マシントラブル、タイヤ交換ミス……未だ戦える環境にいない福住と牧野/FIA F2フランス
日本人ドライバー2人のFIA F2シーズンは、依然として厳しい戦いが続いている。それもドライビングやバトルなど、純粋な速さを競う以前の段階での苦戦だ。
牧野任祐は、予選16番手に沈んだのは「アウトラップで充分にタイヤを温めきれなかった自分のミスです」と認める。しかしフォーメーションラップから雨が降り始めた難しいコンディションでスタートしたレース1ではオプションタイヤのスーパーソフトで素晴らしい走りを見せ前走車をパスしていった。
レース終盤にはニコラス・ラティフィと激しい8番手争いを展開し、一度は最終コーナーで抜いたもののメインストレートで抜き返され、さらにターン8〜9で抜いたもののターン10までの短いストレートで抜き返されるという苦痛を味わった。牧野のマシンは明らかにストレート速度が不足していた。
「最終ラップに向かう最終コーナーで1回抜いて『やっと抜けた』と思ったんですけど、そしたらホームストレートでまた抜き返されたんで……。正直、最後の抜かれ方も……距離的に絶対届かないと思っていましたから。(気付いたらインにいて)『えっ!?』って思いましたよ、あれは」
FIA F2はワンメイクのシリーズだが、マシン『F2 2018』は今季から導入されたばかりでまだ個体差が見受けられる。特に開幕前からトラブルが多発していたエンジンに関しては個体差が大きく、中にはすでに5回もエンジン交換をしているマシンもある。そんな中で、少しでも良い個体をデリバリーしてもらったり、規定距離に達する前にメンテナンスを受けるといった政治力も必要だ。ホンダ陣営は他の有力育成プログラムをバックに持つドライバーたちに較べてその点で後れを取っていると言わざるを得ない。
加えて、トラブルが多発しているのも今季のFIA F2の問題点だ。特にクラッチには未だに不安定さが残り、ストールするマシンが後を絶たない。レース1では3台、レース2では5台がフォーメーションラップとスタート本番でストールするという異常な事態になっている。
レース2ではリバースグリッドでポールポジションを手にした牧野だったが、クラッチ不具合の犠牲となりスタートでストールしかけて5番手に後退(ちなみにレース1でも同じ症状、前戦モナコのレース2、バクーのレース1でもストールしている)。
「クラッチに何か問題があるみたいで、昨日からバイトポイントを一度合わせても次に操作したときにはズレているんです。昨日も今日も蹴り出しというか最初に繋いだ瞬間には動いていなくて1回ストールしかけてから動き出しているんです。僕はたまたまストールせずにつながりましたけど、(アルテム・)マルケロフはそれでストールしていますからね」
レースではアントニオ・フオッコを抑え5番手をキープしていたが、7周目に突如スロットルトラブルに見舞われてスローダウン、リタイアを余儀なくされた。
「スロットルペダルがセーフティモードに入るっていう状態でした。全然エンジンが吹けなくなるし、ペダルを踏んでもどうにもならない状態でした。エンジンの音がおかしかったですし、ブレーキもまっすぐ止まらなかった。今日は色々おかしかったですね……。トラブルがなければ後続はなんとか抑えて、最後にラティフィが落ちてきていたので、4〜5位あたりだったんじゃないかなっていう感じでした。トラブルはどうしようもないし、まだ2戦続けてあるのでその中で良くなればとは思います」
一方の福住仁嶺は、チームの混乱に振り回された。
フリー走行で誤ってチームメイトのタイヤが装着されており、アタックの最中にピットに戻って交換。右フロントだけ常温の新品に交換したためバランスが狂い、充分な確認ができないまま予選に臨まなければならなかった。そして、こちらもエンジンの出力不足に直面していた。
「マシンバランスは悪くなかったしフロントのレスポンスも良くて自分が求めていたバランスに近かったし、ところどころではギュンターより全然速かったんですけど、やっぱりストレートでロスが……。ターン8〜9のシケイン出口からターン10までだけでも0.1秒くらい遅いですから。ビックリしますよ、フリー走行なんて10km/hも遅かったですから」
「出て行ったらステアリングが90度くらい右に曲がってるし、ギュンターのタイヤが付けられていてプッシュしているときにピットに戻ってこいって言われて、右フロントだけ新品タイヤに交換されるからもうマトモに走れないし。自分としては今の現状の中でやれるだけのことをやって戦うしかないので諦めずに戦いますけど……あれだけスピードが違うと、イコールコンディションじゃないですよ」
レース1では雨の中をプライムタイヤでステイアウトして4番手まで浮上したが、オプションに交換したところでタイヤのデグラデーションに苦しむことになった。
「アウトラップにはグリップが感じられて次のラップは良い走りができたと思ったんですけどタイムは全然良くなくて、ちょっとでもプッシュしようとするとリヤのグリップがなくてすごくオーバーステアになって。3〜4周目くらいにはもうリヤが全く無くなって全然プッシュできなくなって。それにしても、あんなにタイヤが急に落ちますかね……?」
レース2ではフォーメーションラップでストール。スロットル開度が充分でなく自分のミスだったと認めるが、ピットスタートで首位から約20秒遅れで戦列に加わったものの上位との差はどんどん開いていった。
昨年までレースペースが遅かったアーデンは、今年ダムスからレースエンジニアを獲得したがまだ改善が見られず、さらにデータエンジニアを1名獲得し体制強化を進めている。しかしその効果が表われるのはまだ先になりそうだ。
「序盤はオーバーステアが強すぎてコーナリングスピードを上げられないのでペースを上げられなくて、フロントのグリップが落ちてバランスが取れてくるのを待つしかなかったんですけど、その後もキツかった。ブレーキバランスが表示されなくなってしまったんで全く見えない状態で走っていたし、普通にスタートできていたとしても相当キツかったと思います」
ワンメイクだからといってドライバーの腕だけで平等に競われるわけではない。それがヨーロッパのレースだ。昨年までGP3でチームメイトとして福住が対等に戦っていたジョージ・ラッセルやジャック・エイトキン、アレックス・アルボンらが上位で戦う速さを見せているのと福住が下位に低迷しているのを見れば、ドライバーの能力だけでこの差が付いているわけではないことは明らかだ。
本当にF1を目指しFIA F2の上位で腕を競うのならば、ただ参戦する以前になすべきことがある。シーズンが折り返し地点を迎えようとしている今、いよいよその現実がはっきりと見えてきた。
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