吉川明日論の半導体放談 第111回 2019年のAMDとIntelを総括

12月10日(火)8時0分 マイナビニュース

早いものでもう12月である。令和元年となった2019年もあと2週間ということになった。半導体業界は相変わらず多くの話題でにぎわっているが、今年のAMDとIntelについては興味深い動きがあったので総括してみる。
市場シェアを失うIntelと猛追するAMD

CPU市場は全半導体市場の中でもひときわ規模が大きい。その中でも、全世界のパソコン、サーバーのほとんどが使用するx86プロセッサーの市場は規模も大きく利益率も高い。

この市場にはかつては10社以上のメーカーが群雄割拠していたが現在ではAMDとIntelの2社で構成する寡占市場である。ということはAMDがシェアを上げればIntelが落とすことになり、その逆もあり得る。この市場シェアの奪い合いは両社の製品力に直結して、常に綱引き状態となっている。押しなべてAMDが10-15%のシェアに対してIntelが85-90%という比率である。通常寡占状態にある市場ではシェアが拮抗している場合が多いが、半導体のようなキャパシティーのビジネスでは何かが大きく変わらない限りシェアの比率は劇的には変わらない。

そんな中で、最近米国の証券アナリストの間で言われているのが、この2年間でAMDは10%のシェアをIntelから奪い、現在約15%の位置につけていて、むこう2年間ではAMDがさらにシェアを奪う予測であるということだ。ここで言っているシェアとはCPUのユニット数のシェアである。いまだにその強力なブランド力でもってハイエンドを支配しているIntelは売り上げのシェア予測では90%を維持する模様である。

しかし、3年前には瀕死の状態であったAMDがCEOのLisa Suの強力なリーダーシップによって息を吹き返しIntelを猛追するという現象は近年にない快挙で、業界全体が注目している。私がAMDに勤務したころも四半期ごとのパソコンCPUのシェアで20%を超えた時期があった。その時はIntelも負けじと技術競争を加速したので新製品の投入の頻度は上がり、全体の価格は下がるという競争原理が消費者の利益に直結した大変に充実した時期であった。

しかし2019年は以前とは少々様相が異なっているように思える。特に注目される点はAMDがパソコンとサーバーの両方の市場で、しかも製品ミックスで高価格帯も低価格帯も万遍なくIntelとのギャップを埋めつつあることだ。これは以前のAMDがIntelのブランドと技術力によって結局低価格帯に押し込まれていた状態とかなり異なる様相である。これにはAMDの製品力の飛躍的向上とIntelの度重なる失敗が関係している。

カスタマー向けに異例の「詫び状」を出したIntel

2018年からの2019年にかけてのIntelの動きには変調を感じさせるものが多々あった。ざっとあげられるだけでも下記のような事象が発生している。

2018年6月にCEOであったBrian Krzanichが社内の女性との不適切な関係を指摘され辞任。その後CFOであったBob SwanがCEOに就任するまで9か月以上のCEO不在時期がうまれた
AMDがTSMCとの協業で7nmのプロセスルールに移行する中、Intelは自社開発の10nmの製造ラインへの移行にてこずり、この問題は結局1年ほど続いた
最先端プロセス開発が遅延する中、主力の14nmへの製造需要が急増しIntelは既存プロセスの増強をしているが、主要パソコンメーカーの需要にこたえられずx86マイクロプロセッサーは中・低価格帯で恒常的な品不足となっている
自社でのファブでのCPUの生産キャパを上げるためにCPU以外の製品をSamsungに生産委託を開始、この委託生産量はさらに増える予測だ
2018年頭に話題となった「Spectre」と「Meltdown」という2つの脆弱性の問題発覚以降、IntelのCPUには引き続き、複数の脆弱性が発見されており、Intelも対策を打っているが、まだ完全には解消していない

私がAMDに勤務していた頃のIntelは、最先端プロセスを移植した生産キャパの充実ではまさに憎々しいほどの完璧さでまさに常勝横綱のような風格があったが、今年のIntelはその"半導体の王"の風格は完全に影を潜めている。

こうした失敗続きの挙句にIntelは11月になって全世界の顧客に向けて営業・セールスのトップである上席副社長名で"詫び状"を出した。「お客様・パートナー様各位(To our customers and partners)」で始まるこの1ページの詫び状ではプロセス開発の遅れで現在起こっているCPUの供給問題の状況の説明をしたうえで、その改善に最大限の努力をしている事をうたっているが、供給問題の収束時期についての言及はまったくない。

いかにもIntelらしからぬ曖昧な対応で私は大変に驚いた。Dellは最近の決算発表で目標売り上げを達成できなかった理由としてIntelのCPUの供給不足を上げているほどで、Intelの営業部は激怒する客先への対応に汲々としているであろうと想像してしまう。

私が記憶する限りではIntelが公開でこのような詫び状のようなものを出したのは1994年、12月20日に発表したPentiumプロセッサーの全数リコールの時以来である。経緯は、1993年から出荷されたPentiumプロセッサーが浮動小数点演算で間違った結果を出すことが一部のユーザーから指摘されたことから始まった。Intelは最初は一部のヘビーユーザーでの一過性の問題として放っておいたが、調査の結果、浮動小数点演算テーブルに誤りがあることが判明した。明らかに"バグ"である。その後、Intelはマスク変更を行いバグを取り除いたが、リコールには応じなかった。しかしこのバグ事件とIntelの対応は一般ニュースでも大きく取り上げられるようになり、しまいには不買運動などが起こり結局Intelが全数リコールを発表した。

こうした技術上の大問題は元半導体業界人としてはご免こうむりたいが、Intelの今年の異例の動きは来年の半導体業界全体に何か大きなことが起こる予兆のような気がしてくる。

新製品の発表で勢いに乗るAMD

x86マイクロプロセッサ−の巨大市場でのIntelの唯一の競合として気を吐くAMDの2019年は近年にない良い年だった。それが偶然であるにしてもAMD創立50周年の年であったことも興味深い。

AMDの今年の素晴らしいパフォーマンスは株価が1年で2倍になったという驚異的な事実で裏付けられている。私は最早AMDの株主でもないし、個人株投資家でもないが今年の米国の証券アナリストたちの評価は一様にAMDに対してポジティブである。

今年のAMDはRyzen・Epycブランドのプロセッサーファミリーに加えてGPUの新製品も発表しまさにノリノリの状態である。私もAMDでの24年間の勤務でこういった状態は2-3度経験したことがあったが、必ずと言っていいほどその反動があって痛い目に合ったのを覚えている。

あらゆる不利な局面で巨人Intelは強烈な巻き返しを図り、その後はいつもAMDを完膚なきまでに打ちのめすという結果であったように感じる。しかし今年の両社の動きを見ていると来年もこの状態がしばらく続くのではないかという証券アナリストたちの見立てはあながち間違ってはいないのではないだろうかと思えてくる。

AMDとIntelの因縁の対決は2020年、さらに激しさを増すことが予想されるが、この競争原理で素晴らしい製品が良い値段で手に入る状況は結局ユーザーを利する結果となる。

著者プロフィール
吉川明日論(よしかわあすろん)
1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、2016年に還暦を迎え引退。現在はある大学に学士入学、人文科学の勉強にいそしむ。

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