届かなかった残り6周。チームの戦略を悔やむ佐藤琢磨「ライバルたちと満タンのフレッシュタイヤで戦いたかった」
インディアナポリス・モータースピードウェイに観客が戻り、NTTインディカー・シリーズ第6戦、第105回インディアナポリス500マイルレースが開催された。収容人数の40%、13万5000人ではあったがチケットは完売。久しぶりに多くのファンがグランドスタンドを埋め、IMSは熱気に包まれた。
昨年は8月に延期され無観客のレースではあったが、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングの佐藤琢磨が、インディ500の2勝目を挙げ、今年は連覇も大いに期待されていた。
昨年とマシンのコンフュギレーションはエアロパーツが少し変わっていたものの、基本的には2019年のものを踏襲しているとあって、昨年完璧なレースを見せた琢磨は、プラクティスから注目の的だった。
だが予選はスピードを失って15番手に。琢磨も予選初日はファストナインを通過する目論見だっただけに、残念なグリッド順となった。それでも決勝では十分に上位を狙える位置ではあるし、2019年は予選14番手から2ラップダウンを挽回し3位に入賞したこともあった。
決勝前の琢磨は比較的リラックスしたように見えた。おそらく幾通りもレースの想定はしたであろうし、スピードウェイのポールになびく旗を見て、仰ぐように風向きを見ていた。
スタートを間近に控えたIMSの場内は、大いに盛り上がりを見せていた。2年ぶりに間近に見るインディのスタートに沸き立ち、ロジャー・ペンスキーの「レディース&ジェントルメン、スタート、ユア、エンジン!」のコールに、その興奮はピークに達した。
グリーンフラッグとともにポールポジションのスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)がホールショットを奪う。琢磨は15番手のボジションから、一時13番手となりフェリックス・ローゼンクヴィスト、パト・オワードのアロウ・マクラーレンSPの2台とバトルになった。
最初の波乱は各車が30周を過ぎて最初のピット作業をしようとしているタイミングだった。
アンドレッティ・オートスポートのステファン・ウイルソンがピットレーンでスピンしクラッシュ。ピットレーンを塞いだためにピットがクローズドに。しかし燃料がなくなってしまったマシンはペナルティ覚悟でピットに向かうしかなかった。
そこに優勝候補のディクソンやアレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)、チップガナッシのマーカス・エリクソンやトニー・カナーンもいたのだから、琢磨にとってこの瞬間は追い風だったのは間違いない。
琢磨は燃料をうまくセーブしていたために、ステイアウトしたままポジションを上げることができたのだ。
この時点で8番手となって46周目からレースがグリーンになった。琢磨は前のオワードをかわして6番手を走行する。
レースが4分の1を消化して、琢磨の理想通りになりつつあった。殊に燃料をセーブしながらの走行は光かり、79周目に2度目のピットインをする時には2番手まで浮上していたのだ。
ピットアウト後はチームメイトのグラハム・レイホールを前に出したものの、燃費の良さが走行して116周目のピットタイミングでは再び2番手に。
しかし、そのレイホールが118周目のピットアウト直後にホイールを外しクラッシュ。2度目のイエローコーションとなった。
琢磨はピット作業後に7番手となってグリーンを待った。グリーンの後もライバルたちがピットインするたびにポジションを上げるオーバーカットの状態は続き、151周目にはトップに浮上。そして153周目にはベストラップをマークする。
500マイルのレースはここからが佳境。燃料をギリギリまで使い果たし157周目にピットに入った琢磨。4輪のタイヤ交換と給油を済ませコースに戻るが、この前後にチームは、これが最後のピットストップになるかもしれないと告げた。
残り周回数が43周もあり、琢磨はこのアイディアに反対もしていたがチームは戦略を変えなかった。
ライバルたちは琢磨より6〜7周早くピットに入り、あと1回は必ずピットに入らねばならなかったが、ミクスチャーを抑え最後まで琢磨が走り切るか、イエローコーションでも出れば優勝が琢磨のもとに転がり込んでくる公算があった。
だがこの頃、琢磨のおよそ30秒後ろを走っていたアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ)とエリオ・カストロネベス(メイヤー・シャンク・レーシング)が実質上のトップ争いバトルを始めて、トップのローゼンクヴィストと2番手の琢磨を猛追。問題は残りの周回数で琢磨とフェリックスの燃料がもつかどうかであった。
そして、願い虚しく最後のスティントでイエローコーションが出ることはなく、琢磨とチームがしたギャンブルは裏目に出た。フェリックスはあと8周で、琢磨もあと6周でピットに入らざるを得なくなり、ピットでスプラッシュ&ゴーをしてコースに戻った。
琢磨は14番手で戦列に戻り、200周目のチェッカーを受けた。インディ500の連覇は儚い夢と消えたのである。
「序盤は悪くない展開で、最後のスティントまで6番手から10番手の間でレースが進んでいました。最後のピットストップで、チームがそこから最後まで行くという戦略に切り替えました」
「燃費もセーブしなくてはいけなかったし、イエローが出なければもうチャンスはありませんでしたね。他のライバルたちと最後は満タンのフレッシュタイヤで戦いたかったので、本当に残念で悔しいです……」と琢磨。
クルマを降りてから、琢磨は珍しくピットボックスでしばらくの間エンジニア達に詰め寄っていた。
今週カーナンバー30が絶好調だったとは言えないだろう。さらに戦略ミスであったとチームを詰問することは簡単だ。
しかしそれ以上にインディ500で4勝目を挙げたカストロネベスや、チップ・ガナッシの中で健闘したパロウのバトルの中に、琢磨のマシンを放り込んで欲しかった。それが例えどんな結果でもだ。
やや消化不良の自分の気持ちを宥めながら、琢磨はブリックヤードまで歩いて行き、エリオに祝いの言葉を告げると、しっかりと抱き合った。
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