なぜリーダーは「自分以外の存在を感じられる力」を身に付けるべきなのか?
働き方や価値観が多様化する現在、リーダーのあり方が問い直されている。そんな中、アップルやナイキ、アウディといったグローバル企業で導入されているのが「牧場研修」だ。世界のビジネスエリートは、なぜ自然に学ぶのか? そこで培われるリーダーシップやビジネススキルとは? 本連載は、各国の牧場研修に参加し、スタンフォード大学で斯界の世界的権威に学んだ小日向素子氏の著作『ナチュラル・リーダーシップの教科書』(小日向素子著/あさ出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。
第4回は、名著『沈黙の春』の著者・レイチェル・カーソン博士が提唱した概念「センス・オブ・ワンダー」とリーダーシップの関係を解説する。
<連載ラインアップ>
■第1回 馬の群れが教えてくれる、多様性時代のしなやかな「リーダーシップ」とは?
■第2回 女性リーダー比率30%超の資生堂は、なぜ「牧場研修」を導入したのか?
■第3回 50代経営者が猛省、牧場研修で気づかされた「指示出し」の問題点とは?
■第4回 なぜリーダーは「自分以外の存在を感じられる力」を身に付けるべきなのか?(本稿)
■第5回 何をやっても無反応、馬を操れない研修参加者はどう窮地を乗り越えたか?
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行動様式③センス・オブ・ワンダーを持つ
関心を自分から他者に移し、相手に心を寄せる
ナチュラル・リーダーシップを発揮するために、もう1つ、欠かせない力があります。
それは、「自分以外の存在を感じられる力」「自然の一部であることを感じられる力」です。
これを本書では、「 センス・オブ・ワンダー」と呼びます。
センス・オブ・ワンダーという言葉は、ベストセラー『沈黙の春』(英宝社)で環境問題に光を当てた生物学者レイチェル・カーソンの造語です。彼女が死の病の中で執筆した、最後の作品のタイトルでもあります。
一般的に、人(下の図の「私」)は、生まれてすぐ、「社会」(下の図の一番右)の中に放り込まれます。
自分はどんな人間で、他者とどのようにつながり、どう信頼関係を築いていくとよいかなどについて学ぶことなく社会に出され、「社会の一員」としてふさわしい振る舞いをすることが求められるのです。
親に対しての態度はこう、先生に対しての態度はこう、友達にはこう、会社では・・・と、私たちはその時々で社会の常識・道徳に合わせた行動を模索し対応することで、自身の居場所を見つけ、生きています。
しかし本来は、他者とのつながりや信頼を体感することで「私はこの社会の一員である」と実感するものです。この感覚があってはじめて、同じ社会に生きる他者、ひいては社会そのものに貢献することができるようになるのではないでしょうか。
では、本来あるべき状態になるには、どうすればよいのでしょうか? それを示したのが、上の図です。この図は、私が行っている牧場研修で使っているものです。
真の意味で社会の一員になるために、まず、ありのままの「私」で「他の存在(ここでは「馬」と書いています)」 と向き合い、関心を自分から他者に移すところから始めます。
「他の存在」に関心が移ると、その存在が生きていくためにどのような「環境」が必要か、ということに関心が広がります(ここでは「牧場」と書いています)。
その周囲に必ず広がっているのが、「自然」です。
ここまで周りに関心が広がると、「センス・オブ・ワンダー」がほぼ身についている状態です。
カーソン博士は、センス・オブ・ワンダーを、「神秘さや不思議さに目を見はる感性」と定義しています。「大人になるとやってくる倦怠と幻滅、自然の力の源泉から遠ざかること、つまらない人工的なものに夢中になることなどへのかわらぬ解毒剤になる」とも書いています。
私は、カーソン博士の定義を膨らませて、「自分以外の存在を感じられる力」「自然の一部であることを感じられる力」と解釈しています。
この感覚を持つと、他者との「つながり」を感じ、本当の意味で他者を「信頼」することができるようになってきます。
他者を信頼できる人同士が「社会」という大きな塊をつくることができれば、その「社会」は、先に述べた「生まれてすぐに突然放り込まれた今の社会」の在りようとは大きく変わり、人々にとってもっと生きやすい場になるはずです。
逆に言うと、センス・オブ・ワンダーがない状態では、表面上は社会の一員ではあっても、社会の歯車にすぎない「私らしくない私」のまま、社会に貢献することもなく、人生が終わってしまいかねません。
2011年に出版以来、26カ国語に翻訳され、世界中でベストセラーとなった『死ぬ瞬間の5つの後悔』(新潮社)という本があります。
終末医療の介護を長年に務めていたブロニー・ウェア氏が、自身の経験を書いたブログが元となった書籍です。
同書で一番の後悔として挙げられたのが、次の言葉です。
“I wish I’d had the courage to live a life true to myself, not the life others expected of me. ”
「他者の期待を生きるのではなく、自分に正直に生きたかった」
この言葉が人々の心を捉え、本書は世界的に話題となったのです。それほど、現代社会には、他者の期待に応えようと生きる人が多いのかもしれません。
ナチュラル・リーダーシップは、「自分らしくいながら、全体として調和している」状態を目指していますので、センス・オブ・ワンダーを持ち、自分以外の存在に関心を寄せている状態を体感できることが必須です。
センス・オブ・ワンダーを取り戻し、ナチュラル・リーダーシップを発揮し、私らしく社会に貢献し、自分の人生を生きていきたいものです。
次回は、実際に、センス・オブ・ワンダーを取り戻すワークをされている方の事例をご紹介しましょう。
<連載ラインアップ>
■第1回 馬の群れが教えてくれる、多様性時代のしなやかな「リーダーシップ」とは?
■第2回 女性リーダー比率30%超の資生堂は、なぜ「牧場研修」を導入したのか?
■第3回 50代経営者が猛省、牧場研修で気づかされた「指示出し」の問題点とは?
■第4回 なぜリーダーは「自分以外の存在を感じられる力」を身に付けるべきなのか?(本稿)
■第5回 何をやっても無反応、馬を操れない研修参加者はどう窮地を乗り越えたか?
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筆者:小日向 素子
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