デプロイ不足に悩まされたバクー戦、1点獲得もペースに落胆/トロロッソ・ホンダF1コラム
中国GPの失望から10日後。彼らの出した結論が正しければ、アゼルバイジャンGPはトロロッソ・ホンダにとって上海ほど厳しい週末にはならないはずだった。バーレーンほどではないにせよ、また中団グループの上位を争うことができるはずだという期待はあった。しかし、それは間違っていた。
2kmに及ぶ長いストレートがあるとは言え、バーレーンで好走を見せたようにパワー不足はそこまで大きな影響は及ぼさないはずだった。むしろ、低速の直角コーナーばかりのストップ&ゴーというのはSTR13のマシンパッケージに合っているはずだ。
アゼルバイジャンGPを前に、ピエール・ガスリーはこう語っていた。
「中国の不振の原因は小さなことの積み重ねだった。長く回り込むようなコーナーとか複合コーナー、特にターン3や13のようにトラクションが複合的なセクションだ。そういうコーナーでは僕らは他チームのクルマに比べて苦しいということはわかった」
「それと風が強いコンディションも影響していた。セットアップ変更の方向も間違ってしまった。でもここは基本的に90度コーナーばかりで長いコーナーはないし、結構バーレーンに似たコース特性なんだ。2kmの長いストレートは僕らにとって理想的とは言えないけど、ある程度パフォーマンスを取り戻せればと思っている」
Q3に行けると断言はできないが、そこが目標だと言った。つまり3強に次ぐポジションは難しいかもしれないが、5番目のチームを目指すということだ。
実際に走ってみると、マシンのパフォーマンスはその予想と大きくズレてはいなかった。予選では黄旗に阻まれたり、あわやチームメイト同士でのクラッシュというアクシデントで本来のパフォーマンスを引き出し切れなかったが、ガスリーはブレンドン・ハートレーに引っかかる手前までに0.6秒のタイムアップを果たしており、メインストレートでハートレーのスリップストリームを使えればさらにタイムアップは可能だった(ストレートでフルにスリップを使えば0.5秒ものゲインが可能なほどその効果は大きかった)。
いずれにしてもSTR13にはウイリアムズ勢を上回るパフォーマンスがあり、予選で言えば10〜12番手あたりにはいけたはずだ。
ストレートの車速に関しても、ドラッグが大きくないSTR13の空力パッケージゆえにまずまずの伸びを見せ、決勝でも充分にバトルは可能だと思われた。
決勝を前に、ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはレースペースとストレートでのバトルに自信を見せていた。
「トップスピード的には悪くないところにいますし、チームとしてはそれほどストレートで失っているとは思っていません。レースでも抜けると思います。レース展開の中で前のウイリアムズのペースが遅ければ、その集団に付き合わされてしまうとトップ10が遠のいてしまう。彼らが遅ければ抜きますよ」
しかし決勝は予想外の展開になった。
1周目に出たセーフティカーからのリスタートで一時はニコ・ヒュルケンベルグまで抜いて7番手に浮上したガスリーだったが、そこからルノー、ウイリアムズ、ザウバー、フォース・インディア、マクラーレンに次々と抜かれてあっという間に13番手まで後退してしまったのだ。
「かなり車速差が大きくて、DRSゾーンにさえ入らないうちに抜かれてしまった。全く戦えなかった。今週末はずっと最終セクターの速さに苦しんできたけど、レースではさらに厳しかったんだ」(ガスリー)
スリップストリームの影響がない単独走行時には、STR13はDRSが閉じた状態で307km/h、DRSが開いた状態では323km/h前後でパワーとドラッグが釣り合った状態になっていた。これはフェラーリやウイリアムズとほぼ同じかやや速いくらいの数値だ。
しかし、レースでは前走車の1秒以内にいなければDRSを使うことはできないし、スリップストリームの効果を受けることもできない。スリップに入れば車速は優に10km/hは伸びる。ダニエル・リカルドが344.4km/hという驚異的な最高速を記録しているのはそのためだ。
しかしDRSが使えなければ最高速が伸びず、ブレーキング時の制動力も小さくなる。するとMGU-Kの発電量は減ってしまう。事前に“チャージラップ”でバッテリーをフル充電しておいてアタックラップに4MJ(1周あたりに使用できる最大エネルギー量)を使える予選アタックとは異なり、決勝では毎周充電できる2MJとMGU-Hからの発電量だけで賄わなければならない。だがMGU-Hは低速からの立ち上がりで発電に使えばターボの過給が下がってしまうため、常にフル発電できるわけではない。
ドライバーとしては、ラップタイムを速くするよりもバトルで抜いたり抜かれたりしそうになる場面でデプロイメントが欲しくなりオーバーテイクボタンを押す。発電量が充分でないところに想定外のバッテリー消費が加われば、どこでどれだけ発電しどこでどれだけ放電するかというエネルギーマネジメントは狂ってしまう。
全長が6kmと長く、しかも2kmという長いストレートを抱えるバクーだからこその難しさだ。
2年前の初開催時にはメルセデスAMGでさえエネルギーマネジメントのプリセットである“ストラット”の一部に計算ミスがあり、デプロイメント切れが頻発する問題に悩まされたルイス・ハミルトンが勝利を失った。今年もレッドブルはリスタート直後に同じような問題に悩まされ、本来のペースでは大きな差があったはずのルノー勢に次々とパスされてしまった。
そして、ホンダもその罠にはまっていた。
「レース序盤にはウイリアムズやペレスに抜かれたけど、ターン20ではもう横に並ばれて、ストレートエンドまでにはもう抜かれてしまっていた。エネルギーマネジメントをもっと上手くやることができなかったか、どうすれば上手くやれたのか、それも見直さなければならないだろう。エネルギーマネジメントに関しては開幕戦からそれほど苦しんではいなかったけど、今週末はこれまでよりも(ライバルとの)差が大きくなってしまった」(ガスリー)
ハートレーに至ってはGPSトラブル、つまりマシン自身がどこを走っているのか誤認して充電・発電する場所を間違えていると疑ったほどだった。F1初入賞を果たしたにもかかわらず彼の表情が曇ったままだったことが、いかに苦しいレースを強いられたかを物語っていた。ケビン・マグヌッセンの危険な幅寄せによって8位入賞のチャンスを失ったガスリーも、その怒りと同時にペース不足への落胆がはっきりと見て取れた。
「レースの展開での中でのエネルギーマネジメントをもう一度見直さなければなりません。レースの展開全てに対してエネルギーマネジメントを最適化できていなかったということです。それは大きな反省点です」
レース後、ホンダは深刻な雰囲気に包まれていた。開幕戦のMGU-Hトラブルを除けば、パフォーマンス面ではここまで順調に来ていたホンダが今季初めて壁にぶち当たった。その重さがヒシヒシと感じられたアゼルバイジャンの決勝後だった。
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