湘南、山口監督に求めたい[4-4-2]の練度向上。浦和との乱打戦を検証
2024明治安田J1リーグ第4節の全10試合が、3月16日と17日に各地で行われた。湘南ベルマーレは17日、本拠地レモンガススタジアム平塚で浦和レッズと対戦。最終スコア4-4で引き分けている。
一時3-1と2点リードしながら、後半10分と19分の失点で同点に追いつかれた湘南。同29分にFWルキアンが勝ち越しゴールを挙げたものの、この7分後に浦和MFサミュエル・グスタフソンのミドルシュートを浴びリードを守りきれず。今2024シーズンのホームゲーム初勝利はお預けとなった。
ここでは第4節浦和戦を振り返るとともに、主に湘南の戦いぶりを検証・論評していく。
試合序盤は浦和ペース
[4-4-2]と[3-1-4-2](自陣撤退時[5-3-2])。この2つの布陣を今季使い分けている湘南の山口智監督は、浦和相手に後者を選択した。
キックオフ直後から湘南は[5-3-2]の守備隊形で構え、基本布陣[4-1-2-3]の浦和GK西川周作や最終ラインからのパス回し(ビルドアップ)を封じようとする。ルキアンと鈴木章斗の両FWが浦和の中盤の底グスタフソンへのパスコースを塞ぎ、アウェイチームのパス回しをサイドへ追いやろうとする意図が窺えたが、浦和の両サイドバック(DF酒井宏樹とMF渡邊凌磨)に湘南のどの選手が寄せるのかが曖昧に。平岡大陽と池田昌生の両MF(2インサイドハーフ)、及びDF杉岡大暉とMF鈴木雄斗の両ウイングバックどちらの寄せも遅れ気味だったため、浦和のビルドアップを止めきれなかった。
インサイドハーフとウイングバックの守備の役割がはっきりしないことが災いしたのか、湘南の守備隊形が[5-1-4]に近い状態となり、ぽっかりと空いたMF田中聡(中盤の底)の周辺を浦和FW興梠慎三に突かれる場面がちらほら。ゆえに試合序盤の主導権を浦和に握られた。
浦和のビルドアップを止められず失点
前半10分には、2センターバック間へ降りてビルドアップに関わったグスタフソンへの湘南の対応が曖昧になり、ここに田中が寄せたが間に合わず。グスタフソン、小泉佳穂、伊藤敦樹のMF陣による小気味良いパスワークでボールを敵陣右サイドへ運んだ浦和は、右ウイングFW前田直輝と右サイドバック酒井の2人で湘南の最終ラインを崩しにかかる。酒井がタッチライン際から内側へ移動して湘南DF大野和成(3センターバックの左)を釣り出し、これにより空いた湘南DF杉岡とキム・ミンテの間を前田が突く。グスタフソンの浮き球に反応した前田がペナルティエリア右隅へ侵入し、ゴール前へラストパスを送ると、これを興梠が結実させた(得点は前半11分)。
浦和のペースダウンを突いた湘南
このゴール直後から浦和が[4-1-4-1]の隊形を敷き、最前線からの守備(ハイプレス)も仕掛けなかったため、湘南がボールを保持する展開に。ビルドアップ時にウイングバックが低い位置に立ってしまい、相手のハイプレスをもろに浴びるというのが昨2023シーズンに見られた湘南の悪癖だが、この日はこれが見られず。杉岡と鈴木雄斗の両ウイングバックが相手サイドバックとウイングFW(守備時サイドハーフ)の間に立ったため、湘南は分厚い攻めを繰り出せた。
迎えた前半23分、田中が敵陣左サイドへのロングパスと見せかけ、ペナルティエリア右隅へ縦パスを送る。ここへ走った鈴木雄斗のクロスのこぼれ球を逆サイドにいた杉岡が折り返すと、このラストパスをルキアンが相手ゴールに押し込んだ。
前半32分には田中が敵陣ペナルティアーク付近でルーレット(ボールを軸にしたターン)を繰り出し、これに浦和守備陣が翻弄される。この直後の田中のシュートが鈴木章斗に当たって軌道が変わり、これが相手ゴールに吸い込まれた。
守り切れなかった2点のリード
後半開始の笛から僅か15秒後、鈴木章斗が浦和DFマリウス・ホイブラーテンの横パスをカットした後にミドルシュートを放ち、湘南に追加点をもたらす。浦和の出鼻をくじいた湘南の勝利は濃厚と思われたが、ホームチームはこのリードを守りきれなかった。
後半10分、湘南は相手MF松尾佑介にコーナーキックのこぼれ球を押し込まれると、同19分にはセンターサークル内で大野のパスを受けた池田がボールをコントロールできず、ここから浦和の速攻が始まってしまう。この直後にボールを受けようとした浦和MF岩尾憲を、田中とDF大岩一貴のどちらが捕捉するのか。この点が曖昧になり湘南は岩尾にスルーパスを繰り出されると、これに反応した前田に同点ゴールを奪われた。
後半29分に田中のミドルシュートがポストに当たり、跳ね返ったボールをルキアンが押し込んだが、湘南はこの勝ち越しゴールもふいに。迎えた同36分、左サイドから中央へドリブルを仕掛けた松尾に湘南の選手が集まったため、ペナルティアーク後方で待ち構えていたグスタフソンがフリーに。この直後に放たれたグスタフソンのミドルシュートが平岡に当たって軌道が変わり、ボールは無情にも湘南が守るゴールに吸い込まれた。
もったいない時間を過ごした湘南
前述の通り試合序盤に守備の段取りが曖昧になり、浦和に主導権を握られてしまった湘南。前半20分すぎから平岡と池田の2インサイドハーフが相手サイドバックに寄せることが徹底され、ハイプレスが機能し始めただけに、特にキックオフからの20分間はもったいなかった。
ここからは筆者の見解になるが、ビルドアップ時にサイドバックが自陣後方タッチライン際に立つことが多く、4バックがあまり隊形変化せずにパスを回す傾向が強い浦和には、[4-4-2]の守備隊形で挑んだほうが自分たちの力をより発揮できたのかもしれない。[3-1-4-2](自陣撤退時[5-3-2])で臨んだ今節は浦和の中盤の底グスタフソンに誰がマークに付くのかが不明瞭だったが、[4-4-2]であれば基本布陣[4-1-2-3]のチームへの対応もやりやすくなるだろう。
湘南にとって理想的な守備は
今季J1リーグ4試合消化時点で8失点。クリーンシート(無失点試合)もまだ達成できていない湘南が今後突き詰めるべきは、[4-4-2]の布陣を軸とした中央封鎖、及び相手のパス回しをサイドへ追い込んだうえでのボール奪取だ。
今回の浦和のように相手チームの基本布陣が[4-1-2-3]であれば、まず湘南の2トップが相手2センターバックを捕捉。これと同時に湘南の両サイドハーフが内側へ絞り、相手の中盤の底とインサイドハーフのひとりを捕まえる。さらに相手のもうひとりのインサイドハーフを湘南の2ボランチのどちらかがマークし、ボランチの片割れが後方のスペースをカバー。厳密に言えば[4-2-2-2]や[4-1-3-2]に近い守備隊形だが、第1節川崎フロンターレ戦と第2節京都サンガ戦で[4-4-2]のサイドハーフを務めた平岡と池田は、中央でのプレーを苦手としていない。球際での強さも申し分なく、前述のタスクをこなせるだろう。
相手サイドバックをあえてフリーにし、中央封鎖によってここへパスを誘発したら、湘南も守備隊形をスライドさせる。図2のようにボールサイド側の湘南サイドハーフが相手サイドバックへ素早く寄せ、これと同時に後方のスペースを守っていた湘南の2ボランチの一角が飛び出し、ボールサイド側の相手インサイドハーフを捕まえる。これが理想的な中央封鎖、ならびにサイドへの追い込み守備だ。
これに似たような守備を湘南は第1節と2節でしているが、相手のパスをサイドバック方面へ追い込んだ後の守備強度が足りない場面が見受けられ、第1節では川崎FのMF橘田健人([4-1-2-3]の中盤の底)を捕まえきれていないシーンがあった。昨年までの基本布陣[3-1-4-2]に加え[4-4-2]に着手している山口監督には、後者の隊形を基本とするハイプレスの練度向上を求めたい。これが今節の乱打戦を受けての筆者の感想だ。
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