3メーカーで分かれた2基目エンジンの投入タイミング。富士500マイル戦はサバイバルの予感【スーパーGT第5戦プレビュー】

AUTOSPORT web2019年8月2日(金)19時44分

 真夏の暑さが到来している8月の富士スピードウェイ。今週末の富士で久々の国内戦となるスーパーGT第5戦が開催される。昨年から「富士500マイルレース」として、耐久色を高めたシーズン2回目の富士戦。優勝候補はどのチームになるのか? そして今週末の注目すべきポイントなどを金曜、搬入日の富士で聞いた。


 第5戦富士は500マイル(約800km)と、いつものレースの約2.5倍の距離になり、燃費やブレーキの負担などからウエイトハンデ(WH)の軽いマシンの優位性がいつも以上に高くなる。


 今シーズン、これまで不運のトラブルやアクシデント、そして不振でまさかの未勝利の王者RAYBRIG NSX-GT(WH22kg)、そしてカルソニック IMPUL GT-R(WH19kg)、KEIHIN NSX-GT(WH12kg)のブリヂストンタイヤ勢はいつ勝ってもおかしくない状況で今回の郵送候補に挙がるのは間違いない。


 そして今季これまで4戦3勝を挙げている好調レクサス勢としては、多くのマシンがランキング上位のためウエイトハンデ(燃料リストリクター制限を含む)が厳しいが、そのなかでもDENSO KOBELCO SARD LC500(WH40kg)、au TOM’S LC500(WH48kg)はそれなりのWHながら表彰台に挙がる活躍が期待できそうだ。


 特に36号車のauは第3戦で勝利した次の前回の第4戦タイでも2連勝も目前の速さを見せており、マシンの速さが際立っていただけに今回の富士でも今季2勝目の可能性も高い。レクサス陣営内としては、ラインキング上位陣は今後のチャンピオン争いを踏まえて少しでもポイントを多く稼ぎたいのは間違いなく、陣営内でのバトルがどうなるか注目したい。


 また、今回のレースはシーズン全8戦の折り返しとなる5戦目ということもあり、年間2基のエンジン使用制限のなかでホンダ、レクサス陣営がスペック2とも言えるニューエンジンを投入してきている。その2基目のエンジンの開発の狙いをそれぞれ聞いた。


 まずは開幕戦からシーズン序盤に好調ながら、気温が上がるにつれてレクサス陣営に主導権を奪われる形になってしまったホンダ陣営。全5台のマシンのエンジンすべてを今回の富士で新しくしてきた。


「2基目のエンジンは大きな方向性は変えていません。性能、信頼性ともに万遍なくといいますか、気象条件に対してピークの出ないエンジンの進化版というイメージです」と話すのはホンダGTプロジェクトリーダーの佐伯昌浩氏。ホンダは前回の第4戦タイでも気温の高いコンディションで速さを見せられなかったが、その対策は施してきているのだろうか?


「去年とはランキングのパターンが変わってきていますがポイントハンデ制のレースですので、ここからの2レース、3レースでしっかりポイントを稼げば、最終戦のときにはまたいい戦いができるのかなと思っています。ここからのレースは取りこぼしのないように戦うしかないですね」と佐伯エンジニア。この2基目は最終戦まで使用しなければならないことからも、夏場というよりも終盤の戦いに焦点を当てているような雰囲気だ。


 好調レクサス陣営も当初の予定どおり、第5戦富士で2基目のエンジンを投入してきた。TRDエンジン担当の岡見崇弘エンジニアが話す。


■ホンダ、レクサス陣営と異なり1戦ニューエンジン投入を遅らせたニッサン陣営の狙い


「(すでにシーズン2基目のエンジンを投入している)36号車以外には『ローテーション2』と呼んでいるエンジンを今回投入しています。前半戦を見ていてもお分かりかもしれませんが、とにかく不具合を出さないように、不具合さえ出さなければ今のLC500は調子がいいので、まずは徹底的に不具合を出さないようなエンジンを開発してきました。1基目の不具合の原因も掴めましたので、性能向上よりも信頼性に振ったエンジンというところです」と岡見エンジニア。前半戦の不安が解消され信頼性が確保されれば、鬼に金棒となるが、果たして今回の富士で盤石の結果を残せるか。


 一方、意外だったのがニッサン陣営。今回の富士では開幕からの1基目のエンジンを継続使用する判断を下した。富士はGT-Rにとって得意なサーキットで、性能向上した2基目のエンジンを投入すれば大きなチャンスとなるはずだが……MOTUL AUTECH GT-R、ニスモの監督であり、GT-R車両開発責任者でもある鈴木豊氏に聞いた。


「そういう気持ちがあるのは山々なんですけど(苦笑)、1基目のエンジンのマイレージもまだ大丈夫というのもありますし、きちんと性能効果が確認できたエンジンを開発して、残りの3戦に向けて投入したいと思います」と鈴木豊氏。


 この得意の富士で2基目を投入したい気持ちもあったようだが、まずは確実に性能向上したエンジンで後半を戦うという狙いのようだ。もちろん、2基目の投入を遅らせたからと言って、今回の富士戦を諦めたわけではない。


「今週末は現在のエンジンをきちんと使い切って、(好調のレクサスと)最終戦で同じ土俵に上がれるように、そのためにも他のGT-Rたちと一緒に表彰台を獲得していかないと厳しいと思っています」と鈴木豊氏。ウエイトハンデの面からも、カルソニック IMPUL GT-R(WH12kg)やリアライズコーポレーション ADVAN GT-R(WH28kg)、そしてCRAFTSPORTS MOTUL GT-R(WH32kg)は2基目のエンジンの恩恵がなくても軽さの面から勝機が見えるという判断か。いずれにしても、この第5戦で3メーカーの決断が分かれたのは興味深い。ライバルメーカーのエンジニアからもニッサンの選択に驚いたとの声を聞いた。


 今週末の富士のコンディションは終日晴れの予報ながら、搬入日にも通り雨が来たように、夏ならではの夕立の可能性もあるという。暑さと500マイルという長距離、そして昨年のレース内容からも、サバイバル戦となることは必至で、予選順位はあまり当てにならない可能性が高い。チェッカーを受ける最後まで、多くのチームにチャンスが残される展開になるだろう。


 さらに、今週末の富士にはDTMの代表でもあるゲルハルト・ベルガー氏が来日して11月に予定されているスーパーGTとDTMの交流戦についての発表も行われる予定で、GT300についてもアナウンスがあるとのことでスーパーGTファンとしては目の離せない週末となりそうだ。

2基目のエンジン投入を遅らせたニッサン陣営。開幕から毎戦優勝候補に挙げられるカルソニック IMPUL GT-Rは今回、結果を残せるか。


この富士で2基目のエンジンを投入してきたホンダ陣営。GTAの車検を受けるKEIHIN NSX-GT

現在ランキングトップのWAKO’S 4CR LC500をはじめ上位のレクサス陣営内の戦いは激化傾向

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