【ライターコラムfrom甲府】「過激」にシフトしてルヴァン杯8強…J1再昇格へ感じる勢い
サッカーキング2018年6月14日(木)14時8分
浦和を2戦合計で上回り、ルヴァン杯ベスト8進出を決めた甲府 ©J.LEAGUE
ヴァンフォーレ甲府の変化を強く感じた、ルヴァンカップのプレーオフステージだった。ホーム&アウェイの連戦を戦った相手は浦和レッズ。言わずと知れたJ最大のビッグクラブで、昨季のアジア王者だ。甲府は今季の序盤戦にJ2でさえ苦戦していた。
しかし2試合合計スコア3-2でベスト8に勝ち上がったのは、人口80万人の県を代表するスモールクラブだった。
メンバー表に記載された先発11名の平均年齢は24.73歳。エデル・リマ、ジネイ、新井涼平、小椋祥平と続出している負傷者の影響もあるのだが、若手がそれを十二分に埋めた。
一昨年にはセンターバック3名が合計114歳(平均38歳)だった試合もある。浦和との第2戦は今津佑太(22歳)、小出悠太(23歳)、ビョン・ジュンボン(27歳)が合計72歳、平均24歳だった。
昨季までは自陣深くにブロックを作り、耐えるのが甲府のスタイルだった。上野展裕監督が就任して、チームの重心は攻守とも前がかりになった。サッカー界では慎重で守備的で、攻撃のチャレンジが乏しいチームが「現実的なサッカー」と評される。しかし今の甲府を見る限り、それは間違いだ。
若返り、守備一辺倒からの脱却は吉田達磨前監督が指揮を執った2017年からの取り組みだ。今年4月末に指揮官が交代して、方向性はさらに「過激」になっている。そしてそれがチームの持っていた持ち味を引き出した。
ホームのプレーオフステージ第1戦を2-0の勝利で終えていたため、第2戦は「0-1、1-2ならOK」という状況だった。だから慎重な試合運びを選択しても良かったのだが、甲府はいつも通りにかなり「ガツガツ」したプレスをかけていた。
島川俊郎はこう振り返る。
「点を獲りに行こうとしていた。俺らの良いところは、とにかくプレスに行って、無理にでもプレスに行って、一人一人が頑張るところ。これで引いちゃうと(試合が)難しくなると思った」
島川と佐藤和弘はボランチを任されていたが、対面である浦和のボランチはもちろん、一列前の相手センターバックにもプレスをかけていた。一見すると無茶だし、もちろんハードワークを求められるのだが、その積極性には戦術的裏付けと用意があった。
島川はこう説明する。
「CBにウチのワイドが出ちゃうと、相手のSBをフリーにさせてしまう。CBのところはできるだけボランチが出ていくことを意識した。練習で確認していました」
甲府のプレスは長いボール、縦パスを自由に蹴らせないように「限定」した上でかけることが原則。そういった5バックのオーガナイズ、堅守のベースは上野監督以前から残っているものだし、山本英臣、松橋優といったベテランの役割も今なお大きい。ただ今は緻密さに「若さ」「積極性」というプラスアルファが加わっている。
ともあれ浦和との第2戦は1-2の敗戦。ベスト8進出という結果を手に入れた一方で、課題が見えた試合でもある。守備陣は総じて悔しそうな顔を見せていた。
CBの今津佑太に試合の感想を問うと、こう語り始めた。
「次に進めるのはすごくうれしいですが、今日の2失点には自分が大きく関わった。背後を狙われているのを分かっていた上で、ゲームの中で改善できなかった。それは自分の中で納得がいっていない」
1失点目の場面を振り返ると、今津は興梠慎三の正面に立ってコースを消していた。しかし興梠は左足を鋭く降り抜き、エリア外から決めて見せた。
「自分の感覚では、あれで(興梠のシュートを)当てられる自信があった。でも興梠選手の振りが今までに感じたことのないものだった。『ここを通してくるんだ』って……。このタイミングで、しかも利き足でない左足で振れるんだと肌で感じました。もっと(距離を)詰めなければいけないし、青さが出たなと思います」
2失点目も興梠の個人技だった。ゴールの隅でシュートコースのカバーに入っていた今津の頭上を、興梠はループシュートで破ってみせた。
「カバー入ったんですけど、普通あそこにいたら打ってこないと思ったんですよ。でもそれが通っちゃった。今まで感じられなかったところだったので、(浦和戦の課題を)糧にして次につなげていけたらなと思います。J1トップクラスのFWは、五分五分のボールを平気で収めるし、『ここしかない』ってところに打てる。隙を見せたら結果を残してくる。もっと寄せたり、ついて行ったりしなければいけないし、横着したらいけない。相手がJ2でもこだわってやっていかないと、自分の能力が上がらない」
今津は流通経済大から加入した新人選手で、「J1の甲府」を知らない。CBとして大きな貢献を示しているが、興梠との対決から新たにJ2で得られない糧を得た。1年目のシーズン半ばで、今回のような「痛み」を実感できたことは、むしろプラス面が大きい。
今季のルヴァンカップはJ2から甲府とアルビレックス新潟の2クラブが参加している。甲府は3月から強行日程を強いられ、今回のベスト8進出で連戦、平日開催がさらに増える。しかしこの大会があったからこそ、若手の底上げが実現していることも事実だろう。
加えてプレーオフステージでは「本気の浦和」と対決し、ぎりぎりとはいえ上回った。老練なスタイルでなく、若く積極的なチームが結果を出した。J1再昇格に向けた甲府の勢いを感じる2試合だった。
取材・文=大島和人
しかし2試合合計スコア3-2でベスト8に勝ち上がったのは、人口80万人の県を代表するスモールクラブだった。
メンバー表に記載された先発11名の平均年齢は24.73歳。エデル・リマ、ジネイ、新井涼平、小椋祥平と続出している負傷者の影響もあるのだが、若手がそれを十二分に埋めた。
一昨年にはセンターバック3名が合計114歳(平均38歳)だった試合もある。浦和との第2戦は今津佑太(22歳)、小出悠太(23歳)、ビョン・ジュンボン(27歳)が合計72歳、平均24歳だった。
昨季までは自陣深くにブロックを作り、耐えるのが甲府のスタイルだった。上野展裕監督が就任して、チームの重心は攻守とも前がかりになった。サッカー界では慎重で守備的で、攻撃のチャレンジが乏しいチームが「現実的なサッカー」と評される。しかし今の甲府を見る限り、それは間違いだ。
若返り、守備一辺倒からの脱却は吉田達磨前監督が指揮を執った2017年からの取り組みだ。今年4月末に指揮官が交代して、方向性はさらに「過激」になっている。そしてそれがチームの持っていた持ち味を引き出した。
ホームのプレーオフステージ第1戦を2-0の勝利で終えていたため、第2戦は「0-1、1-2ならOK」という状況だった。だから慎重な試合運びを選択しても良かったのだが、甲府はいつも通りにかなり「ガツガツ」したプレスをかけていた。
島川俊郎はこう振り返る。
「点を獲りに行こうとしていた。俺らの良いところは、とにかくプレスに行って、無理にでもプレスに行って、一人一人が頑張るところ。これで引いちゃうと(試合が)難しくなると思った」
島川と佐藤和弘はボランチを任されていたが、対面である浦和のボランチはもちろん、一列前の相手センターバックにもプレスをかけていた。一見すると無茶だし、もちろんハードワークを求められるのだが、その積極性には戦術的裏付けと用意があった。
島川はこう説明する。
「CBにウチのワイドが出ちゃうと、相手のSBをフリーにさせてしまう。CBのところはできるだけボランチが出ていくことを意識した。練習で確認していました」
甲府のプレスは長いボール、縦パスを自由に蹴らせないように「限定」した上でかけることが原則。そういった5バックのオーガナイズ、堅守のベースは上野監督以前から残っているものだし、山本英臣、松橋優といったベテランの役割も今なお大きい。ただ今は緻密さに「若さ」「積極性」というプラスアルファが加わっている。
ともあれ浦和との第2戦は1-2の敗戦。ベスト8進出という結果を手に入れた一方で、課題が見えた試合でもある。守備陣は総じて悔しそうな顔を見せていた。
CBの今津佑太に試合の感想を問うと、こう語り始めた。
「次に進めるのはすごくうれしいですが、今日の2失点には自分が大きく関わった。背後を狙われているのを分かっていた上で、ゲームの中で改善できなかった。それは自分の中で納得がいっていない」
1失点目の場面を振り返ると、今津は興梠慎三の正面に立ってコースを消していた。しかし興梠は左足を鋭く降り抜き、エリア外から決めて見せた。
「自分の感覚では、あれで(興梠のシュートを)当てられる自信があった。でも興梠選手の振りが今までに感じたことのないものだった。『ここを通してくるんだ』って……。このタイミングで、しかも利き足でない左足で振れるんだと肌で感じました。もっと(距離を)詰めなければいけないし、青さが出たなと思います」
2失点目も興梠の個人技だった。ゴールの隅でシュートコースのカバーに入っていた今津の頭上を、興梠はループシュートで破ってみせた。
「カバー入ったんですけど、普通あそこにいたら打ってこないと思ったんですよ。でもそれが通っちゃった。今まで感じられなかったところだったので、(浦和戦の課題を)糧にして次につなげていけたらなと思います。J1トップクラスのFWは、五分五分のボールを平気で収めるし、『ここしかない』ってところに打てる。隙を見せたら結果を残してくる。もっと寄せたり、ついて行ったりしなければいけないし、横着したらいけない。相手がJ2でもこだわってやっていかないと、自分の能力が上がらない」
今津は流通経済大から加入した新人選手で、「J1の甲府」を知らない。CBとして大きな貢献を示しているが、興梠との対決から新たにJ2で得られない糧を得た。1年目のシーズン半ばで、今回のような「痛み」を実感できたことは、むしろプラス面が大きい。
今季のルヴァンカップはJ2から甲府とアルビレックス新潟の2クラブが参加している。甲府は3月から強行日程を強いられ、今回のベスト8進出で連戦、平日開催がさらに増える。しかしこの大会があったからこそ、若手の底上げが実現していることも事実だろう。
加えてプレーオフステージでは「本気の浦和」と対決し、ぎりぎりとはいえ上回った。老練なスタイルでなく、若く積極的なチームが結果を出した。J1再昇格に向けた甲府の勢いを感じる2試合だった。
取材・文=大島和人
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