アレイシ・エスパルガロが語るMotoGPライディングの変化。ロッシが新時代に適応したことは「信じられない」
イギリス在住のフリーライター、マット・オクスリーがアプリリア・レーシング・チーム・グレシーニ のアレイシ・エスパルガロにインタビューを実施。アレイシはMotoGPで勝利を挙げていないが、最高峰クラスのなかで最も攻撃的なライディング技術を持つという。また、MotoGPエンジン、タイヤ、電子制御の挙動だけでなく、ライディングスタイルについても興味深い事実を明かした。
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Q:君は2009年からMotoGPに参戦している。MotoGPがミシュランタイヤと共通ソフトウェアへ変わったことで、状況はどれだけ変化した?
アレイシ・エスパルガロ(以下、アレイシ):ライダーとエンジニアの状況を最も大きく変えたのはタイヤだね。グリッド上で最低のバイクに乗っていても、最高のタイヤがあればレースに勝てるんだ。
だからタイヤの変更によって僕たちのライディングスタイルは変わった。そして、ファクトリーチームのバイク設計とエンジニアがバイクをセットアップするやり方も変わったね。
最初の頃、共通ソフトウェアには手こずった。トラクションコントロールとエンジンブレーキの挙動を変えなければならなかったからね。でも大騒ぎするほどのことではなかったよ。コースがとても滑りやすいと、電子制御の違いを感じる時がある。でも、バイクは電子制御よりもタイヤからの影響をより受ける。
2016年からミシュランタイヤになったけれど、僕のキャリアのなかでも酷い年になった。フロントのコントロールに苦戦したんだ。特に最初の頃は、ストレートラインだけでブレーキを使わなければならなかった。コーナーに差し掛かる時にブレーキングできなかったからだ。理解するのがとても難しかったよ。それが、僕がもうスズキにいない理由だよ。1年目にミシュランのフロントタイヤに適応することができなかったからだ。
シーズン後半には速さを出せるようになったけれど、ライダーの座を維持するには遅すぎた。パドックではすべてのことが早く展開するからね。
Q:ミシュランタイヤに対してどのようにテクニックを変えた?
アレイシ:たくさんのデータを見ることだよ。トム(・オカーン、スズキでのエスパルガロのクルーチーフ)とパソコンの前で多く過ごしたのを覚えている。傾斜角度とフロントブレーキ圧の組み合わせをチェックして理解しようとしていた。それからは僕はよりバランスが取れるようになった。傾斜角度を小さくし、ブレーキ圧を減らしたんだ。
このことを話すのは簡単だけど、バイクに乗ってライディングスタイルを変えるのはとても難しいことだ。僕にとって状況はとても厳しいものになったね。
でもミシュランは素晴らしい仕事をした。今ではラップレコードを更新できているからね。すべてのコースで肘を路面につけ、フロントタイヤからさらにパフォーマンスを引き出そうとしている。
フロントタイヤは初年度以降大きく改善されたから、今ではブリヂストンのフロントタイヤに非常に近いものになっている。でもまだ同じというわけではない。ブリヂストンのフロントタイヤで、(フロントブレーキに)15バールの圧力をかけ、60度傾斜させて肘を路面につけ、フロントをロックさせても、クラッシュしなかったのを覚えているよ。これはミシュランタイヤでは不可能だ。
ミシュランタイヤでは、ブレーキのかけ始めとフロントブレーキをリリースするまでの時間を最小限にしなければならない。アンドレア・ドヴィツィオーゾはこのことに最も秀でている。ドヴィツィオーゾの近くを走っている時、彼は僕より遅くブレーキをかけることがない。
僕たちが同じ場所でブレーキをかけ始めると、ドヴィツィオーゾがフロントブレーキをリリースする時に彼は僕より約5km/h遅くなる。同じ数メートルの距離で彼は僕より多くのスピードを失うんだ。
だからコーナーに差し掛かる時にドヴィツィオーゾが65%のリスクを取る一方で、僕は75%のリスクを取っている。だから、バイクをストレートで早く減速させることにつきるんだ。
2017年でさえ、オーストリアなどの高速サーキットでは、フロントタイヤを活かすためのセットアップをきちんと行わないと、ストレートでのブレーキング時にフロントがロックしてしまっていた。タイヤに十分な荷重をかけていないのかどうか、それともタイヤを潰してしまっているのかどうか、理解するのが難しい時がある。なぜならどちらでも同じように感じるからだ。
僕はエンジニアにフロントタイヤがブレーキング中に(タイヤが)潰れてしまっていると話すことがある。バイクが動きすぎてしまうからだ。でも多くの分析をした後で、タイヤがグリップするための十分な圧をかけていないことに気付くんだ。
■ロッシが新時代に適応したことは「信じられない」
Q:ライディングについてはどう?
アレイシ:僕はバイクからそれほど大きく身を乗り出して傾けない。ここは僕が改善する必要があるところなんだ。もっと身を乗り出そうとするけれど、僕にとっては簡単ではない。左コーナーではできるけど、全体的に改善が必要だね。
バレンティーノ(・ロッシ)が新時代に適応したことについては信じられないよ。それでもドヴィツィオーゾは近年では最も強力なライダーのひとりだ。それにカル(・クラッチロー)もとても速い。でもふたりともそれほどバイクを傾けない。たくさんの人たちが、もっと身を乗り出せば速くなると僕に言うが、完全には同意していないんだ。このことに取り組みたいと思っている。そうすれば本当かそうでないか分かるだろう。試してみなければ、決して分からないからね。
Q:電子制御をあまり使わずに走る方がいい?
アレイシ:2018年にアプリリアが新エンジンを作った時、エンジニアが僕にトラクションコントロールを完全に切って何周か走るように頼んできた。エンジンの純粋な挙動を見るためにね。エンジンはすごく良くなったよ! だけど、トラクションコントロールを使うたびに、エンジンを台無しにしている。
もちろんバイクは260馬力もあるから、トラクションコントロールは必要だ。でもグリップがない時には、トラクションコントロールやウィーリーコントロールを多用したくない。エンジン制御のパワーリダクションを使う方がいい。
もしバイクに85%のパワーを求めると、75%のパワーを出すようになる。なぜならトラクションコントロールを使うとエンジンが台無しになり、サスペンションやシャシーが動くようになって、バイクはとても不安定になるからだ。
ウイリーコントロールもバイクをめちゃくちゃにするよ。僕としては、バイクにはトラクションコントロールやウイリーコントロールがあまりない方がいいね。間違いないよ。
Q:タイヤ選択についてはどうだろう。最近では難しくなっているけど。
アレイシ:気温、路面温度がとても暑い時には、より硬いタイヤが必要と思うかもしれないけれど、もはやそうではないんだ。2017年のある時、(ヨハン・)ザルコがとても暑いレースでソフトのリヤタイヤを選んだ。僕たちは、ザルコはレースをフィニッシュすることはできないだろうと言ったけれど、彼は表彰台を獲得したんだ。
このことについて僕には説明ができない。だけど、コース温度が高くなるとグリップはあるレベルまで改善されていく。そしてコース温度が40度を超えるくらいになるとグリップが減り始めるんだ。だから路面温度がとても高いとグリップが少ないから、大抵は涼しいコンディションでしか使わないソフトタイヤが必要になるんだ。
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