ホンダ勢予選トップから悪夢の1周目となった大湯。同期・角田のF2活躍に「次は自分が主役に」
FIA F2に参戦している角田裕毅が8月29日(土)にスパ・フランコルシャンで行われたレース1で勝利した瞬間、大湯都史樹(TCS NAKAJIMA RACING)のプレッシャーは少しだけ開放された。
「角田選手の調子がいいときは、僕も調子がいい」
大湯と角田はSRS-F(鈴鹿レーシングスクール・フォーミュラ)の同期で、「俺の方が速い、いや、俺の方が速い」(大湯)と、互いに切磋琢磨しあってきた仲だ。これまでさまざまなレースに参戦してきたが、角田の調子がいいときは、総じて自分自身の成績もいいときが多かったと大湯は言う。だから、今回のスーパーフォーミュラ開幕戦が行われる日曜日もリラックスして迎えることができた。その効果は予選から現れる。
開幕戦に出場したマシンは全19台。そのうちホンダ勢は8台参戦しているが、Q1で4台、Q2で3台が予選落ちを喫し、Q3に残れたホンダ勢は大湯ただひとりだけだった。7台のトヨタ勢を相手に、たった1台で、しかも経験豊富なベテランではなくルーキーが戦わなければいけない。そのプレッシャーは相当なものだったが、見事跳ねのけて予選4番手を獲得してみせる。
しかし、このとき3番手を獲得した山下健太(KONDO RACING)とのタイム差はわずか1000分の2秒。この差が数字以上に大きな意味を持つと分かったのは決勝レーススタートのときである。
「イン側のスタートはすごく路面がダスティでポジションを落としてしまった。3番手でスタートできていればあんなことにはならず、いい位置にいられたかもしれません」
大湯が“あんなこと”と話すのは、オープニングラップでのトラブルのことだ。スタートで蹴り出しは悪くなかったものの、加速がよくなかった大湯は1コーナーで中嶋一貴(VANTELIN TEAM TOM’S)、関口雄飛(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)に抜かれ、6番手に後退。3コーナーの立ち上がりで中嶋とポジションを争っていた関口の右リヤタイヤが大湯のフロントウイングと軽く接触してしまう。大湯本人は接触した感触はなかったというが、このとき大湯のフロントウイングは壊れてしまっていた。そしてもうひとつ、さらなる不運が大湯を襲う。
「エンジンが吹けない!」
なんとヘアピンの立ち上がりで突然の失速。関口と接触した際に、バランスが崩れたマシンを修正するなかで、大湯は“ピットレーンリミッター”を押してしまっていたようだ。
「押した感覚もなく、通常ならステアリング上に表示が出るものも、あのときは最初の設定が違っていたようで、出ていなかったのでまったく気がつきませんでした。接触後も普通に走れていたので、突然スローダウンしたときは『なんでだ
ピットレーンリミッターは自動的にピットレーン速度の60km/hに設定するためにピットに入る際に押すボタンだが、通常80km/h以下に減速した際に制御が効くようになっている。大湯が実際仮にボタンを押したのが3コーナーであっても、その時点では80km/h以上のスピードで走行していたために制御は効かず、ヘアピンで80km/hを切ったときに作動してしまったというわけだ。
かくして、大湯のスーパーフォーミュラ初レースは決勝15位という苦々しい結果に終わってしまった。一方で、予選ではホンダ勢でトップタイムを出し、スピードという部分を示すことはできた。チームも昨年から決勝レースのペースに悩まされていた部分があるが、それも「改善できそうな雰囲気がある」と言う。あとは結果を出すだけだ。
スーパーフォーミュラの初レースで緊張しているようなそぶりは一切見せなかったが、じつはとても緊張していて眠れずに角田のF2のレースを「見てしまった」大湯。角田の活躍を応援しつつも、本心では自分が首席でSRS-Fを卒業し、角田は三席(※編注:次席は笹原右京。角田は3番目の成績でSRS-Fを卒業)だったことを思うと「(角田選手と)同じ場所に自分がいられないことが悔しい」と、同期の活躍が刺激にならないわけがない。
「僕も海外を目指しているので、負けていられない。僕も角田選手のように目立てるように頑張ります。次は自分が主役になるしかないです」
開幕戦では今季、スーパーフォーミュラに参戦しているルーキーのなかでサッシャ・フェネストラズ(KONDO RACING)の活躍が目立ったが、大湯の戦いもまだ始まったばかり。普段の雰囲気からは想像もつかない熱い闘志を持ったルーキーは、1ヵ月後に行われる第2戦岡山でどんな戦いを見せてくれるのだろうか。
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