可夢偉組トヨタ、“アウディ3人衆”に並ぶ。豪雨の直後に壊れたワイパーetc.【WEC第2戦・決勝日Topics】
いわゆる“スパ・ウェザー”に翻弄され、3回の赤旗が提示されるなど、荒れた展開となったWEC世界耐久選手権第2戦スパ・フランコルシャン6時間レース。トヨタGAZOO Racingの7号車GR010ハイブリッドが今季初優勝を飾ったレース後、スパのパドックで集めたトピックスをお届けしよう。
■久々に見る満員のスタンド。シリーズCEOも渋滞にハマる
COVID-19のパンデミックが始まって以来、ベルギーのスパには多くの観客が集まった。正式な動員人数はまだ発表されていないが、4600人収容の新しいラディヨン・グランドスタンドと、約3000人収容のスタート/フィニッシュ・グランドスタンドは、いずれもレース開始時には満席となっていた。
WECのフレデリック・ルキアンCEOは、このイベントがスパ6時間レースにおける動員記録を更新したものと、暫定的に推定している。
「私は、私のチームに非常に満足している。彼らは本当によく働いてくれた」とルキアン。
「朝の8時に、私は(多くの観客が集まったために)1時間の渋滞に巻き込まれたよ」
なお、トヨタGAZOO Racingのドライバー・スタッフも、決勝日の朝には渋滞に巻き込まれ、サーキット到着が遅れていた。
■ランキングはアルピーヌの3人がリード
赤旗3回、セーフティカー6回、フルコースイエロー5回が重なり、グリーン下の走行は3時間弱となったスパ戦。赤旗中断が3回あったのは、WEC史上2回目、連続2回目だ。第1戦セブリングと同様、赤旗のうち1回はアクシデント、2回は悪天候が原因だった。
第2戦を終え、FIA世界耐久ドライバー選手権のポイントランキングでは、アンドレ・ネグラオ/ニコラ・ラピエール/マシュー・バキシビエールの3人が首位を維持している。スパを2位で終えたこのアルピーヌ・エルフ・チームの3人は現在57ポイントを獲得し、グリッケンハウス・レーシングのロマン・デュマ/オリビエ・プラに18ポイントの差をつけている。
ネグラオは、とくにウエットコンディションにおけるこの車両のドライブ経験が少ないことを鑑みて、アルピーヌの2位獲得に満足しているという。
ネグラオは過去にA480・ギブソンをウエットコンディションで走らせたのは一度だけであり、雨が降るとトラクションコントロールとハンドリングの面で苦労する傾向があると指摘している。
ネグラオはまた、スリックタイヤにいち早く履き替えるというギャンブルをしたくなかった、と付け加える。アルピーヌはトヨタ7号車よりも1周前にカットスリックのインターミディエイトから、スリックタイヤに履き替えた。
「もっと早くスリックタイヤを履くこともできた」とネグラオは言う。
「でもスリックでクラッシュするドライバーがたくさんいた。チャンピオンシップのために何か悪いことが起きてもいけなかったから、もう少し待ったんだ」
■コンウェイと可夢偉のスティントは「まるでホラー映画」
トヨタGAZOO Racingは開幕戦で7号車が、第2戦で8号車がリタイアを喫したことにより、ランキングで3位と4位につけている。ブレンドン・ハートレー/平川亮/セバスチャン・ブエミは27ポイント、スパで勝利したホセ・マリア・ロペス/小林可夢偉/マイク・コンウェイが25ポイントを手にしている。
トヨタ自動車GAZOO Racingカンパニーの佐藤恒治プレジデントは、トヨタ7号車の優勝クルーとともに表彰台に登壇した。小林可夢偉によれば、これまではCOVID-19の渡航制限のためWECのイベントに参加できず、このレースが初めての訪問となったという。
「日本からの渡航がオープンとなり、帰国時にも隔離がなくなったので、プレジデントが初めて僕らのレースを訪れてくれました」と可夢偉。
「彼にとっては初レースでしたので、彼を表彰台に連れてきたのです」
トヨタ7号車のチェッカードライバーとなったロペスは、難しいコンディションとなったコンウェイと可夢偉のスティントを見て「まるでホラー映画のようだった」と表現している。
「少なくとも、ガレージの側にいた僕らにとっては、それはしばしば恐ろしいものだった」とロペス。
「マイクと可夢偉は素晴らしい仕事をした。マシンをコース上に留めておくだけでも、まったく簡単なことではなかった。セブリングの後、再び強くなることは僕にとって重要だったし、これ以上は望むべくもない」
ロペス、可夢偉、コンウェイの3人は、これでWECでの10勝目を達成。かつてアンドレ・ロッテラー/マルセル・ファスラー/ブノワ・トレルイエがアウディでマークした、3人体制での勝利数記録に並んだ。
■インターミディエイトタイヤを廃した影響
LMP2ウイナーのロビン・フラインスによれば、チームWRTの31号車オレカ07・ギブソンはレース後半、ワイパーが完全に機能しないまま戦わなければならなかったという。
「もし大雨の前にワイパーが壊れていたら大変なことになっていただろうから、これはラッキーだった」
「ワイパーはレース前半までしか機能しておらず、視界はわずかだった。最終的には良い結果で終えられて良かったけどね」
同じく31号車をドライブしてチェッカーまでを担当したレネ・ラストは、完全に乾いていない路面をスリックタイヤで走らなければならず、苦戦を強いられた。インターミディエイトタイヤが存在するハイパーカークラスとは異なり、LMP2クラスのタイヤサプライヤーであるグッドイヤーは「必要がない」とし、インターミディエイトを供給していない。
ラストは次のように語っている。
「コースの半分はドライで、残りの半分はウエットだった。このようはコンディションではとてもトリッキーであり、簡単にコントロールを失う」
「このクルマではステアリング(の切れ角)は限られていて、ラリーカーのようにドリフトができるわけではない。一度コントロールを失ったら、ほとんど終わりのようなものだ。とても慎重にならなければいけないし、インターがない状況は簡単ではなかった」
■シボレー・コルベットの不運
トヨタ7号車と同じく、LMGTEプロクラスではAFコルセ51号車のアレッサンドロ・ピエール・グイディ/ジェームス・カラドが、このふたりにとっての10勝目をマークした。そのうちのいくつかは、第3ドライバーとともに獲得したものだ。
また、GTEプロクラスではフェラーリ51号車、またはポルシェ92号車による優勝が、これで8戦連続となった。
GTE世界選手権のランキングでは、セブリングで優勝し、スパで2位に入ったポルシェのケビン・エストーレ/ミカエル・クリステンセンが、AFコルセ51号車のふたりを14ポイント、リードしている。
* * *
序盤に好ペースを見せたコルベット・レーシングの64号車シボレー・コルベットC8.Rだったが、その後クラス優勝争いから脱落してしまった。ニック・タンディが最初のピットストップを行った際に赤旗が提示され、エマージェンシー・サービスとして限られた作業しかできなかったことで、最初に3ラップを失っていた。その後、走行再開時にはピットレーンで全車の隊列が戻ってくるのを待つ必要があった。
コルベットはウェーブ・バイにより周回おくれを取り戻したが、トミー・ミルナーはウエットコンディションでのタイヤ温度上昇とグリップ低下に悩まされた。
「プラクティスと予選で目にしたように、マシンのペースはかなり良かった」とミルナー。
「最初のスティントで燃料補給を伸ばしていたのが仇になり……現実は不運なものだった。あの状況から立ち直れるとは思わなかったよ」
* * *
LMGTEアマクラスのデンプシー・プロトン・レーシングは、2019年のスパで表彰台の頂点に立って以来の、クラス優勝を果たした。
77号車ポルシェ911 RSR-19をドライブし優勝したハリー・ティンクネルは、これでWECの3つのクラスで優勝したことになる。ティンクネルは過去にLMP2クラスをJOTA、LMGTEプロクラスをフォードとアストンマーティン・レーシングで制した経験を持っている。
* * *
スパでの第2戦を終え、年間最高得点が与えられる次戦ル・マン24時間レースに注目は移ることとなる。次なるWECの公式サーキット走行は、6月5日にフランスのル・マン24時間サーキット(サルト・サーキット)で行われる、ル・マン・テストデーのセッションとなる。
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