JFL、J3、J2を経てJ1屈指のスター軍団へ…神戸FW藤本憲明が歩む道のり
サッカーキング2019年8月23日(金)7時0分
[写真]=Jリーグ
「大分にいた時の目標は『J1残留』だった。今は神戸も下位にいますけど、世界トップレベルの選手がたくさんいて、来年以降はトップを目指せる力があると思うし、彼らからの刺激もほしかった。『まだまだ選手として伸びる』と思って、僕はここに来ました。実際、アンドレス(・イニエスタ)のパスに合わせる感覚なんかもよくなっていけば得点を取れると思うし、セルジ(・サンペール)とか他にもいろんなパサーもいる。今は試合に出るのがとにかく楽しみですね」
8月7日に大分トリニータからヴィッセル神戸へ電撃移籍した藤本憲明は今、新たな日々に充実感を覚えている。10日の古巣・大分戦で83分から古橋享梧に代わって新天地デビューを果たし、14日の天皇杯3回戦(大宮アルディージャ戦)で先発フル出場。17日の浦和レッズ戦も83分からピッチに立った。直後にイニエスタがダメ押しPKを決めてリードを3点に広げると、チーム全体がイケイケ状態に。勢いを乗った藤本自身もサンペールの絶妙なスルーパスに反応し、決定機を迎えた。
「ありがとう、セルジ」
そう思いながら放った右足シュートはゴールを捉えたかと思われた。しかし、ボールは右ポストを強襲。自身の神戸初ゴールは幻となってしまった。
「ゴールパフォーマンスもしようと思ってたんですけど…」と本人は悔やんだが、今季大分でリーグ戦8得点という数字を残している点取屋らしい得点感覚を改めて見る者に印象づけた。この調子なら、新天地での得点もすぐに手が届きそうだ。
ただ、忘れてはいけないのは、彼が今季J1初挑戦の選手だということだ。ガンバ大阪ジュニアユース、青森山田高校、近畿大学を経て、2012年にJFLの佐川印刷で社会人キャリアをスタートさせた。以降はJ3の鹿児島ユナイテッド、J2の大分トリニータと下部リーグでの長い下積み生活を経て、日本最高峰のリーグへとたどり着いた。
「J1初挑戦ということで、あまり何も考えずにプレーできたのがよかったと思うんです。『自分のやるべきことに集中できてる』という感覚が大きいですね。それに運もよかった。まあ『運も実力のうち』とは言いますけどね」と本人は笑う。
研ぎ澄まされた集中力と強運はシーズン序盤のゴールラッシュを呼び、第8節まではディエゴ・オリヴェイラやアンデルソン・ロペスらと得点王争いを繰り広げたほどだ。その後、対戦相手のマークは激しさを増し、多少得点ペースを落としたが、前述の通り、ここまで8得点を記録している。
半年間で華々しい活躍を見せた遅咲きストライカーに神戸が白羽の矢を立て、今月の移籍が決まった。が、トルステン・フィンク監督率いる現体制ではジョーカー的な起用が中心だ。大黒柱と位置付けられていた大分時代とは異なり、出場時間は減少傾向にある。それでも、藤本は「ゴールチャンスは大分より増える」と前向きに捉えている。
「神戸と対峙する相手はウチの色々な選手をマークしなくちゃいけなくなる。相手のマークが分散する分、僕のチャンスは増えてくると思いますね。シーズン途中の夏場にチームを変えるのは初めての経験だし、ちょっと難しい部分もありますけど、アンドレスやセルジを筆頭に、みんなスタンダードが物凄く高い。自分はゴール前の駆け引きやオフ・ザ・ボールの準備を常にしていて、パサーのタイミングに合わせる部分は長けている。そういうストロングポイントも出しやすいですね」
周囲とのコミュニケーションもバッチリだ。20日のトレーニングでも、イニエスタと会話を交わし、意思疎通を図ろうとする場面が印象的だった。
「ボール回しの時、アンドレスが僕に『ヤング、ヤング』みたいなことを言うから『お前は若いんだから最初に守備に入れ』って意味なんだなと。それで自分は『昨日(8月19日)がバースデーだったんで、30歳になった』と返したんです。それでも確かにアンドレスよりは若い。結局、守備に入ったんですけど、そういう感じで毎日楽しく、刺激的にやれてますね」
持ち前の明るさと適応力を最大限に活かして様々なチームで成功を収め、J屈指のタレント集団の神戸まで上り詰めた。“雑草FW”はより一層のゴール量産と個のレベルアップを見据えている。
1つの理想的なモデルは、1年前の夏にJ2のFC岐阜から引き抜かれ、今や神戸の重要な得点源の1人となり、フローニンゲンへの移籍話が浮上している古橋亨梧だ。
「享梧も神戸に来て、結果を出して、海外から注目されるようになった。神戸というタレントの集まっているクラブにいれば、そういうことが可能になるという証明ですよね。僕自身は今のところ海外は全然狙ってないですけど、もっともっと結果を出して上のレベルを目指したいという気持ちはあります」
藤本は常に貪欲に泥臭くゴールを狙い続ける向上心の塊だ。そのメンタルの強さがここまで勝ちきれなかった神戸というチームをガラリと変えるかもしれない。フェルナンド・トーレスの現役ラストマッチとなる23日のサガン鳥栖戦で、30歳最初のゲームを迎える遅咲きの点取屋がどんな仕事を見せてくれるのか。自身を大きく開花させた九州の地での爆発を楽しみに待ちたい。
文=元川悦子
8月7日に大分トリニータからヴィッセル神戸へ電撃移籍した藤本憲明は今、新たな日々に充実感を覚えている。10日の古巣・大分戦で83分から古橋享梧に代わって新天地デビューを果たし、14日の天皇杯3回戦(大宮アルディージャ戦)で先発フル出場。17日の浦和レッズ戦も83分からピッチに立った。直後にイニエスタがダメ押しPKを決めてリードを3点に広げると、チーム全体がイケイケ状態に。勢いを乗った藤本自身もサンペールの絶妙なスルーパスに反応し、決定機を迎えた。
「ありがとう、セルジ」
そう思いながら放った右足シュートはゴールを捉えたかと思われた。しかし、ボールは右ポストを強襲。自身の神戸初ゴールは幻となってしまった。
「ゴールパフォーマンスもしようと思ってたんですけど…」と本人は悔やんだが、今季大分でリーグ戦8得点という数字を残している点取屋らしい得点感覚を改めて見る者に印象づけた。この調子なら、新天地での得点もすぐに手が届きそうだ。
ただ、忘れてはいけないのは、彼が今季J1初挑戦の選手だということだ。ガンバ大阪ジュニアユース、青森山田高校、近畿大学を経て、2012年にJFLの佐川印刷で社会人キャリアをスタートさせた。以降はJ3の鹿児島ユナイテッド、J2の大分トリニータと下部リーグでの長い下積み生活を経て、日本最高峰のリーグへとたどり着いた。
「J1初挑戦ということで、あまり何も考えずにプレーできたのがよかったと思うんです。『自分のやるべきことに集中できてる』という感覚が大きいですね。それに運もよかった。まあ『運も実力のうち』とは言いますけどね」と本人は笑う。
研ぎ澄まされた集中力と強運はシーズン序盤のゴールラッシュを呼び、第8節まではディエゴ・オリヴェイラやアンデルソン・ロペスらと得点王争いを繰り広げたほどだ。その後、対戦相手のマークは激しさを増し、多少得点ペースを落としたが、前述の通り、ここまで8得点を記録している。
半年間で華々しい活躍を見せた遅咲きストライカーに神戸が白羽の矢を立て、今月の移籍が決まった。が、トルステン・フィンク監督率いる現体制ではジョーカー的な起用が中心だ。大黒柱と位置付けられていた大分時代とは異なり、出場時間は減少傾向にある。それでも、藤本は「ゴールチャンスは大分より増える」と前向きに捉えている。
「神戸と対峙する相手はウチの色々な選手をマークしなくちゃいけなくなる。相手のマークが分散する分、僕のチャンスは増えてくると思いますね。シーズン途中の夏場にチームを変えるのは初めての経験だし、ちょっと難しい部分もありますけど、アンドレスやセルジを筆頭に、みんなスタンダードが物凄く高い。自分はゴール前の駆け引きやオフ・ザ・ボールの準備を常にしていて、パサーのタイミングに合わせる部分は長けている。そういうストロングポイントも出しやすいですね」
周囲とのコミュニケーションもバッチリだ。20日のトレーニングでも、イニエスタと会話を交わし、意思疎通を図ろうとする場面が印象的だった。
「ボール回しの時、アンドレスが僕に『ヤング、ヤング』みたいなことを言うから『お前は若いんだから最初に守備に入れ』って意味なんだなと。それで自分は『昨日(8月19日)がバースデーだったんで、30歳になった』と返したんです。それでも確かにアンドレスよりは若い。結局、守備に入ったんですけど、そういう感じで毎日楽しく、刺激的にやれてますね」
持ち前の明るさと適応力を最大限に活かして様々なチームで成功を収め、J屈指のタレント集団の神戸まで上り詰めた。“雑草FW”はより一層のゴール量産と個のレベルアップを見据えている。
1つの理想的なモデルは、1年前の夏にJ2のFC岐阜から引き抜かれ、今や神戸の重要な得点源の1人となり、フローニンゲンへの移籍話が浮上している古橋亨梧だ。
「享梧も神戸に来て、結果を出して、海外から注目されるようになった。神戸というタレントの集まっているクラブにいれば、そういうことが可能になるという証明ですよね。僕自身は今のところ海外は全然狙ってないですけど、もっともっと結果を出して上のレベルを目指したいという気持ちはあります」
藤本は常に貪欲に泥臭くゴールを狙い続ける向上心の塊だ。そのメンタルの強さがここまで勝ちきれなかった神戸というチームをガラリと変えるかもしれない。フェルナンド・トーレスの現役ラストマッチとなる23日のサガン鳥栖戦で、30歳最初のゲームを迎える遅咲きの点取屋がどんな仕事を見せてくれるのか。自身を大きく開花させた九州の地での爆発を楽しみに待ちたい。
文=元川悦子
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