北朝鮮警察、犯罪被害者の遺族に多額の捜査費用を要求
北朝鮮は、自国内での殺人事件の発生件数、人口10万人あたりの発生率などを公表していない。経済難で民心が荒み、貧富の差が拡大する一方の北朝鮮で、殺人が多発しているであろうことは想像に難くない。
また、事件の捜査、被疑者の摘発、裁判を担う各司法機関に蔓延する不正腐敗は、事件抑止効果を低下させ、事件多発の遠因となっている。
咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、咸興(ハムン)市の安全部(警察署)が、犯罪被害者の親戚に対して、とんでもない要求を突きつけたと伝えている。
市内の沙浦(サポ)区域沙浦1洞に住んでいた、市内でも名うてのヤミ両替商の女性、チェさん(38歳)が今年10月中旬、急に姿を消した。
市民の世話を焼きつつ、動向の監視を行っている人民班(町内会)の班長は、不吉な予感を抑えきれず、別の住民と連れ立ってチェさんの家の玄関ドアを壊して中に踏み込んだ。
予感が的中した。チェさんが死んでいたのだ。遺体には刺し傷があり、死後5日経ったと思われ、既に腐敗が進んでいた。班長はすぐに市の安全部(警察署)に通報した。
安全部捜査課は早速捜査に乗り出した。情報筋は言及していないが、両替商は自宅に大量の現金を保管しているのが一般的であることを考えると、強盗殺人であることは容易に想像できる。捜査課は、現場で凶器の包丁と、容疑者のものと思われる髪の毛を発見した。DNA検査を行えば、容疑者が特定できるが、ここで止まってしまっている。
「検査は平壌でしかできないと言って、(チェさんの)親戚に3万元(約47万4000円)を払えと要求している」(情報筋)
まさかの検査代要求に、親戚らは開いた口が塞がらない様子で、「捜査当局が調査するのは当たり前のこと、その日暮らしを強いられるような世の中なのに、そんなカネがどこにあるのか」と訴えたが、聞き入れられなかったようだ。家を売って3万元を調達しようとも考えたが、事故物件に買い手がつくはずもなく、捜査は頓挫してしまった。
もはや、遺族に残された方法は「信訴」しかないだろう。民主主義や言論の自由のない北朝鮮で、公務員の不正行為を告発するための数少ない合法的な制度だが、告発の内容が漏れて、もみ消されたり、加害者に逆襲されたりするなど、正常に機能しているとは言い難い。
裁判に持ち込めても、被告に法で定められた通りの刑が下されるとは限らない。カネとコネを使って、事件をもみ消す、減刑する、短期で釈放することは当たり前のように行われている。
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