本郷和人『光る君へ』藤原兼家のクーデター計画で出家させられた花山天皇。その後は修行僧のような厳しい毎日を送ることになったかというと…
(写真提供:Photo AC)
大石静さんが脚本を手掛け、『源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。第十話は「月夜の陰謀」。藤原兼家は花山天皇を退位、出家させる計画を道長らに伝える。兼家の命に従い道兼らが動き出すなか、道長はまひろに手紙を——といった話が展開しました。一方、歴史研究者で東大史料編纂所教授・本郷和人先生が気になるあのシーンをプレイバック、解説するのが本連載。今回は「出家」について。この連載を読めばドラマがさらに楽しくなること間違いなし!
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元慶寺で出家させられた花山天皇
第十話では、藤原兼家のクーデター計画がついに実行へ。
策にハマり、藤原道兼に連れ出された花山天皇は元慶寺で剃髪。たばかられたことに気づくも、もはや打つ手はなく、そのまま出家させられてしまいました。
そこで今回は「出家」について、あらためて考えてみようと思います。
しかし、ここまで書いてみて困った。古代史における貴人の出家は良く分からないのです。取りあえず、中世について説明しますね。
貴族の身分
そもそも貴族の身分は「位階」と「官職」から成り立っています。
従五位下とか、正二位という数字がつく(小さい方がえらい)のが「位階」。
近衛少将とか大納言とか、役職が「官職」です。
貴族は必ずこの二つを持っている。で、マロはもう疲れた、現役引退するぞよ、となると「官職」はなくなる。でも「位階」はついてくる。
貴族が「位階」から自由になれるのは死ぬ時、それと出家する時。
必ずしも戒律を守らなくてOK
貴人が世の無常を感じて、仏道修行の道に入る(これを「発心する」といいます)。
花山天皇が出家したとされる元慶寺。京都市(写真提供:Photo AC)
そのとき彼は髪を下ろし、僧侶風の名前を付け、仏を拝む日々を送る。
でも、ここからがポイントなのですが、必ずしも戒律を守らないでいい。
女性OK。お酒OK。肉は元々食べないけど、いざとなればOKです。
出家前して何が変わったのか
貴人のトップは天皇ですが、天皇が皇位を降りると上皇になり、出家すると法皇になります。
では法皇は修行僧のような厳しい毎日を送っていたのか? というとさにあらず。
既に申しましたように、何をしても良い。出家前と同じように豪奢な生活を送っていた。
貴族も同様です。出家しても何が変わる、ということはない。欲望を捨てて清らかな生活を送り、仏道修行に明け暮れれば「あの人はえらいな」と評価されるでしょうが、それはマストではないのですね。
ただ、問題はその中世的常識がどこまで古代に持って行けるか、なのですが・・・。
僕はだいたい、大丈夫だと思っています。
仏と貴人の関係は、平安時代も鎌倉時代もそれほど変わらない。古代の貴人も出家したからといって、貧しく、厳しく、求道的な生活をした、とは考えにくい。花山天皇も含めて、きっと出家前と同じような、豊かな暮らしぶりだったに違いありません。
婦人公論.jp
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