CARGUY RACINGの木村武史が3回目のル・マン24時間挑戦へ。ケッセル・レーシングから好評価を得る
2021年、6月12〜13日に開催が予定されているWEC世界耐久選手権第3戦、ル・マン24時間耐久レース。世界三大レースのひとつで、スポーツカーレースの頂点とも言えるレースだが、今季もCARGUY RACINGの木村武史の挑戦が実現することになりそうだ。2019年の初挑戦から3年目。ジェントルマンドライバーとしての果敢な挑戦が実を結びはじめている。
木村は収益不動産を手がける株式会社ルーフの代表取締役としてのビジネスマンの顔をもつ一方、2015年から自身が所有するスーパースポーツカーを使った自動車エンターテインメント集団『CARGUY』を立ち上げ、フェラーリF40で雪山を走ったりと、さまざまな活動を続けてきた。
そんな木村は、織戸学の誘いもありモータースポーツを始めると、もともとドリフト等をたしなんでいたこともありメキメキと上達。スーパー耐久やスーパーGTに自チームで参戦を開始すると、2018-19シーズンにはCARGUY RACINGとしてアジアン・ル・マン・シリーズに挑戦。GTクラスで全勝を飾り、木村が子どもの頃から憧れていたル・マン24時間への挑戦権を手にした。この時から、木村のル・マンへの飽くなき挑戦は続いていく。
自チームで挑んだ2019年。木村は公道を多く使うサルト・サーキットに苦戦し、結果的に5位入賞という望外の結果を残したものの、自身のドライビングとしてはまだ不満が残る部分があった。その参戦初年度に多くの力を注ぎ込んでいたこともあり、不満はありながらも木村は本格的なレースへの取り組みは一時止め、ビジネスでの成長に注力しようとした。
しかしコロナ禍に揺れていた2020年、前年も協力関係にあったAFコルセから、空いた枠を使っての参戦を打診された木村は、前年の自身のラップタイムの“忘れ物”をとりに、コロナ禍のなか渡仏。医療機関に寄付を行ったりと、自らのケジメをつけて挑んだ2年目のル・マンでは、結果的にはリタイアとはなったが、目標としていたラップタイム4分切りを達成した。参戦するLM-GTE Amクラスのジェントルマンドライバーたちのなかでもトップクラスのタイム。多忙な中で練習に積極的に取り組み、世界のジェントルマンドライバーたちと並ぶ実力を示してみせた。
木村はル・マンという舞台で、自らの速さも示した。しかし、その2年目の参戦では、自分たちが完全に把握しきれない部分でのトラブルに泣くことにもなった。自らが完全に納得がいくかたちでのル・マン挑戦。それが次のステップなのは間違いなかった。木村とCARGUY RACINGは、熟考の末に2021年のWEC世界耐久選手権へのフル参戦を決断する。フル参戦すれば、世界中のチームが求めるル・マン24時間の参戦枠を得られることはもちろんだが、ル・マンで上位にくるのはすべてフル参戦チームだからだ。
信頼する自らのチームの、オール日本人体制でのWECフル参戦に向け、チームはフェラーリ488 GTEをオーダーするなど準備を進めてきた。当然、資金の面でも膨大なものになるが、それを糧にまた仕事を頑張る……というのが木村のスタンスだ。ただ、準備を進めはじめたCARGUY RACINGのWEC挑戦は、コロナ禍による渡航のリスクが収まらないことから、2021年は残念ながら断念することになってしまった。
■ケッセル・レーシングからの思わぬ評価
とはいえ、そう簡単にル・マンへの情熱は諦められるものではない。木村は2021年のル・マン24時間参戦枠を勝ちとるべく、2021年2月にドバイとアブダビで4戦が行われたアジアン・ル・マン・シリーズに挑戦することにした。フェラーリを走らせるスイスの強豪、ケッセル・レーシングからGTクラスに参戦することになったのだ。日本では非常事態宣言が出されるなか、木村は一時渡航を断念しかけたが、最終的に参戦を決断した。
ただ、中東での2週間の集中開催となる利便性から、2021年はヨーロッパから多くの強豪チーム、トップドライバーがGTクラスに押し寄せ、インターコンチネンタルGTチャレンジかのような顔ぶれとなった。皆それほどまでにル・マンの参戦枠は欲しかったのだ。
木村が乗り込み、CARGUY RACINGのイエローが施された57号車フェラーリは、第4戦こそ木村とCARGUY RACINGのスタッフが考え抜いた戦略が的中し、殊勲の1勝を挙げた。顔ぶれを考えると驚異的な結果だが、ル・マン参戦枠が得られるランキング4位以内には入ることができなかった。木村とCARGUY RACINGのル・マン挑戦は今年は見られないのか……と思っていた筆者のもとに、帰国した木村から連絡が入った。
「今年もル・マンに出られることになりそうです」と木村は言う。いったいどういうことなのか。
木村たちがアジアン・ル・マンで優勝したアブダビで、ケッセル・レーシングのチームオーナーであるロニー・ケッセルから、「我々が持っているLM-GTE Proの参戦枠を木村さんに差し上げたい。我々はLM-GTE Amで優勝を狙いたい」という打診があったのだという。「しかもケッセルがかなり費用を出してくれる」というのだ。なぜそのような“オイシイ話”が実現するのか。
ケッセル・レーシングは、スイスでフェラーリやマセラティ等の高級車を取り扱う『ケッセル・オート』をはじめとしたディーラーを運営しており、オーナーのロニー・ケッセルの父であるロリス・ケッセルは、スポット参戦ながらF1にも挑戦した経験をもつ。父から子へ受け継がれたグループ、そしてレースへの取り組みがロニーの代で昇華し、ヨーロッパで大活躍をしているチームだ。
「オーナーのロニーはまだ若いのですが、すごく家族を大事にしていて、腰も低いナイスガイです。でも、フェラーリやパガーニなどを何十台も持っているらしいです(笑)。聞くところによると、私がF40を雪山で走らせた動画を観て、彼も氷上でF40を走らせたりしたそうですよ」と木村は言う。
そんなロニー・ケッセルだが、フェラーリのディーラーでチームを運営している以上、プロを起用してLM-GTE Proでの勝利を狙うよりも、今後ケッセルの活躍をみて「自分もできるかもしれない」というジェントルマンドライバーたちをレースの世界に招きたい……という考えをもっているのだという。そこでその目的を果たすために、多くのジェントルマンドライバーたちのラップタイムをすべてチェックし、白羽の矢が立ったのが木村なのだとか。
「ロニーはすべてのドライバーのラップタイムを全部チェックしていました。そこで、『あなたは速く、ミスをしない。総合力でブロンズドライバーのナンバーワンだと思っている』と言ってもらいました」と木村。
近年、ドライバーカテゴライズが明確となり、参戦クラスによっては『速いブロンズ』、『速いシルバー』のドライバーのニーズが高まっている。自チームでのWEC挑戦は現段階で一時休止となってしまったが、2019年の挑戦、そして2020年の挑戦がこうして“プロのブロンズドライバー”として海外のトップチームから評価されたかたちと言える。
正式な発表はまだ待たなければならないが、2021年のル・マン24時間で楽しみな要素のひとつになりそうだ。木村の3年目の冒険は、どんなものになるだろうか?
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