荒れたスーパーGT第1戦岡山のGT300。あの時何が起きたのか!? 第1戦GT300事件簿【後編】
4月17日、岡山国際サーキットで開催されたスーパーGT第1戦。序盤こそアクシデントなくレースが進んでいったが、GT300クラスを中心にレース後半はたくさんの“事件”が起きた。あの瞬間、何が起きたのか。スーパーGT第1戦・GT300“事件簿”をお届けする。
■フロントロウスタートも……K-tunes RC F GT3&新田守男
予選では高木真一のQ2アタックでフロントロウを獲得。だが、決勝では1周目から3ポジション落としてしまったK-tunes RC F GT3。いったい何があったのか。スタートドライバーの新田守男は、こう振り返った。
「いつもそうなんですけど、燃料を満タンにするとどうしても加速が良くないので、ヨーイドンでいかれちゃうことは、ある程度想定済みでした。路温が想定よりも上がった中では、思いのほかいいペースで走れていたんじゃないかと思います」
後半スティントでは、高木がStudie BMW M4のインに飛び込んだ際に止まりきれず、前方を走っていたリアライズコーポレーション ADVAN Zに追突してしまった。
「鬼門ですかね、高木くんにとっての岡山は(苦笑)」
※編注:2020年のスーパー耐久でクラッシュし負傷
「正直、あそこからが(タイヤが)どうなるか見たかったところ。データが取れなかったのは、ちょっと残念ですね」(KN)
■名手高木がまさかのクラッシュ
そのK-tunes RC F GT3の高木が、終盤フルコースイエローのきっかけとなった接触の状況を振り返る。
「うしろがどんどん迫ってきたので、早めに(Studie BMW M4を)抜こうと思った矢先でした。チームの地元の岡山なのに申し訳ないし、24号車に対しても本当に申し訳ないです」
「GT500を利用して(7号車をパスしよう)という思いで行ったんですけど、止まりきれませんでした」
リアライズコーポレーション ADVAN Zに接触した後も「普通に走れていた」ため、ピットインはせず。しかしホームストレートで接触の影響からボンネットが風圧によりめくれ上がり、高木の視界を奪ってしまう。
「何も見えなくて、うしろが来ているのはわかっていたので、とりあえず軽く右に切ってゆっくりとブレーキをかけていたら、もう右側が壁だった。止めるつもりだったんです」
「後続がいるのは分かっていたので、急ブレーキはできなかった。前が見えないと、本当感覚的に(自分の位置が)分からなくて……」(KN)
■Studie BMW M4をかわせずスピン。weibo Primez Lamborghini GT3
優勝したリアライズ日産メカニックチャレンジ GT-Rと同じ37周目まで、ピットインを引っ張ったweibo Primez Lamborghini GT3。ピットアウト後、後半担当の小暮卓史がStudie BMW M4のアウグスト・ファーフスに迫っていく。
小暮は「揺さぶりをかけて、かなり右に左にやった」が、最後はホッブスコーナーでスピン。「僕が攻めすぎて自滅してしまいました」と肩を落とす。
「こちらの方が、ペースは良かったと思います。ストレートはBMWが早く、ブレーキングやメカニカル(グリップ)ではこちらが強いかな、という感じでした。僕のタイヤも、問題なかったです」
「最後はダブルヘアピン(ホッブスコーナー)で横に並んだのですが、耐えられずに僕がスピンしてしまった形です。クルマにはすごく手応えがあったので、この結果には非常に残念です」
ファーフスはさすが世界を知るメーカーのワークスドライバーとも言うべき、巧妙なブロクラインで小暮以下を封じたが、それについて小暮はこう語った。
「アグレッシブなブロックでしたが、“スポーツ”の範疇ではあると思いますね。なかなか抜けなくて悔しかったです。僕が前だったらあそこまでやるか? んー、そこはどうかなっていうのはありますけど(苦笑)」(KN)
■嬉しい初得点に喜ぶMOTOYAMA Racing w/ Team LeMansと片山義章
そんなアウグスト・ファーフスのStudie BMW M4を初めてオーバーテイクしたのは、地元岡山で好走をみせていた片山義章駆るTeam LeMans Audi R8 LMSだった。69周目に混戦のなかでTANAX GAINER GT-Rを先行するとファーフスの背後へ。70周目のダブルヘアピンふたつめのホッブスコーナーでアウトからオーバーテイクを決めた。
「あのコーナーは7号車Studie BMW M4と10号車TANAX GAINER GT-Rがすごく厳しい印象があり、うしろの4号車(グッドスマイル 初音ミク AMG)の谷口選手に突かれるような展開でした。ただ7号車はストレートが速く離されてしまうので、抜きどころを決めました。ダブルヘアピンは辛そうだったので、うまくアウトから抜けました」と片山。
終盤、FCY明けにスピンしかけ、GT500トップのENEOS X PRIME GR Supraと接触するシーンもあったが、見事5位でフィニッシュ。片山にとってはスーパーGTでの初ポイントとなった。
「今回はポイントを獲りに行こうと思っていたのですが、予想以上に多くのポイントが獲れました(笑)。アウディのアップデートの効果も大きく、良いクルマを用意してくれたチームのおかげです。次戦富士もまた良いレースができるのではと思っています」
また、この片山の活躍にはチームメイトの本山哲も手放しで喜んだ。「素晴らしいレースだったと思います。クルマのアップデートも良かったし、かなり戦えるようになった。チームが頑張ってくれたと思います」と本山。
「今まで片山選手はフォーミュラしかやっておらず、昨年スーパーGTを経験したこと、そしてオフにかなり走り込んだので、クルマなりの走り方を覚えたと思います」
今季チームは本山がよりチームのメインとなり、『MOTOYAMA Racing w/ Team LeMans』とチーム名も改められたが、大活躍での初得点。本山は「最高です」と笑顔をみせた。(RH)
■接触した木村偉織と、アウグスト・ファーフスの会話
終盤、GT300を大いに盛り上げたのが、アウグスト・ファーフス駆るStudie BMW M4を先頭とした5番手争い。一時は8台ほどの集団に膨れあがったが、片山のTeam LeMans Audi R8 LMSがファーフスをかわした後、背後につけてきたのは後方グリッドから追い上げ、集団のなかで木村偉織が駆りオーバーテイクを繰り返してきたARTA NSX GT3だった。
木村はルーキーながら素晴らしいバトルを展開していったが、Studie BMW M4のタイヤは限界を迎えていた。オフの開発の時間がなかったことで、完全に防戦一方に。「まだ僕たちは新しいクルマだし、タイヤのデグラデーションも学びきれてはいない。途中までは5番手で、とても良いレースができていたと思うんだ。だけど、後半は急激にタイヤがドロップしてきて、ポジションを守るのは本当に大変だった」とファーフスは振り返った。
ファーフスは片山にかわされながらも、ポイント圏内を守るべく粘りをみせていた。しかし70周目、ヘアピンでブレーキングが早くなっていたStudie BMW M4のリヤにARTA NSX GT3がヒット。ファーフスはストップ、ARTAはボンネットを失い、さらにペナルティでタイム加算。ポイントを失ってしまった。
「武藤英紀選手がすごく良い形でバトンを渡してくれて、自分もその追い上げに応えたくて、6番手まで追い上げることができたのですが、欲をかいてしまったというか、無謀な走りをしてしまったというか……。結果的にノーポイントになってしまいました。シリーズを戦う上でポイントを落とさないことを目標としていたので、こういう失敗をしてしまったのは本当に反省しなければいけません。情けないというか……」と木村は肩を落とした。
「スーパーGTは複数のタイヤメーカーがあり、みんなが同じようにタレるわけではない。僕たちはロングに強みがあるなかで、まわりはそうではなかったりと差があるので、こういうアクシデントに繋がってしまったのではないかとも思います。自分はクラッシュをしないように気をつけ、焦りも正直無かった。メンタルコントロールもできていたのですが、自分の知識不足でこうなってしまいました」
レース後、木村はBMW Team Studie × CSLのピットに謝罪に行ったが、ファーフスは「まだ若いんだから、また頑張ればいい。次にミスをしなければいいよ」と木村に声をかけた。ファーフスにとっては、木村がピットを訪れたことは「すごく印象的な」な出来事だったという。
「彼は『ソーリー』と謝ってきてくれた。彼が謝りに来てくれたことがすごく嬉しかったんだ」とファーフス。
「このスーパーGTというシリーズで、ドライバーがお互いリスペクトし合っていることを体験できたことが素晴らしかったんだ。もちろんアクシデントは悲しいことだったけれど、この彼のリアクションは素晴らしいことだ。ノープロブレムだよ」
「55号車がブレーキングでミスをしてレースが終わってしまったけれど、正直悔しいところはあるよ。ポイントが獲れれば良かったからね。もちろん富士ではもっと強くなって戻ってきたいね!」(RH)
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