エウロパ表面の氷は内部海で生命が存在できる厚みがある、国立天文台などが試算
マイナビニュース2024年3月25日(月)19時13分
国立天文台は3月22日、国立天文台が運用する「計算サーバ」を用いて天体衝突シミュレーションを行い、木星の氷衛星エウロパ表面の「多重リング盆地」と呼ばれる地形の形成過程を調べ、エウロパの氷殻の厚さを算出した結果、硬い層ともろい層で構成される少なくとも約20kmの厚さの氷殻を考えると、多重リング盆地の地形をよく説明できることがわかったと発表した。
同成果は、米・パデュー大学の脇田茂研究員を中心とした国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国科学振興協会が刊行する「Science」系のオープンアクセスジャーナル「Science Advances」に掲載された。
木星の4大(ガリレオ)衛星の1つであるエウロパは、太陽系内において地球外生命が現在も存在しているかもしれないとして、土星のエンケラドゥスやタイタンなどと並んで注目度の高い衛星だ。
エウロパに大気はなく、全面が分厚い氷(氷殻)で覆われ、表面に関しては地球とはまったく異なる極低温・真空の世界が存在しており、本来は中心部まで凍り付いていておかしくないのだが、それを許さないのが木星の強大な重力である。エウロパの軌道は真円ではないため、木星に引っ張られたり元に戻ったりと、常に変形を強いられており、その結果、内部に摩擦熱が生じて氷が溶けている可能性がある。極低温・真空などからは、最低でも数十kmはあるとされる分厚い氷殻が守っているため水が液体のままでいられるとし、その内部海は、地球の海の全容量よりも遥かに多いともいわれている。
液体の水があり、そこにさまざまな物質が溶け込んでいて、摩擦熱というエネルギーもあるのであれば、地球のように生命が誕生したとしてもおかしくはない。そのため、エウロパには生命が存在している可能性があるとして、20世紀のころから長らく議論されているのである。
エウロパの内部海に生命が存在する可能性を考える上で重要なのが、氷殻表面の物質と内部海の物質がどのように循環しているのか、また彗星のような突発的な外部由来の物質が、氷殻を通して内部海に供給される可能性があるのか、といったことを理解すること。それには、氷殻の厚さが重要な鍵となるが、現在の人類の技術ではその厚さを直接計測することはできないため、クレーターなどの観測から得られる情報を用いて間接的に求めた氷殻の厚さについての議論が続いているという。
これまでのエウロパの氷殻の厚さは、表面にある小さなクレーターなどから見積もられてきた。しかし、氷殻が薄い場合と、厚い氷殻が硬い層ともろい層で構成されている場合とを区別することができないという問題点があったとする。そこで研究チームは今回、これまでに探査機が発見した、同心円状の構造を示す大きなクレーターである多重リング盆地に着目することにしたという。この多重リング盆地の形成は氷殻の構造に強い影響を受けるため、その形成過程を解明することで、氷殻の厚さに制限をつけられると考えたとする。
今回の研究では、計算サーバ上で、欧州・米国・ロシアの研究チームが開発した複数の物質を扱える数値衝突計算コード「iSALE」を用いた天体衝突シミュレーションが行われた。当初は、1度のシミュレーションに1か月ほどかかる見積もりだったが、計算サーバなどの計算機を利用することによって、現実的な時間内に100通り以上の計算を試行することが可能となったという。
その結果、多重リング盆地の形成には硬い層(リソスフェア)ともろい層(アセノスフェア)の2層から成る、少なくとも厚さが20kmの厚い氷殻が必要であることが明らかにされた。さらに、氷殻の厚さを20km以上とすると、エウロパ表面の2つの多重リング盆地の観測結果とよく一致することがわかったとする。それに対し、薄い氷殻を想定したシミュレーションでは、たとえもろい層があったとしても、多重リング盆地の観測結果を再現できなかったとした。
ただし、今回の研究では厚さの下限値として20kmが求められたが、上限値は導き出せなかったという。そこで期待されるのが、NASAが2024年10月に打ち上げを予定している、探査機「エウロパ・クリッパー」の観測データ。同探査機は2030年に木星圏に到着し、エウロパの周回軌道には入らないものの、25kmほどまで接近するフライバイ観測を50回近く行う計画である。同衛星には氷を貫通するレーダーなどが搭載されており、表面だけでなく内部の探査も行う。研究チームの脇田研究員は、同衛星が多重リング盆地を観測する際、今回の研究で得られた厚い氷を念頭に置くと、氷の厚さだけでなく、内部海の深さの情報も得られるかもしれないとする。それにより、エウロパの内部海に生命が存在する可能性をより明確にできるとしている。
同成果は、米・パデュー大学の脇田茂研究員を中心とした国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国科学振興協会が刊行する「Science」系のオープンアクセスジャーナル「Science Advances」に掲載された。
木星の4大(ガリレオ)衛星の1つであるエウロパは、太陽系内において地球外生命が現在も存在しているかもしれないとして、土星のエンケラドゥスやタイタンなどと並んで注目度の高い衛星だ。
エウロパに大気はなく、全面が分厚い氷(氷殻)で覆われ、表面に関しては地球とはまったく異なる極低温・真空の世界が存在しており、本来は中心部まで凍り付いていておかしくないのだが、それを許さないのが木星の強大な重力である。エウロパの軌道は真円ではないため、木星に引っ張られたり元に戻ったりと、常に変形を強いられており、その結果、内部に摩擦熱が生じて氷が溶けている可能性がある。極低温・真空などからは、最低でも数十kmはあるとされる分厚い氷殻が守っているため水が液体のままでいられるとし、その内部海は、地球の海の全容量よりも遥かに多いともいわれている。
液体の水があり、そこにさまざまな物質が溶け込んでいて、摩擦熱というエネルギーもあるのであれば、地球のように生命が誕生したとしてもおかしくはない。そのため、エウロパには生命が存在している可能性があるとして、20世紀のころから長らく議論されているのである。
エウロパの内部海に生命が存在する可能性を考える上で重要なのが、氷殻表面の物質と内部海の物質がどのように循環しているのか、また彗星のような突発的な外部由来の物質が、氷殻を通して内部海に供給される可能性があるのか、といったことを理解すること。それには、氷殻の厚さが重要な鍵となるが、現在の人類の技術ではその厚さを直接計測することはできないため、クレーターなどの観測から得られる情報を用いて間接的に求めた氷殻の厚さについての議論が続いているという。
これまでのエウロパの氷殻の厚さは、表面にある小さなクレーターなどから見積もられてきた。しかし、氷殻が薄い場合と、厚い氷殻が硬い層ともろい層で構成されている場合とを区別することができないという問題点があったとする。そこで研究チームは今回、これまでに探査機が発見した、同心円状の構造を示す大きなクレーターである多重リング盆地に着目することにしたという。この多重リング盆地の形成は氷殻の構造に強い影響を受けるため、その形成過程を解明することで、氷殻の厚さに制限をつけられると考えたとする。
今回の研究では、計算サーバ上で、欧州・米国・ロシアの研究チームが開発した複数の物質を扱える数値衝突計算コード「iSALE」を用いた天体衝突シミュレーションが行われた。当初は、1度のシミュレーションに1か月ほどかかる見積もりだったが、計算サーバなどの計算機を利用することによって、現実的な時間内に100通り以上の計算を試行することが可能となったという。
その結果、多重リング盆地の形成には硬い層(リソスフェア)ともろい層(アセノスフェア)の2層から成る、少なくとも厚さが20kmの厚い氷殻が必要であることが明らかにされた。さらに、氷殻の厚さを20km以上とすると、エウロパ表面の2つの多重リング盆地の観測結果とよく一致することがわかったとする。それに対し、薄い氷殻を想定したシミュレーションでは、たとえもろい層があったとしても、多重リング盆地の観測結果を再現できなかったとした。
ただし、今回の研究では厚さの下限値として20kmが求められたが、上限値は導き出せなかったという。そこで期待されるのが、NASAが2024年10月に打ち上げを予定している、探査機「エウロパ・クリッパー」の観測データ。同探査機は2030年に木星圏に到着し、エウロパの周回軌道には入らないものの、25kmほどまで接近するフライバイ観測を50回近く行う計画である。同衛星には氷を貫通するレーダーなどが搭載されており、表面だけでなく内部の探査も行う。研究チームの脇田研究員は、同衛星が多重リング盆地を観測する際、今回の研究で得られた厚い氷を念頭に置くと、氷の厚さだけでなく、内部海の深さの情報も得られるかもしれないとする。それにより、エウロパの内部海に生命が存在する可能性をより明確にできるとしている。
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