酷似する森保ジャパンとU-23日本代表の課題。逆転負けのマリ戦を検証
パリ2024夏季オリンピック(パリ五輪)出場を目指すU-23日本代表は3月22日、サンガスタジアムby KYOCERAにて同マリ代表と対戦。最終スコア1-3で敗れている。
前半2分にフリーキックから先制ゴールを挙げたものの、攻守両面でミスが多く、試合を掌握しきれなかったU-23日本代表。来月から始まるパリ五輪出場権をかけた予選、AFC・U-23アジアカップに向けて不安が残る試合内容だった。
U-23日本代表の問題点は何か。ここでは今回のマリ代表戦を振り返るとともに、現地取材で得た大岩剛監督の試合後コメントを紹介。そのうえでこの点について検証・論評する。
しだいに通用しなくなったハイプレス
前半2分、U-23日本代表が敵陣右サイドでフリーキックを獲得。MF山田楓喜のクロスボールにFW植中朝日がヘディングで触り、このこぼれ球がペナルティエリア内にいたMF平河悠のもとへ。平河が落ち着いてシュートを放ち、先制ゴールをもたらした。
幸先の良いスタートを切ったU-23日本代表は、[4-4-2]の守備隊形を軸にハイプレスを仕掛ける。試合序盤はU-23マリ代表の4バックが自陣後方で横へ広がり、サイドバックの立ち位置もタッチライン際となったため、U-23日本代表によるここへのプレスが威力を発揮した。
U-23日本代表がこのままハイプレスで試合を掌握すると思いきや、しだいにU-23マリ代表の選手たちのスピードや強烈なフィジカルコンタクトに手を焼くようになり、攻め込まれる。前半14分にはU-23日本代表の右サイドから内側へドリブルを仕掛けたFWティエモコ・ディアラを止められず、GK野澤大志ブランドンを強襲するミドルシュートを放たれている。ここではディアラに誰が寄せるのか、いわゆるマークの受け渡しが曖昧になっており、U-23日本代表の撤退守備の脆さが浮き彫りとなった場面と言えよう。
様々なビルドアップを試したが…
U-23日本代表の攻撃時の初期配置は[4-1-2-3]。ここから高井幸大(センターバック)と半田陸(右サイドバック)の両DF間へMF山本理仁が降りる、または半田、高井、DF西尾隆矢で一時的に3バックを作ったうえでDFバングーナガンデ佳史扶(左サイドバック)を高い位置へ上げるなどの隊形変化が見られた。
様々な配置でビルドアップ(GKや最終ラインからのパス回し)を試みたU-23日本代表だが、これの完成度が高いとは言い難い。前半の半ば以降、左サイドバックのバングーナガンデが自陣後方タッチライン際へ降りてビルドアップに関わろうとしてしまう場面や、右サイドバックの半田も同じような立ち位置をとってしまうケースがちらほら。ゆえに両サイドバックが相手サイドハーフに捕捉される、もしくはサイドバックからのパスを相手サイドハーフにカットされかける場面があった。
また、中盤の底を務めたMF川﨑颯太と2インサイドハーフ(山本と植中)の距離が遠くなるケースも散見され、これによりビルドアップ時に川﨑が孤立。迎えた前半34分、自陣ペナルティアーク付近で川﨑が西尾へパスを出そうとしたものの、ボールタッチがうまくいかずパスの軌道が逸れる。このパスがU-23マリ代表の選手に渡って速攻を浴びると、MFママドゥ・サンギャレに同点ゴールを奪われた。
失点の直接的な原因は川﨑のボールコントロールミスだが、このシーンでは同選手の周りに山本と植中のインサイドハーフがおらず、川﨑が孤立してしまっている。ビルドアップ時の配置の悪さがこの失点の遠因であり、川﨑の技術力だけに帰結させるべきではないだろう。
後半8分、サンギャレのミドルシュートをGK野澤がキャッチしきれず、こぼれ球をDFママドゥ・トゥンカラに押し込まれる。後半開始早々に出鼻をくじかれたU-23日本代表はその後も劣勢を覆せず、同45分に浴びた速攻からMFブバカル・トラオレのゴールを許し、この時点で試合の趨勢が決した。
大岩監督の見解は
U-23日本代表を率いる大岩監督は試合後会見で、筆者の質問に回答。この会見において監督から具体的な修正ポイントは挙がらなかったが、狙い通りのビルドアップができていなかったのは確かなようだ。
ー日本代表のビルドアップについてお伺いします。時折ですが、選手同士の距離が開いて前後が分断されているように見受けられました。監督の主観で構わないのですが、前線の選手の立ち位置の問題なのか。それとも最終ラインやボランチの選手の立ち位置が整わず、前線にうまくボールを供給するためのパスルートを確保できなかったのか。どちらの側面が強かったかをお訊きしたいです。あと、このポジションの選手の立ち位置がうまくいっていないと監督のなかでお気づきの点がありましたら、ぜひお伺いしたいです。
「前線と最終ラインの距離があった(間延びしていた)という部分についてはもう1回映像を見ないと分からないですけど、我々が狙っていたビルドアップを出来たときと出来なかったときがあったのは事実だと思います。色々な相手の立ち位置を選手たちがしっかり判断しなければならないのと、我々が作り込んできたビルドアップが相手に合っていなかった(有効ではなかった)部分もあると思います。それはしっかり検証したなかで、我々の意図(狙い)が出たか出なかったかを評価の基準にしたいです」
同様の問題を抱える森保ジャパン
マリ代表戦前日、筆者は国立競技場で行われたFIFAワールドカップ26アジア2次予選(兼AFCアジアカップ・サウジアラビア2027予選。朝鮮民主主義人民共和国代表戦)も取材しており、試合後の会見で森保一監督への質問機会を得ている。森保ジャパンもビルドアップに問題を抱えており、同監督自身も回答のなかで改善を誓っている。フル代表とU-23代表ともに、ビルドアップ時の選手配置は要改善事項だ。
ーお伺いしたいのは、日本代表のビルドアップについてです。4バックが低い位置(自陣後方)で横に広がり、なおかつサイドバックがタッチライン際に立つ場面が時折ありました。それによってパスコースが無くなりかけたり、相手のプレス(寄せ)をもろに浴びかけたりする場面があったように見受けられました。森保監督としては何か意図があって「これで良し」としていたのか、それともこれとは違う理想的な配置があったのか。監督がどうお感じになられていたかをお訊きしたいです。
「(狙いは最終ラインの)4人でピッチの横幅68メートルを受け持って、ボールを動かすということです。(戦況の)受け取り方には色々あって、パスコースが無くなるという受け取り方をされたということですけど、マークに付かれることで相手の陣形がどう変わるかを考えると、(日本代表の4バックが)幅を広くとれば、相手(の守備隊形)を広げることができる。パスが繋がったかどうかは分からないですけど、そういうこと(攻撃)もできます」
「相手が幅をマークせずに(守備隊形を横に広げずに)中央を締めてくれば、サイドバックがボールを受けられる。こういうビルドアップのやり方があっても良いのかなと思います」
「(ビルドアップが)うまくいっていないと捉えられるというのは、改善の余地があるということだと思います。仰る通り1点取った後、もう少しスムーズに(ビルドアップ)できる場面もあったと思いますので、そこはチームの改善点として取り組んでいきたいです」
フル代表とU-23代表に共通している悪癖は、ビルドアップ時にサイドバックが自陣後方且つタッチライン際に立つことで、相手サイドハーフのプレスをもろに浴びる状況を作ってしまうこと。ここにサイドバックが立ってボールを受けても、自身の傍にはタッチラインがあるため左右どちらかのパスコースが必然的に消える。また、サイドバックの前に立っている味方サイドハーフにも相手のマークが付くため、サイドハーフが前向きで(相手ゴール方面を向いて)ボールを受けられる確率も低い。森保監督も大岩監督も、このリスクを鑑みてビルドアップの配置を再考すべきだろう。
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