野尻智紀が復帰へ「完全オフからの再スタート」一方で“もう落とせない”ARTA16号車「優勝しか見ていない」
6月3〜4日に三重県の鈴鹿サーキットで開催される2023スーパーGT第3戦『SUZUKA GT 450km RACE』。この一戦での注目は、肺気胸の療養を経て、およそ2週間ぶりにレースに復帰する8号車ARTA MUGEN NSX-GTの野尻智紀と、ここまで上位を争っていながらペナルティなどで結果を残していない16号車ARTA MUGEN NSX-GTだろう。両マシンともここまで思うような結果を残せておらず、このレースにかける想いは強い。金曜搬入日に話を聞いた。
■「応援の言葉をレースにぶつけたい」療養の野尻智紀が復帰へ
全日本スーパーフォーミュラ選手権第4戦を直前に控えた5月19日に突如として発表された野尻の欠場。体調が優れないため病院を受診したところ肺気胸と診断され、参戦予定だったスーパーフォーミュラ第4戦およびスーパー耐久シリーズの富士24時間は治療のため欠場となってしまった。
野尻は自身のSNSで『#肺がスローパンクチャー』というハッシュタグをつけて投稿を行うなど、ファンたちに心配をかけないように努め、オートポリスで行われたスーパーフォーミュラ第4戦ではチームに帯同して戦いを見守った。その後も野尻は安静にしながら肺気胸の治療に努め、いよいよ6月3〜4日の2023スーパーGT第3戦鈴鹿で復帰を果たすことになった。
「(スーパーフォーミュラの後には)肺の周りにたまった空気を抜いたりするため、安静にしていないといけない時間もありました。そのあたりを含めると自分のベストな状況ではないのかなとも思いますけど、昨日(木曜日)カートに乗り『十分ドライブできる』という感触がありました」と野尻はこの2週間を振り返った。
本来ならば今回のスーパーGTの欠場も覚悟していた野尻。しかし「思いのほか治りが早かった」とこが幸いし、チームおよびホンダ・レーシング(HRC)との相談の結果、出場するに至ったという。しかし、そこはスーパーフォーミュラ2連覇中の王者らしく、ただ参戦できることに喜んではいない。
「やはり安静にしていた分、衰えた部分もゼロではないと思いますし、気持ちを一旦完全にオフにしたところからの再スタートになります。気持ちと集中力、この部分を高めることは今からでもできるので、そのあたりをしっかりと準備して明日に臨みたいと思います」
さらにの野尻は、療養中にファンから送られた多くのメッセージに勇気づけられたと言い、「本当に応援してくれている人の多さ、温かさを改めて知ることができました。支えてくれているファンのみなさんに感謝したいですし、その“感謝の気持ち”を今回のレースからぶつけていきたいと思います!」と笑顔でファンにメッセージを送った。ここまで思うような結果を残せていないARTA、野尻の体調はまだ万全ではないかもしれないが、この復帰戦で“エース”野尻に求められる要求は高い。
■「もう優勝しか見ていない」16号車ARTA MUGENはレースペースで勝負
そしてARTAが走らせるもう一台のホンダNSX-GTが、福住仁嶺/大津弘樹組の16号車ARTA MUGEN NSX-GTだ。今季はARTAとTEAM MUGENがタッグを組んで2台体制となったARTAは、シーズン開幕前のテストから速さをみせ、今シーズンの“本命”と目されていた。
そんなARTAの2台でも、TEAM MUGENのカーナンバー“16”を背負う福住/大津組は開幕戦で「赤旗ラインの無視」による100秒加算ペナルティを受け11位、第2戦では上位を争っていながら「タイヤ装着不完全での給油」でドライブスルーペナルティが科され10位に終わるという不完全燃焼が続いている。
まず福住は「岡山のレース直後からチームと話し合い、ルールだけではなく、戦略についても今まで以上にコミュニュケーションを取るようにしました」と切り出し、鈴鹿戦に向けて自信を覗かせる。
「チームをもっと強くするためにはどういったところが足りていないのか、その部分が第1戦と第2戦で見えてきています。第1戦後ももちろん話し合いを行いましたし、第2戦の後もいろいろなルールについて確認しました。今回のレースに向けてはかなり整ってきていると思います」
迎えた第3戦はサクセスウエイト2kgという軽い16号車。福住に続いて大津は「クルマにはだいぶ手応えを感じている」と語り、現状のレースペースを武器にレースを戦えば結果は付いてくることを強調する。
「僕らは決勝ではペナルティなどで順位を下げてしまっていますが、予選でのパフォーマンスは高いですし、決勝でもレースペースは結構いいところで戦っていると思っています。ですので、今噛み合ってない部分を噛み合わせることができれば、良い結果を得られる手応えもあります」
クルマに対して手応えを感じている16号車のふたり。確かにここまでの2戦でドライバーによるミスはほぼなく、あとは大津の言うとおり、噛み合っていない部分が噛み合えば表彰台も狙えるだろう。そんなふたりに、ズバリ第3戦のライバルを聞いた。
「ライバルはいません。他のマシンと比べるのでなく、まず自分たちの速さと強さを証明したいです」と答えた大津。一方で福住は「ニッサン勢もウエイトを搭載しているとはいえ、ミシュランは警戒する部分がありますし、今回はMARELLI IMPUL Zが軽い(14kg)のでどういったパフォーマンスを出してくるか気になります」と、この鈴鹿で強さをみせるニッサンZ勢を気にかける。
さらに福住は続けて「チャンピオンシップを考えると、このあたりで大きいポイントを獲得しておきたいです。僕たちはもう優勝しか見ていません。とにかく頑張ります」と意気込んだ。ARTAの2台ともにこの鈴鹿戦は“落とせない”一戦。8号車、16号車ともに背水の陣で挑んでいることは間違いなく、ドライバーの速さにチームの強さが加わったとき、チーム全体の真の力が披露されるだろう。
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