残り2周のオーバーテイクショーで8位の琢磨「イエローコーションも味方し、良い作戦を立ててくれた」
NTTインディカー・シリーズも中間地点を折り返し後半戦に入った。第9戦のロード・アメリカは、ウィスコンシン州にある最も長いロードコースで、緑が深くアップダウンの多いが特徴でもある。
レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングの佐藤琢磨も、このコースを気に入っているひとりだ。
「アップダウンもあって、オーバーテイクのポイントもいくつかあるし、ヨーロッパのコースみたいで好きなコースです」と言っていた。
オーストリアのレッドブルリンクのようなアップダウンがあり、森の中を抜けて来る様子はスパ・フランコルシャンのようでもある。
今週もロードアメリカでは観客の入場が認められ、さらにマスク着用の義務もなかった。家族連れで賑わうロードアメリカは、パンデミック以前の雰囲気と変わりなかった。
レーススケジュールは3デイとなっていて、金曜日からプラクティスが設けられていた。予選までの仕上がりが今の課題である琢磨とRLLにとってはありがたい日程だったが、今回もその成果を見せることはできなかった。
もちろんセッションごとに変更を試みてはいたが、タイムシートは冷酷に順位を刻む。予選グループ2で10番手、総合では20番手と厳しい順位だ。今シーズンはいまだにQ1を通過できていないのだ。
「マシンの状態をざっくり言えば、フロントとリヤが喧嘩しちゃってうまくバランスが取れないような感じ。チームメイトのグラハム・レイホールとは、フロントは似ていて後ろのセッティングが違う。細かく変更はしていますが、まだ速さは足りないですね。ストレートもまだ遅いし……」
琢磨がどれほど頭を抱えてもレースのスタートは迫ってくる。予選後に行われた30分のプラクティスでは、6番手のタイムをマークして「少しヒントがあったかも」と言っていた。
20番手からグリーンフラッグとなり、1周目から激しい接近戦となった。琢磨はマーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ)、コナー・デイリー(エド・カーペンター・レーシング)とバトルとなってデイリーと接触すると、マシンの左側とフロントウイング、アンダーフロアにダメージを負ってしまった。この接触でペナルティもあり、琢磨はコナーに前を譲ることになる。
琢磨はレースを続けながらも、マシンのフィーリングに異常を感じてピットに報告すると、10周目にピットイン。サイドポンツーンの左リヤタイヤ前、ウイングレットのあたりを応急処置し、タイヤもレッドに変えてコースに戻った。
16周目に2度目のコーションが出ると、琢磨はこれ幸いと再びピットイン。左のウイングレット付近を再度修復してコースに復帰。23番手からの追い上げとなった。
だが、このピットシークエンスの変更が怪我の巧妙となって後で琢磨自身を助けることになる。
23周目に再度イエローコーションとなり、ほとんどすべてのドライバーがピットに向かう中、琢磨はステイアウトして労せずして2番手となる。前を行くのはインディカーデビューレースのケビン・マグネッセン(アロウ・マクラーレンSP)。新旧の元F1ドライバーのバトルが、レース中盤の見どころになった。
琢磨は幾度かマグネッセンに並びかけた後に、31周目にターン5でマグネッセンをかわした。これで見かけ上のトップとなり、リードラップを2周記録した後に3度目のピットインを敢行した。
コースに戻った時には16番手だったが、上位のドライバーは、40周目の前後で最後のピットに入った。琢磨は再びステイアウトで2番手に戻り、自らは48周目にピットイン。これでもうピットで順位を変えることはなくなり、コース上での勝負だった。
最後のピットで新品のレッドタイヤに変えていたのはラッキーだった。50周目には自己ベストラップで14番手だったが、52周目のエド・ジョーンズ(デイル・コイン)のスピンでイエローコーションが出て最後のチャンスが訪れる。
12番手だった琢磨は、レース再開後にチームメイトのグラハムをかわし、トラブルのあったニューガーデンが下がったおかげで10番手に。
ファイナルラップではマックス・チルトン(カーリン)とパト・オワード(アロウ・マクラーレンSP)も抜き去って、8位でチェッカーを受けた。ラスト5周で6つもポジションを上げる琢磨らしいレースだった。
「今日は最初からマシンにダメージを受けちゃってどうなることかと思ったんだけど、ピットで急いでクルマも応急処置してくれたし、イエローコーションも味方してくれてチームが良い作戦を立ててくれました。ケビンとのバトルも楽しめましたよ(笑)」
「マシンが厳しい状態でも、今のチームではちゃんとフィニッシュするのは大事ですし、ミド・オハイオでヒントになるような事もいくつか見つかったので、良かったと思います」と振り返る琢磨。
不思議なものでマシンの調子が良かったインディ500ではイエローコーションが味方してくれることはなかったが、マシンが今一歩のロード・アメリカではイエローコーションに助けられ、20番手から8位まで上がってきた。レースの神様はそんな悪戯を楽しんでいるのだろうか?
レースのあった6月20日は、奇しくも2004年に琢磨がF1でインディアナポリスの表彰台に上がった日でもあった。もちろんあの日のことを忘れる事はないが、重ねてきた17年の月日は、いつもレースの神様の悪戯の繰り返しだ。
F1ではマックス・フェルスタッペンが勝ち、MotoGPでは復活したマルク・マルケスが勝った。インディカーでもアレックス・パロウが今季2勝目を挙げている。神様がホンダに微笑みかけた1日だった。ホンダボーイの琢磨も例外ではなかったのだろう。
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