金正恩の「秘密警察」が人命より優先する、たった一つの仕事
北朝鮮北東部、日本海に面した咸鏡北道(ハムギョンブクト)金策(キムチェク)市は、大きな漁港があることで知られている。市の保衛部(秘密警察)は最近、すべての船の出航を72時間禁止した。
現地のデイリーNK内部情報筋によると、保衛部は今月1日、金策港の漁船、機関・企業所に所属する副業船(漁船、貨物船)など、すべての船舶の出港を72時間の間、禁止し、船舶に対する検閲(検査)を行うと通達した。
各船舶は、市や港の保衛部に出港証明書を提出し、検閲を受けた。保衛部はまた、船員に対する取り調べも行い、本人名義の携帯電話も提出させた。
これは、先月29日に金策港を出航した漁船が消息を絶ったことを受けた措置だ。
普通の国なら遭難したものと見て捜索に乗り出すところだが、北朝鮮ではそうならない。保衛部は脱北を疑っているのだ。
「保衛部は、通信が途絶えた漁船が事故を起こしたのではなく、南朝鮮(韓国)や日本に逃亡した可能性もあると見て、消えた船の船員と通報文(携帯メール)をやり取りした者がいないか、携帯電話を提出させた」(情報筋)
拷問や公開処刑など、まさに恐怖政治の実行部隊である保衛部は、金正恩体制の権力の土台を支えている。その彼らがいま、全神経を集中しているたったひとつの仕事が、脱北防止なのだ。
それも、無理もない話かも知れない。今年5月、黄海に面した黄海南道(ファンヘナムド)の康翎(カンリョン)から2家族9人が木造船に乗って韓国にたどり着き、亡命した。また、10月にも韓国東海岸の沖合で、4人の乗った木造船が発見された。4人はいずれも亡命した。保衛部は失態続きなのだ。
北朝鮮当局は、脱北事件が起きるたびに、船舶の出航を禁止したり、検閲を行ったり、手続きを強化するなどしている。
脱北の可能性を疑う保衛部の判断に、他の船の乗組員は懐疑的だ。当該の船に乗り組んでいた8人は、そもそも脱北するような人たちではないという。また、以前からの乗組員4人と、最近雇い入れた4人の息が合っていなかったため、何らかの事故を起こしてしまったのが明らかだと見ている。そして、保衛部をこのように批判した。
「通信が途絶えただけで、無闇に脱北したと疑うせいで、街の空気が殺伐とする」
「確かな証拠は一つもないのに、すべての船を出航禁止にして仕事をさせない」
13日の時点でも、当該の船の消息はわかっていない。家族たちは、無事帰還を祈りつつ、毎日港にやって来て泣き叫んでいるという。
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