【独占インタビュー】松下信治、国内復帰の噂から一転。2020年FIA-F2継続参戦の決意
2020年シーズンはスーパーGT GT500&全日本スーパーフォーミュラ選手権に参戦し、国内レースへ復帰すると噂されていた松下信治。しかし、1月10日に発表されたホンダの2020年モータースポーツ参戦体制のなかに、松下の名前はなかった。
そして、auto sport No.1521で既報のとおり、松下は年末年始に人生最大の決断を下していた。その裏にどんな思いを抱えていたのか──独占インタビューでその胸の内を明かした。
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──昨年末「人生の大きな決断を下そうとしています」と言っていましたが、どんな結論に至りましたか?
松下信治(以下、松下):結論から言うとF2を続けることになりました。
──チームは?
松下:まだ契約前なので具体名はもう少し待ってください。
──国内レースへの復帰の可能性もあったと思います。
松下:ええ。最初はその方向でも動いていました。でも(F2から)いいオファーをいただいたこともあって、自分のこれからのレース人生にとって何がベストかを熟考した結果、再挑戦しようという結論に達しました。これに関しては、ずっとサポートしていただいてるホンダさんとも何度も話し合いを重ねました。
──ホンダドライバーであることには、変わりはないんでしょうか?
松下:そうですね。ただ、いままでと少し形は変わるかもしれません。
──ヨーロッパと日本の掛け持ちを考えたことはありましたか?
松下:レーススケジュールのいくつかがバッティングすることもあって、それはなかったですね。
──松下選手自身は、最初からF2継続を望んでいたということですか?
松下:本心ではきっと最初からそうでした。しかし、正直かなり悩みました。最終的な決断を下したのは、暮れも押し迫った12月後半でしたね。それまでは、日本でこれからレースをするという道も頭にありました。
──ホンダドライバーとして、国内でキャリアを重ねようと思っていたと?
松下:そうですね。ホンダから離れてF2を続けた場合、その先は未知です。もちろん充分な結果を出せば、再来年以降の道も開けるし、その自信はあります。でも未知の世界であることには変わりはない。現実では世界のトップドライバーのほとんどが、メーカーに所属しているわけです。そのなかで完全なフリーの立場でやることに、大きなリスクは感じてました。
でも考え続けるうちに「だから、何?」って思うようになったんです。すべてを失っても、自分が本気でやりたいことを、やったほうがいいんじゃないか。やらずにいたら、10年後もその先も後悔すると思ったんです。
そしてチームから破格のオファーをもらっているということも、いままでの僕にはない話でした。それは自分の昨年の走りが海外で評価されたという事実だし、そのチャンスをみすみす自分で捨てるということがどういうことなのかをもう一度考えました。
やっとつかんだ海外での信頼を手放したくない、最後まであきらめない道が僕が一番進みたい道だと、本当の気持ちに辿り着いたんです。
それで、もう一度挑戦しようと。その思いを抱えて、ホンダとの交渉にも臨みました。そしたら最初はやっぱりビックリされたんですけど、応援してくださっていると思います。
──ホンダとしても松下くんのドライバーとしての実力を評価しているということですね。
松下:そうだとしたらうれしいです。これまでずっと、莫大な投資もしてくださっていますし。ありがたいです。
■「いま自分から夢をあきらめるのは僕にとっては違う」
──チーム名はまだ言えないとのことですが、いい結果が期待できそうでしょうか?
松下:昨年末にMPモータースポーツをはじめ3チームからいいオファーをいただいていました。そのなかでもとくにチーム力向上を狙っているところがあり、おそらくそこに移籍することになると思います。
そのチームはチーフエンジニアだけでなく、他のエンジニアもすべて入れ替わります。プレマからも優秀なデータエンジニアを引き抜きました。
メカニックはもともと優秀で、去年いっさいトラブルも出ていないので、メカニックはそのままです。資金力もそこそこあるし、かなり戦闘力が上がってくる期待はできます。
──松下選手への期待も大きいでしょうね。
松下:チームメイトはルーキーになるので、僕が引っ張っていくことになると思います。
──今後はどのような予定になるのでしょうか?
松下:1月いっぱいは国内でスポンサーさんに挨拶をして、ヨーロッパに戻るのは2月になると思います。そこからテストを経て、3月のバーレーンでの開幕戦に臨みます。
──いまの気持ちを教えてください。
松下:素直にうれしいですね。またヨーロッパでレースできますから。
──今年の目標は?
松下:タイトル獲得です。いいチームに化けそうなので、その可能性は充分にあると思います。もちろんチャンピオンになったからといって、すぐにF1に行けるというほど甘い世界ではない。
でもドライバーとしての評価が上がるのは、間違いないし、去年は開幕でつまずいて、その後もトラブルやミスが続いた。中盤以降は持ち直しましたけど、最終的には初戦の成績が響きましたから。なので今年は開幕戦から、確実に結果を出していきたいですね。
──去年の最終戦アブダビの時点では「もう一年、F2をやりたい」と言ってましたが、現実的に厳しいということは自覚していたのでしょうか?
松下:やりたいという気持ちはずっとありましたけどね。26歳という年齢はF1の世界に入る年齢としては若くありません。でもひとりの人間として見れば、まだまだ若者です。一般的に捉えるとこれからどんなことだってスタートできるときですよね。なので、いま自分から夢をあきらめるのは僕にとっては違うなと。
じつはF2挑戦へと最後に背中を押してくれた人は、マクラーレンの今井弘エンジニアだったんです。暮れにロンドンで一緒に食事した際に「みんな30代くらいになって、自分の人生を少し振り返って、それまでの後悔や、やり残したことを少し悔やむときがくる。ノブがもし、いまこの夢をあきらめたらきっとその先ずっと悔いを背負うことになる。人生で見たらまだ若いんだから、いまのうちにやりたいことをやったほうがいい」と。
そう言われて、踏ん切りがついた感じですね。僕のマネージャーからは「ホンダを失ったらすごいリスキーだぞ」とずっと言われてたんですけど。でも最後は「お前の人生なんだから、最後はお前が決めろ」と言ってくれて、それでホンダとの話し合いに臨めて、いまがあります。
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