国際女性デーにオススメ『わたしは最悪。』『パリ13区』『三姉妹』ほか女性映画の新機軸
シネマカフェ2023年3月7日(火)10時30分
『わたしは最悪。』(C)2021 OSLO PICTURES - MK PRODUCTIONS - FILM I VAST - SNOWGLOBE - B-Reel ‒ ARTE FRANCE CINEMA
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3月8日は、1975年に国連総会で決議された「国際女性デー」(International Women’s Day)。春の訪れを告げる黄色のミモザの花にちなんで「ミモザの日」とも呼ばれ、国や民族、言語などを超えて、女性たちのこれまでの勇気と決断を称え、女性のエンパワーメントとジェンダー平等社会の実現を目指すべく各地で様々なイベントやデモなどが行われる。
今回の「国際女性デー」に合わせて紹介するのは、#MeTooの世界的潮流を経て女性たちの躍動がより率直に力強く、ネクストステージへと進んだかのような、既成概念をさらに打ち破るかのような姿を描いた5作品。日本、韓国から、パリの新興地区、ノルウェーのオスロ、米ノースカロライナの湿地帯などを舞台に、いずれも魅力的な俳優たちが熱演を見せる。
パリ13区(2021)
再開発による高層マンションやビルが建ち並び、アジア系移民が多く暮らすなど、いまのパリを象徴する13区に暮らすミレニアル世代の男女たちが主人公。監督ジャック・オーディアールとともに『燃ゆる女の肖像』のセリーヌ・シアマと『ファイブ・デビルズ』のレア・ミシウスが脚本を手がけた。
本作では、30代にして大学に復学したノラ(ノエミ・メルラン)が同級生に馴染もうと金髪ウィッグでパーティーに出かけたところ、カムガール(ウェブカメラを使ったセックスワーカー)である“アンバー・スウィート”(ジェニー・ベス)と間違われ、学生たちからSNS上やリアルで惨い誹謗中傷を受けてしまう。
今年の「国際女性デー」のテーマは「全てをデジタルに:ジェンダー平等のためのイノベーションとテクノロジー」として、デジタル空間における女性と少女の権利を保護するために何ができるかに焦点が当てられており、その意味でも示唆を含んだ1作となるかも。
また、台湾系のエミリー(ルーシー・チャン)が新しいルームメイトである高校教師のカミーユ(マキタ・サンバ)にセックスライフを尋ね、出会い系サイトについて同僚と軽快に会話する場面もあり、アジア系女性は控えめで貞淑というステレオタイプを感じさせない。全編モノクロームの映像がキラキラでカラフルな“パリの恋愛映画”のイメージを打破するように、体温を感じさせる等身大の人間像を描き出している。
わたしは最悪。(2021)
アートや写真に関心を持ち文才もありながら、人生の脇役のような気分のユリヤ(レナーテ・レインスヴェ)。グラフィックノベル作家である年上の恋人アクセルが「君はいい母親になる」と決めつける中、招待されていないパーティに紛れ込んだある夜、感覚や波長がぴったりと合うアイヴィンと出会う。
ユリヤは自分が人生の主人公となる道を模索するも決定的なものが見つかず、恋人に価値観や希望を押しつけられても、まだ何者でもない自分が悔しくて、もどかしい。ノルウェーの首都・オスロを舞台に、序章と終章、さらに12章の短編を重ねていくような本作は、そんなユリヤが回り道をしながら自分を見つけていく姿を痛烈なまでに素直に描き、「愛してるけれど、愛してない」「嬉しいけれど、分からない」複雑で重層的な女性の感情にも迫る。
主演のノルウェー出身のレナーテ・レインスヴェは、映画初主演で第74回カンヌ国際映画祭女優賞に輝いた。
そばかす(2022)
音楽の夢を諦め、30歳になった蘇畑佳純(三浦透子)は現在は地元に戻りコールセンターで苦情対応の仕事をしている。妹の結婚・妊娠もあり、母からプレッシャーをかけられ、ついにはお見合いをセッティングされてしまう。でも、佳純は他人に恋愛感情を抱かず、性的に惹かれることもなかった…。
“男女が出会って恋に落ちる”、その大前提が社会にもエンタメ界にも君臨する中で、三浦透子演じるアロマンティック/アセクシュアルの佳純は、自由奔放な親友(前田敦子)らの影響を受けながら人生を模索する。“王子様と結婚したら、めでたしめでたし”で本当にいいのか、「シンデレラ」を語り直すシーンが象徴的。そこで反対の声が大きくなってしまうのも、いまの日本の映し鏡。
『ドライブ・マイ・カー』以降も活躍目覚ましい三浦さんの存在感に注目だ。
ザリガニの鳴くところ(2022)
ノースカロライナ州の湿地帯で、地元の有力者の息子が変死体となって発見される。犯人として疑われたのは、「ザリガニが鳴く」といわれる湿地帯を6歳のころから1人で生き抜き、周囲から“湿地の娘”と呼ばれていたカイア(デイジー・エドガー=ジョーンズ)。彼女が将来有望な青年を殺したのか、それとも…。
新たな才能デイジー・エドガー=ジョーンズ主演、リース・ウィザースプーン製作、オリジナル・ソングをテイラー・スウィフトが手がけた本作は、殺人事件から始まるミステリーと、彼女の無実を信じる者たちによる法廷劇、成長とともに恋を知るカイアのラブストーリーであり、サバイバーの物語。湿地帯の自然が四季によって少しずつ表情を変えるように幾つもの顔を持つ。
不自然な摂理に基づく人間社会を毎日、何とか生き抜いている、きっとそれだけでも讃えられることなのだ。
三姉妹(2020)
ソウルに暮らす三姉妹の長女ヒスク(キム・ソニョン)は別れた夫の借金を返しながら、しがない花屋を営み、反抗期のひとり娘には疎まれている。高級マンション暮らしの次女ミヨン(ムン・ソリ)は、熱心に教会に通う模範的な信徒。三女ミオク(チャン・ヨンジュ)はスランプ中の劇作家で、昼夜問わず酒浸りの日々。
それぞれが大丈夫なフリをしながら理不尽な毎日をやり過ごしているが、実家を訪れたある日、三姉妹のまったく大丈夫じゃない過去が見えてくる。家父長制による暴力によって蓄積された傷は、年月を重ねれば重ねるほどえぐられ、嫌な方向に“熟成”されてしまう。しんどさ満点だが、ラストシーンの海辺の三姉妹に会いたくて何度も見てしまう作品かもしれない。
このほかにも、トラウマ級のクライマックスに女性が勝利(!?)するA24作品『MEN 同じ顔の男たち』や、生理、中絶、同性愛、高齢出産、産後うつ、育児ストレスといった女性の日常の本音をユーモアを交えて描いた『セイント・フランシス』なども続々と配信中。ハリウッドの絶対的プロデューサーの性的暴行事件を暴いた『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』が4月12日よりリリース、キリスト教一派のコミュニティで性的暴行を受けた女性たちが未来を語り合う『ウーマン・トーキング 私たちの選択』が6月2日(金)より公開と、今後も見逃せない作品が続いている。
今回の「国際女性デー」に合わせて紹介するのは、#MeTooの世界的潮流を経て女性たちの躍動がより率直に力強く、ネクストステージへと進んだかのような、既成概念をさらに打ち破るかのような姿を描いた5作品。日本、韓国から、パリの新興地区、ノルウェーのオスロ、米ノースカロライナの湿地帯などを舞台に、いずれも魅力的な俳優たちが熱演を見せる。
パリ13区(2021)
再開発による高層マンションやビルが建ち並び、アジア系移民が多く暮らすなど、いまのパリを象徴する13区に暮らすミレニアル世代の男女たちが主人公。監督ジャック・オーディアールとともに『燃ゆる女の肖像』のセリーヌ・シアマと『ファイブ・デビルズ』のレア・ミシウスが脚本を手がけた。
本作では、30代にして大学に復学したノラ(ノエミ・メルラン)が同級生に馴染もうと金髪ウィッグでパーティーに出かけたところ、カムガール(ウェブカメラを使ったセックスワーカー)である“アンバー・スウィート”(ジェニー・ベス)と間違われ、学生たちからSNS上やリアルで惨い誹謗中傷を受けてしまう。
今年の「国際女性デー」のテーマは「全てをデジタルに:ジェンダー平等のためのイノベーションとテクノロジー」として、デジタル空間における女性と少女の権利を保護するために何ができるかに焦点が当てられており、その意味でも示唆を含んだ1作となるかも。
また、台湾系のエミリー(ルーシー・チャン)が新しいルームメイトである高校教師のカミーユ(マキタ・サンバ)にセックスライフを尋ね、出会い系サイトについて同僚と軽快に会話する場面もあり、アジア系女性は控えめで貞淑というステレオタイプを感じさせない。全編モノクロームの映像がキラキラでカラフルな“パリの恋愛映画”のイメージを打破するように、体温を感じさせる等身大の人間像を描き出している。
わたしは最悪。(2021)
アートや写真に関心を持ち文才もありながら、人生の脇役のような気分のユリヤ(レナーテ・レインスヴェ)。グラフィックノベル作家である年上の恋人アクセルが「君はいい母親になる」と決めつける中、招待されていないパーティに紛れ込んだある夜、感覚や波長がぴったりと合うアイヴィンと出会う。
ユリヤは自分が人生の主人公となる道を模索するも決定的なものが見つかず、恋人に価値観や希望を押しつけられても、まだ何者でもない自分が悔しくて、もどかしい。ノルウェーの首都・オスロを舞台に、序章と終章、さらに12章の短編を重ねていくような本作は、そんなユリヤが回り道をしながら自分を見つけていく姿を痛烈なまでに素直に描き、「愛してるけれど、愛してない」「嬉しいけれど、分からない」複雑で重層的な女性の感情にも迫る。
主演のノルウェー出身のレナーテ・レインスヴェは、映画初主演で第74回カンヌ国際映画祭女優賞に輝いた。
そばかす(2022)
音楽の夢を諦め、30歳になった蘇畑佳純(三浦透子)は現在は地元に戻りコールセンターで苦情対応の仕事をしている。妹の結婚・妊娠もあり、母からプレッシャーをかけられ、ついにはお見合いをセッティングされてしまう。でも、佳純は他人に恋愛感情を抱かず、性的に惹かれることもなかった…。
“男女が出会って恋に落ちる”、その大前提が社会にもエンタメ界にも君臨する中で、三浦透子演じるアロマンティック/アセクシュアルの佳純は、自由奔放な親友(前田敦子)らの影響を受けながら人生を模索する。“王子様と結婚したら、めでたしめでたし”で本当にいいのか、「シンデレラ」を語り直すシーンが象徴的。そこで反対の声が大きくなってしまうのも、いまの日本の映し鏡。
『ドライブ・マイ・カー』以降も活躍目覚ましい三浦さんの存在感に注目だ。
ザリガニの鳴くところ(2022)
ノースカロライナ州の湿地帯で、地元の有力者の息子が変死体となって発見される。犯人として疑われたのは、「ザリガニが鳴く」といわれる湿地帯を6歳のころから1人で生き抜き、周囲から“湿地の娘”と呼ばれていたカイア(デイジー・エドガー=ジョーンズ)。彼女が将来有望な青年を殺したのか、それとも…。
新たな才能デイジー・エドガー=ジョーンズ主演、リース・ウィザースプーン製作、オリジナル・ソングをテイラー・スウィフトが手がけた本作は、殺人事件から始まるミステリーと、彼女の無実を信じる者たちによる法廷劇、成長とともに恋を知るカイアのラブストーリーであり、サバイバーの物語。湿地帯の自然が四季によって少しずつ表情を変えるように幾つもの顔を持つ。
不自然な摂理に基づく人間社会を毎日、何とか生き抜いている、きっとそれだけでも讃えられることなのだ。
三姉妹(2020)
ソウルに暮らす三姉妹の長女ヒスク(キム・ソニョン)は別れた夫の借金を返しながら、しがない花屋を営み、反抗期のひとり娘には疎まれている。高級マンション暮らしの次女ミヨン(ムン・ソリ)は、熱心に教会に通う模範的な信徒。三女ミオク(チャン・ヨンジュ)はスランプ中の劇作家で、昼夜問わず酒浸りの日々。
それぞれが大丈夫なフリをしながら理不尽な毎日をやり過ごしているが、実家を訪れたある日、三姉妹のまったく大丈夫じゃない過去が見えてくる。家父長制による暴力によって蓄積された傷は、年月を重ねれば重ねるほどえぐられ、嫌な方向に“熟成”されてしまう。しんどさ満点だが、ラストシーンの海辺の三姉妹に会いたくて何度も見てしまう作品かもしれない。
このほかにも、トラウマ級のクライマックスに女性が勝利(!?)するA24作品『MEN 同じ顔の男たち』や、生理、中絶、同性愛、高齢出産、産後うつ、育児ストレスといった女性の日常の本音をユーモアを交えて描いた『セイント・フランシス』なども続々と配信中。ハリウッドの絶対的プロデューサーの性的暴行事件を暴いた『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』が4月12日よりリリース、キリスト教一派のコミュニティで性的暴行を受けた女性たちが未来を語り合う『ウーマン・トーキング 私たちの選択』が6月2日(金)より公開と、今後も見逃せない作品が続いている。
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