【スタートアップあるある】提携した大企業の担当者が“やる気”ゼロ!
【スタートアップあるある】提携した大企業の担当者が“やる気”ゼロ!
「起業家が後悔しないための本」をコンセンプトにした、『起業家のためのリスク&法律入門』が発売され、スタートアップ経営者を中心に話題を呼んでいます。実務経験豊富なベンチャーキャピタリストと弁護士が起業家に必要な法律知識を網羅的に解説した同書より、“スタートアップあるある”な失敗を描いたストーリーを抜粋して紹介します。第10回のテーマは「大企業との提携の難しさ」です。(執筆協力:小池真幸、イラスト:ヤギワタル)
大企業の担当者を信頼して独占契約を締結したが…
わたしはレンタルビデオ屋でできている──と言っても、過言ではないと思う。小学生の頃から、暇さえあれば近所のTSUTAYAに通った。お目当ての作品が「新作」から「旧作」になるタイミングを狙って、なけなしのお小遣いでレンタル、期間内に繰り返し見た。お金がないときでも、学校帰りに3時間も4時間も滞在して、試聴コーナーで繰り返しCDを聴いた。
大学生になり、映像や音楽のストリーミングサービスが普及し始めると、レンタルビデオ屋に行く機会は減ってしまった。でも、あのレンタルビデオ屋に入り浸った日々が今のわたしを作っていることは確かだし、できればあの感動を届けるような仕事に就きたい──そんな夢を胸に抱いていた。
新卒でITスタートアップに入り、ビジネスの基本を学んだ。いずれ、ストリーミングサービスの会社に転職したいと思っていたが、すでに大きな外資系企業が多く、あまりエキサイティングな体験はできなそうに感じた。しかも、現状のサービスには不満がいっぱいある。「それならわたしが作ればいいんだ」。そう思い立ち、日本人による、日本人のためのビデオ・オン・デマンドサービスを立ち上げることに決めた。
頼もしい仲間や支援者に恵まれたこともあり、サービスも会社も、最初の5年は順調に拡大していった。20代~30代の中ではある程度の知名度を得た手応えが出てきた頃、誰もが知る大手のコンテンツ企業から提携の打診があった。「国民的サービスになるための第一歩だ」。そう直感して、提携を推進することに決めた。IP保有企業と組むことは、わたしたちのサービスにとって生命線だ。
実際に契約を進める段になって、資本業務提携契約か合弁契約で迷った。なんとなく、大企業とのジョイントベンチャーにあまりよいイメージがなかったため、結局、資本業務提携契約を結ぶことに。契約の締結直前で、先方の担当者であるAさんが「独占契約じゃないと認めない、と社内で言われてしまいまして……」と苦い顔で相談してきた。本当に独占契約なんて結んでもいいのだろうかと引っ掛かりはあったものの、Aさんのことは非常に頼もしく思い、全幅の信頼を置いていたので、その熱意に負けて独占契約を結んだ──これが命取りになるとは、露ほども知らずに。
最初の半年は順調だった。ラインナップを大幅に充実させたわたしたちのサービスは、より一層ユーザー数や継続率を伸ばした。Aさんと二人三脚で、ランニングハイ状態になりながら、サービスの拡大を進めていった。
しかし、半年が経った頃。なんと、Aさんが家庭の事情で会社を離れ、地元の九州に帰ることになってしまったのだ。寂しさと不安はあったものの、わたしはこれまでの感謝を誠心誠意伝え、快くAさんを送り出した。
さぁ、新しい担当者と一緒に、心機一転頑張ろう──そう思っていたのだが、新しい担当者のBさんが来ると、その意気込みが一気に挫かれた。Bさんは典型的な「やる気のない大企業社員」で、あからさまにやる気がない。言われたからこの担当になっただけ感が満載で、とにかく何もしてくれない。
結局、それから半年経っても、Aさんと一緒に生み出した成果以上のものは生まれなかった。とはいえ、独占契約を結んでしまったので、他のコンテンツ企業と提携して、さらなるラインナップ拡充も見込めない。実際、何社かから引き合いはあったのだが、「御社はあそこの会社以外とは組めないですよね……」と、完全に企業としての色がついてしまったのを感じた。
とはいえ、Bさんは何もしてくれそうにないし、担当者変えも相談してみたことはあったが、なかなか実現する見込みはない。こうしている間にも、新たな企業との提携機会は失われてしまうし、競合サービスは着々とサービスを拡充している。焦りばかりが募る。完全に八方塞がりだ──。
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