新車シビック、新型式エンジン投入に新しいタイヤ、3メーカーのオフ事情と開幕戦岡山への手応え【GT500プレビュー】
今週末、岡山国際サーキットでいよいよ開幕を迎えるスーパーGT。今年のスーパーGT、そしてGT500クラスはとにかく話題が豊富だ。車種ではホンダがNSX-GTに変えて新車種のシビック・タイプR-GTを投入し、ドライバーではメーカー間の移籍が活発化、ルーキーも4人がデビューする。さらにレギュレーション面ではタイヤの持ち込みセット数がこれまでの5セットから4セットに変わり、車高も実質5mmアップする。 そしてスポーティングレギュレーション面でも予選Q1とQ2で同じタイヤを使用して、ドライバーふたりの合算方式になるなど、とにかく昨年からの変更が多岐にわたっている。
その変更点の多さをざっくりと踏まえた上で、富士スピードウェイでの公式テスト直後、そして開幕戦岡山での搬入日に聞いた各メーカー、そしてドライバーに開幕戦に向けての抱負をお届けする。
まずは今季のGT500で一番のトピックスとも言える、新型車両シビック・タイプR-GTの出来栄えと手応えについて。テスト段階でのリザルトを見ると、シビックが上位に来るシーンはあまり見られず、今年はGRスープラ陣営が好調でそのGRスープラをニッサンZ、シビックが追うかたちになっている。
ホンダの開発ドライバーのひとりとして、シビック・タイプR-GTのシェイクダウンを担当した山本尚貴(STANLEY CIVIC TYPE R-GT)にここまでの開発の手応えを聞く。
「自分が怪我で乗れない時期はありましたけど、クルマの開発はシェイクダウンから順調に進んできた感覚はあります。本音で言うと、(5ドアのシビックのGT500マシン採用に)最初はそんなにいい予想はしていませんでした。ですので、そのハードルの低さからのスタートと考えると『思ったより走れるな』と言うのがシェイクダウンの時の印象でした」と山本。
「ただ、自分の予想よりは良かったのですけど、決して完成度が高かったわけではないので、いろいろと方向性などクルマのセットアップを振ってみて、このシビックの特性などを掴むところから始めました。昨年の夏にシェイクダウンして、その後昨年は僕が怪我をしてしまったので開発をいったん離れましたけど、セパンから僕の復帰にもなりまして、その時にクルマも大きく振ってみましたね。やはりNSXとはキャラクターが違うので、そのキャラクターに合わせたセットアップやタイヤを見つけていかないといけないなと思っていましたが、このオフのテストは雨が多くて結構、未消化な部分があるので、正直、開幕に向けて準備万端ですとは言えない状況なのかなと思っています」と、開幕に向けての懸念を話す。
シビックのそのクルマの特性については、伊沢拓也(Modulo CIVIC TYPE R-GT)の言葉がわかりやすかった。
「僕としては車体はNSXよりも全然、走らせやすいです。クセがないですし、速さのピークはまだNSXほど出てない部分がありますけど、逆に言えばピーキーなところもない。NSXはそのピーキーな部分、ピークを出せる時間は長くはなかったですし、コーナリング中もシビックの方がドライバーとして無理ができる感覚です」と伊沢。
「NSXは本当にドライバーがいろいろな部分に気を遣わないといけなかった。車高を気にしながらブレーキングしてターンインすると言うように、スーパーフォーミュラのマシンのようなイメージで走らせなければエアロのおいしいところを使えなかった。シビックの方がマイルドに走れますので、これから速さを求めてピーキーな特性にならないようにしたいですね。4ドアの影響としては、運転席のドアが小さいので乗り降りがしづらいくらいです」と、NSXとシビックの違いについて話す。
極論すると、これまでエアロ、ダウンフォースを手掛かりに走らせなければ速さが出せなかったNSXに比べ、シビック・タイプR-GTはメカニカルグリップで走らせる割合が増えたということか。富士でのテストではドラッグの少なさからかストレートの速さは見せたことから、今後は4ドア、5ドア形状でどうしても厳しくなるダウンフォース面をどう克服するかが課題となりそうだ。
まだまだ発展途上とも言えるシビック・タイプR-GTに対して、昨年のチャンピオンマシンであるGRスープラはさらにステップアップを目指して、かなり大きいなアップグレードを施してきた。
まずは今年、GRスープラはエンジンをこれまでの『RI4AG 』から、『RI4BG 』へと型式変更を行った。変更についての詳細はこれからになるが、型式変更をしてまでアップグレードを施した新型エンジンは、ドライバビリティが大きく向上しているという声が聞こえてきている。その新エンジンに加え、車体もボンネット内部を中心に大幅改良。インタークーラーやラジエターのサイズを半分近くに小型軽量化し、車体の運動性能が大きく向上しているという。
トヨタGR陣営のエンジニア、メカニックに聞くと「外観はほとんど変わっていないけど、中身は昨年とはまったく別」「今年はTCD/TRD開発陣が頑張った」と、普段は辛口の関係者もポジティブに話すほど、トヨタ/GR陣営は手応えを感じているようだ。
一方、ニッサン陣営としてのトピックスは、ニスモの2台がミシュランからブリヂストンにタイヤメーカーが変わったことで、12号車MARELLI IMPUL Zと合わせて4台中3台になったブリヂストンと2024年型Zのマッチングが鍵になる。昨年の最終戦でチャンピオンを争い、惜しくも敗れてランキング2位となった3号車Niterra MOTUL Zの高星明誠に、このオフの手応えを聞いた。
「今年、タイヤメーカーが替わったのですけど、これまでのテストを振り返って順調とは言えない状況です。1月のセパンテストが終わって日本に戻ってきてからは毎回、テストで雨が降るような状況で、ドライで走る距離が少なすぎて僕らの経験値が足りていない感じがありますし、それに合わせてクルマのセットアップに関してもまだまだ詰めきれていないという現状です。思ったような収穫は得られていないというのが正直なところです」と、高星。
「開幕に向けては万全な体制で、すべてが整って迎えるという状況ではないですし、ドライで走れている距離が少ない。憶測の部分を含めてタイヤを選んでセットアップしていかなければいけないので、その状態でどこまで戦えるのかという状態になってしまうのですけど、その中でも十分なパフォーマンスを示して、その後につながる経験にできるようにしたいですね。まずは結果というよりも、自分たちの経験を増やしていく中で、最善のパフォーマンスを見せるというのを心がけたいと思っています」と、開幕戦に向けては謙虚な様子だった。
昨年はニスモの2台のみがGT500で唯一のミシュランタイヤ勢という状況で、昨年開幕戦など雨のコンディションで無類の強さを発揮したニスモ陣営。今年はブリヂストンが3台となったことで、相乗効果を期待したいところだが、それにはもう少し時間が必要な状況のようだ。それでも、新加入した3号車Niterra MOTUL Zの三宅淳詞、そして24号車リアライズコーポレーションADVAN Zの名取鉄平のふたりのルーキーのニッサン首脳陣の評価は高く、若手が起爆剤となりそうな気配もある。
3メーカーの陣営の違いだけでなく、それぞれの陣営内でもパフォーマンス差が見られており、さらに新予選方式やタイヤのセット数減による影響など、読めない要因が多く散りばめられている今シーズンのGT500クラス。GRスープラ勢の優位が目立っているが、開幕戦の岡山はこれまでの岡山での開幕戦の中でももっとも暖かくなるコンディションが予想され、すでに「タイヤ選択を外してしまったかも」と頭を抱えるエンジニアの姿も見られたことから、もしかしたら予想外の展開も起こりうるかもしれない。
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