中国当局「人口対策」で脱北女性たちの残留を容認
中国は原則として、国内で摘発された脱北者を、北朝鮮に強制送還している。中国は難民条約の締結国であるにもかかわらずだ。同条約には次のような「ノンルフールマン原則」と呼ばれる条項がある。
第33条【追放及び送還の禁止】
1 締約国は、難民を、いかなる方法によっても、人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見のためにその生命または自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放しまたは送還してはならない。
2 締約国にいる難民であって、当該締約国の安全にとって危険であると認めるに足りる相当な理由がある者または特に重大な犯罪について有罪の判決が確定し当該締約国の社会にとって危険な存在となった者は、1の規定による利益の享受を要求することができない。
しかし中国は、脱北者は「難民ではなく、経済目的の不法入国者」という理屈で、強制送還を正当化している。ただ、現場では必ずしも、自動的に強制送還になっているわけではない。
中国のデイリーNK情報筋は、河北省の公安当局が今月中旬から、脱北女性の中でも「軽い犯罪」を犯した者に関してては、中国人の夫やその家族が3000元(約5万8800円)から5000元(約9万8000円)の罰金を支払い、保証書を書くことを条件に、帰宅を許すと通告していると伝えた。中には1万元(約19万6000円)を要求されたケースもあったとのことだ。
この「軽い犯罪」とは、人身売買の末に強制的に結婚させられた中国人の夫の元から逃げ出し、韓国行きを目指すことを指す。
また保証書には、「北朝鮮から不法入国した女性と暮らしている」「今回の事件でいくらの罰金を払った」「帰宅後は地域の派出所の指示に誠実に従い問題を起こさせないように責任を取る」といったことを書かされる。
「中国人の家族と暮らし、犯罪に手を染めなければ、難民認定を受けたり(中国公式の)身分を取得したりできなくても、強制送還することはない」というのが河北省公安当局の説明だ。
保証書を書かなければ、北朝鮮国境そばの集結所(収容所)に送った上で、北朝鮮に送還するという。脱北女性は、生殺与奪を夫やその家族に完全に握られてしまっている形となる。たとえDVなどの被害に遭っても逃げ出すことすらできないことになる。
中国の一部地域では、中国人男性と結婚した脱北女性を北朝鮮に強制送還するのではなく、公安局に登録させて問題さえ起こさなければ住み続けてもよいとする姿勢を示している。今回の件も、このようなやり方の延長線上にあるものと思われる。
ただ、脱北女性の居住を認める方針は、中央政府から下されたものなのか、地方での独自の判断によるものなのか、詳細は全くわかっていない。
3000元から1万元という罰金の額は、現在の中国の庶民にとって、決して少額ではないが払えないほどの額でもない。しかし、経済的に困窮して罰金を払えない夫もいれば、「連れて帰ったところで、どうせまた逃げるだけだ」と考え、罰金を払おうとしない夫もいる。
独立した人格として認められず、ただ、人口減少に悩む中国の農村とそこに住む家族を支える「都合の良い存在」として生きることしか認められていないのが、人身売買被害に遭った脱北女性の現状だ。
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