藤氏に、eスポーツという未経験の競技に転向して約半年経過したいま、感じていることを聞いてみた。

「最初は正直、私がeスポーツ教室を担当すること自体、無理なんじゃないかと思いましたね。フィジカルスポーツをずっとやってきたという理由だけでなく、そもそも私自身が、“しょせんゲームでしょ”と思っていましたから。ですが、いまとなっては、フィジカルスポーツとeスポーツの違いなんて、体を動かすか動かさないか、もう本当にそれくらいしか感じません。子どもたちが成長できるのも間違いないと思います。保護者のみなさまには、ゲームのマイナス面だけに目を向けず、お子さんが成長できる部分を見つけていってほしいですね」

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