【コラム】不撓不屈の精神で再び日本代表へ…本田圭佑の発言に見るパチューカでの進化
サッカーキング2018年3月19日(月)6時30分
自身の集大成と位置付けるロシアW杯、そこに本田の姿はあるのか [写真]=Getty Images
不撓不屈の人である。
先日、日本代表に「カムバック」を果たした本田圭佑(パチューカ)のことだ。招集は実に半年ぶり。昨夏のロシア・ワールドカップ アジア最終予選を最後に代表メンバーから遠ざかっていた。
昨年10月の国内戦、および11月の欧州遠征では、いずれもメンバーから「落選」している。国内組を主体にした10月のテストマッチはともかく、負傷が癒えて公式戦のピッチに立っていた11月時点でも招集を見送られた。
「驚きでしたけど、監督にはそれを決める権限があるので。監督もリスクを背負ってメンバーを選んでいるでしょうし、僕はとりあえず、ここで結果を出す以外にできることはない」
これは毎試合後に配信している有料メルマガコンテンツ『CHANGE THE WORLD by KSK』のなかで語られていたものだ。
さしもの本田も心中、穏やかではなかっただろう。しかし、ただでは転ばぬところが、本田の本田たるゆえんでもある。新天地のメキシコで未知の環境に適応しつつ、試合を重ねるごとにパフォーマンスの質を高めていった。ミラン在籍時はベンチでくすぶる機会も少なくなかった。4年前のブラジル・ワールドカップでもコンディション調整に苦心した節がある。パチューカでは目下、アタック陣のハブとしてフル稼働だ。
「試合に出ていると、コンディションが上がるし、フィーリングも良くなる。ワールドカップまで戦闘モード、ウェルカムですから。1日のオフもいらない」
それこそ、心身の両面で好循環を実感している。いわゆる試合勘や本来の落ち着きを取り戻してきたのも大きい。ちょうど日本代表がブラジルに大敗を喫した2日前の11月8日、メキシコカップの準々決勝で「60メートル・4人抜きゴール」までやってのけた。
「これまでなら、あそこ(バイタルエリア)に行こうとは思わなかった。意識しているところで成長しているのは間違いない。ドルブルやステップの取り組みが出た。練習しているので」
31歳を迎えてなお、持ち前の向上心は少しも衰えていない。過去の本田を参照しても、現在の本田は常に先を行っている。そこには本人なりの考えがあるからだ。
「今日のベストは明日のベストではない。いままで自分が正しいと思っていたことを常に変える勇気を持っているし、これまでもそうしてきた。従来のプライドやこれで成功してきたという自負を切り崩してでも、新しいことに挑戦していく」
こう言いきれる人は、そうはいないだろう。キャリアを重ねてきた実力者ほど昔取った杵柄に「おんぶに抱っこ」というケースは少なくないからだ。得意技の一点突破に頼る人は、それが通用しなくなった時点で「終わり」が見えてくるが、本田は違うらしい。
ミラン時代から間接視野の強化に取り組み、パチューカでは新たにロングキックの精度を磨く練習メニューも採り入れたという。その効果か、往時に繰り出していたミドルレンジの強烈な一発や、直接FKを含めたプレースキックが再びうなりを上げつつある。
イケイケの若手時代はケガに強いイメージもあったが、さすがに近年は負傷も目につくようになった。体が資本だけに目下、コンディションの調整にも余念がない。
「プロになって初めてというくらい、調整には気を遣っている。とくにトレーニング、食事、睡眠の3つには」
実際、当人はその効果を感じているという。この手の自己管理は一流どころのイロハとはいえ、本田がやるとなると、その徹底ぶりが容易に想像できる。しかし、昨夏以降の細かな取り組みの一つひとつは「伏線」に過ぎない。
勝負は(今年)1月からの半年間――。
その考えは少しもブレていない。ロシアにおける本大会から逆算して、ここが勝負どころ、と見定めていた。極端に言うなら「そこまでのことは関係ない」と。
「選考云々よりもパフォーマンスの面で勝負だと。この半年間で自信をつけたり、コンディションを上げたり。良い意味でも悪い意味でも、たった2、3カ月で全部ひっくり返る可能性がある。だから、本当の勝負はこれから」
思えば、8年前のいま頃、日本代表における本田の位置づけは必ずしも確定的なものではなかった。もっと言えば、スタメンの一角に食い込んだのは本大会の直前である。
それこそ昇り竜のごとき勢いが本田をメインキャストに押し上げ、引いては日本代表をベスト16へ導くことになった。逆に4年前のブラジル大会では所属先のミランで出場機会を減らし、ピークのもっていき方の難しさに直面している。苦い「良薬」だったか。
しばらく代表の活動から遠ざかっても、落ち込むどころか、土壇場での巻き返しを虎視眈々と狙っていたわけだ。そして、実際に計ったように代表へのカムバックを果たしたのだから、やはりただ者ではない。
「われわれは、ずっと(本田の動向を)追跡してきた。このチャンスをつかんでほしい」
日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、本田への期待を隠さなかった。同時に細かい「注文」も口にしている。
「単純に良いプレーをしてほしい。とくに得点を取る、取らせるところ。いつも(中盤に)下りてきて、足元で(ボールを)もらってしまうのではダメだ。やはり(相手ディフェンスの)背後に走ってほしい。そうすれば点が取れる。フォワードだが、守備も大事だ」
あくまでチーム戦術に見合った働きをやってくれ――と。確かに、それも大事なミッションには違いない。だが、本田の最大の強みは「裏へ走る」といった目に見えるような類のものではないだろう。
「本来の能力を出し切れないのが代表戦の難しさ。重要な場面でプレッシャーをはねのけて、何か違うプレーをクリエイトできる選手が何人いるかが大事になる。そこで経験のある選手がどれだけサプライズを起こせるか」
本田は己の価値、あるいは使命をよく分かっている。過去2大会で奪った6ゴールのうち、本田が絡まなかったのは南アフリカ大会の遠藤保仁の直接FKだけだ。名うての実力者であっても重圧に負けて沈黙しかねないのがワールドカップである。
大舞台に棲みつく「魔物」には、才能や勢いだけでは打ち勝てない。だからこそ、必要なのだろう。理屈を超えた異能の人が。本田はいまでも、その数少ない一人だと思う。
文=北條聡
先日、日本代表に「カムバック」を果たした本田圭佑(パチューカ)のことだ。招集は実に半年ぶり。昨夏のロシア・ワールドカップ アジア最終予選を最後に代表メンバーから遠ざかっていた。
昨年10月の国内戦、および11月の欧州遠征では、いずれもメンバーから「落選」している。国内組を主体にした10月のテストマッチはともかく、負傷が癒えて公式戦のピッチに立っていた11月時点でも招集を見送られた。
「驚きでしたけど、監督にはそれを決める権限があるので。監督もリスクを背負ってメンバーを選んでいるでしょうし、僕はとりあえず、ここで結果を出す以外にできることはない」
これは毎試合後に配信している有料メルマガコンテンツ『CHANGE THE WORLD by KSK』のなかで語られていたものだ。
さしもの本田も心中、穏やかではなかっただろう。しかし、ただでは転ばぬところが、本田の本田たるゆえんでもある。新天地のメキシコで未知の環境に適応しつつ、試合を重ねるごとにパフォーマンスの質を高めていった。ミラン在籍時はベンチでくすぶる機会も少なくなかった。4年前のブラジル・ワールドカップでもコンディション調整に苦心した節がある。パチューカでは目下、アタック陣のハブとしてフル稼働だ。
「試合に出ていると、コンディションが上がるし、フィーリングも良くなる。ワールドカップまで戦闘モード、ウェルカムですから。1日のオフもいらない」
それこそ、心身の両面で好循環を実感している。いわゆる試合勘や本来の落ち着きを取り戻してきたのも大きい。ちょうど日本代表がブラジルに大敗を喫した2日前の11月8日、メキシコカップの準々決勝で「60メートル・4人抜きゴール」までやってのけた。
「これまでなら、あそこ(バイタルエリア)に行こうとは思わなかった。意識しているところで成長しているのは間違いない。ドルブルやステップの取り組みが出た。練習しているので」
31歳を迎えてなお、持ち前の向上心は少しも衰えていない。過去の本田を参照しても、現在の本田は常に先を行っている。そこには本人なりの考えがあるからだ。
「今日のベストは明日のベストではない。いままで自分が正しいと思っていたことを常に変える勇気を持っているし、これまでもそうしてきた。従来のプライドやこれで成功してきたという自負を切り崩してでも、新しいことに挑戦していく」
こう言いきれる人は、そうはいないだろう。キャリアを重ねてきた実力者ほど昔取った杵柄に「おんぶに抱っこ」というケースは少なくないからだ。得意技の一点突破に頼る人は、それが通用しなくなった時点で「終わり」が見えてくるが、本田は違うらしい。
ミラン時代から間接視野の強化に取り組み、パチューカでは新たにロングキックの精度を磨く練習メニューも採り入れたという。その効果か、往時に繰り出していたミドルレンジの強烈な一発や、直接FKを含めたプレースキックが再びうなりを上げつつある。
イケイケの若手時代はケガに強いイメージもあったが、さすがに近年は負傷も目につくようになった。体が資本だけに目下、コンディションの調整にも余念がない。
「プロになって初めてというくらい、調整には気を遣っている。とくにトレーニング、食事、睡眠の3つには」
実際、当人はその効果を感じているという。この手の自己管理は一流どころのイロハとはいえ、本田がやるとなると、その徹底ぶりが容易に想像できる。しかし、昨夏以降の細かな取り組みの一つひとつは「伏線」に過ぎない。
勝負は(今年)1月からの半年間――。
その考えは少しもブレていない。ロシアにおける本大会から逆算して、ここが勝負どころ、と見定めていた。極端に言うなら「そこまでのことは関係ない」と。
「選考云々よりもパフォーマンスの面で勝負だと。この半年間で自信をつけたり、コンディションを上げたり。良い意味でも悪い意味でも、たった2、3カ月で全部ひっくり返る可能性がある。だから、本当の勝負はこれから」
思えば、8年前のいま頃、日本代表における本田の位置づけは必ずしも確定的なものではなかった。もっと言えば、スタメンの一角に食い込んだのは本大会の直前である。
それこそ昇り竜のごとき勢いが本田をメインキャストに押し上げ、引いては日本代表をベスト16へ導くことになった。逆に4年前のブラジル大会では所属先のミランで出場機会を減らし、ピークのもっていき方の難しさに直面している。苦い「良薬」だったか。
しばらく代表の活動から遠ざかっても、落ち込むどころか、土壇場での巻き返しを虎視眈々と狙っていたわけだ。そして、実際に計ったように代表へのカムバックを果たしたのだから、やはりただ者ではない。
「われわれは、ずっと(本田の動向を)追跡してきた。このチャンスをつかんでほしい」
日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、本田への期待を隠さなかった。同時に細かい「注文」も口にしている。
「単純に良いプレーをしてほしい。とくに得点を取る、取らせるところ。いつも(中盤に)下りてきて、足元で(ボールを)もらってしまうのではダメだ。やはり(相手ディフェンスの)背後に走ってほしい。そうすれば点が取れる。フォワードだが、守備も大事だ」
あくまでチーム戦術に見合った働きをやってくれ――と。確かに、それも大事なミッションには違いない。だが、本田の最大の強みは「裏へ走る」といった目に見えるような類のものではないだろう。
「本来の能力を出し切れないのが代表戦の難しさ。重要な場面でプレッシャーをはねのけて、何か違うプレーをクリエイトできる選手が何人いるかが大事になる。そこで経験のある選手がどれだけサプライズを起こせるか」
本田は己の価値、あるいは使命をよく分かっている。過去2大会で奪った6ゴールのうち、本田が絡まなかったのは南アフリカ大会の遠藤保仁の直接FKだけだ。名うての実力者であっても重圧に負けて沈黙しかねないのがワールドカップである。
大舞台に棲みつく「魔物」には、才能や勢いだけでは打ち勝てない。だからこそ、必要なのだろう。理屈を超えた異能の人が。本田はいまでも、その数少ない一人だと思う。
文=北條聡
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