【津川哲夫の私的F1メカ】左右非対称のフロントサスペンション。メルセデスW09の仕掛け
2018年シーズンのマシンをしげしげと見ていて、メルセデスW09のフロントサスペンションに面白い仕掛けがあることに気がついた。
一見して誰もが気づくのは、左右のロッカーアームが真ん中で交差し、小さなソリッドリンクで結ばれていること。これは上下動では効果はほとんどないのだが、左右のロールが起ると離れる方向でも近づく方向でもロッカーをロックしてしまう。
つまり、ロールにはサスペンションがソリッドに作用することでロッカーが動かなくなるのだ。と、ここまではすぐに見えることなのだが、写真を見て頂ければわかるように、メルセデスW09のフロントサスペンションにはもうひとつ、不可解な装置がついている。
左右のロッカーの回転中心部を見て頂きたい。左側にはトーションバーが入るスペースが見えるが、右側には入っていない。これは右側のトーションバーを抜いているのではなく、もともと、内部にスプライン(直線の板)と言う溝が切られていないので、ここにはトーションバーがつかないのだ。
つまり、静止状態で車体を支える仕事をするのが現在のトーションバーであり、実際のサスペンションの動きは左右をクロスして搭載されるヒーブサスペンション(サードエレメント)が受け持っている。
したがって、車体を支えるだけならば左右にトーションバーは必要なく、ロールはロックされることになるのだから仕事はトーションバー1本で十分と言うことなのだろう。こうすれば軽量化にもつながるわけだ。
ただ、ヒーブサスペンションにはコイルスプリングや傘スプリングなどが見えず、外形からはイナーシャーダンパーが内包されていて、油圧でのスプリングも使われていると推測される。
軽量化と部品点数の削減、ハードロックなフロントサスペンション、と今シーズンのF1はサスペンションが面白い。
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