高星の無事に安堵するニスモ松村総監督。新型Zも鬼門の富士の優勝にあと一歩【第2戦富士GT500決勝】
2022年スーパーGT第2戦、富士スピードウェイで初の試みとなった450kmレースはアクシデントによる2度の赤旗中断が発生するなど、波乱続発の荒れた展開となった。とくに56周目に発生した3号車CRAFTSPORTS MOTUL Zの高星明誠が見舞われた事故は、その場に居合わせた誰もが凍りつく緊迫の一瞬となる。
ホームストレートでの首位攻防の最中、首位DENSO KOBELCO SARD GR Supraの背後につきスリップストリームを効かせた3号車は、視界を遮られた状態のままピットウォール側でスローダウンしていたGT300車両を避けるべく、回避行動によりコントロールを失い、速度を落とせぬままグランドスタンド側のガードレールに激しくヒット。錐揉み状態でホームストレートを滑走した車体は、外板ばかりか足回りやエンジンなども損傷を受ける事態となった。
その瞬間……目撃した誰もが高星の無事を祈ったが、直後の場内でも「自力でマシンを降り、骨折などもなくメディカルセンターで検査を受けている」とのアナウンスがあったとおり、GTAからの推奨も受けサーキットでのチェックを終えた高星はヘリで大学病院へと搬送。クラッシュのインパクトで体にも相応の衝撃があるため、念を入れ精密検査を受ける予定だという。
「本人もきちんと話せるようですし、外傷等もありません。ただ、ここしばらくは非常に大事にして診ないといけない」と決勝後に状況を明かしたニッサン陣営の松村基宏総監督。
現行GT500車両の安全性の高さを再確認すると同時に、モータースポーツがどのような性質を持つ競技なのか、それを再認識させられるアクシデントとなったが、決勝前半やレースウイーク全体を通じて、デビュー2戦目のニッサンZ GT500は開幕戦の岡山に続き競争力を披露。決勝前のウォームアップ走行で23号車MOTUL AUTECH Zが真っ先に最高速300km/hの壁を突破するなど、先代2020-21型GT-Rの“鬼門”とも言えた富士で『戦えるクルマ』に生まれ変わっていることを証明する展開となった。
もちろんドライバーのスタイルやタイヤ選択、そのわずかな差によって予選での明暗を分けた部分はありつつも、クルマの仕上がりとして「コンセプトどおりには進んでいる」と、車体開発の陣頭指揮を執った松村総監督も手応えを得る。
「本戦に向けた準備の段階でもペースは悪くなく4台ともに戦える状況でした。今まで富士で少し苦戦していたのに比べれば、狙っていたとおりクルマは競争している感じになっているかなと。結果論ですが、レースが最後まで続けば気温も路面温度も下がり、ミシュランタイヤの(持ち込みのレンジに合致して)強さが出せる……ところで赤旗になりました。ですので、そこはちょっとお預けということです」
シーズンオフテストの段階から、開発陣のなかではGT-Rに対して「少しレスダウンフォース方向に振り過ぎたかな」との心配もあったようだが、その相反として「リヤ(の安定性)が薄い」と言われた開発初期の苦労は現時点である程度解消し、とくにブレーキングで高いスタビリティを発揮する。実際のところ、新型Zの個性は『L/D(揚抗比)の改善』によるところが大きいという。
「実を言うと、ダウンフォースの絶対値自体はGT-Rよりも大きいです。ただバランスの点で、GT-Rがフロント側でもの凄く(ダウンフォースを)出している形状だったので、それに比べると(新型Zは)リヤ側にもある……みたいなイメージです。その部分が違いで、絶対値で言うと岡山、富士、鈴鹿、どこのサーキットで比べてもセッティングシート上ではGT-Rの2021年型よりもダウンフォースは大きいです」と続けた松村総監督。
「なので、ダウンフォースがほぼ同じか、良くすることができた上で、ドラッグがずいぶんと減っているので、その分の良さはわかっているという感じです」
3社の競争力が拮抗し、タイヤの温度レンジ選択幅が非常にシビアな状況が生まれており、予選でのパフォーマンスにより一瞬でグリッド位置が大きく変わる。その予選選択タイヤで決勝スタートを迎え、スティントの距離や燃費要件も重なってくるだけに、エアロダイナミクスによるドラッグ低減の効果……つまりエンジンだけでなく車体側の抵抗減による燃費への貢献度も、決勝での優位性に直結する。
「もちろんエンジン側も少しずつ進化はしていますが、そこまで変わっているわけではありません。ですが、以前のクルマに対して、空力が変わるとあれだけクルマが違って見えるというのは、GT500のちょっとした“妙”ですよね。だから今までは『遅い』って言われていたのが、急に速くなったように感じます。その結果『エンジンが変わったんじゃないの』と言われます。ですので、エンジンも“ちょっとは”良くなっていますが、それだけではあの位置にはならないです」
「その意味では燃費面でも競争力は充分ありますし、今回もインアウトのタイムが出ていたと思いますが、今までの燃費を確認したりして、我々のやっていることからすると、富士でも岡山でも負けているということはなかったので、正しい方向に進んでいると思います。ですので、次の鈴鹿ではその点もちょっと確認かなと」
そのフロント側ダウンフォースにより鈴鹿3連覇と無類の強さを誇った先代GT-Rだが、サーキットのキーポイントでもあるセクター1は登り勾配のコーナーが続き、ここでGT-Rは相対的な戦闘力差を生んでいた。新生Zがその“鈴鹿ハイライト”をどのように攻略するか。それがデビューイヤー初勝利のカギとなりそうだ。
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