脇阪寿一がゴルフGTI TCRを語る「このクルマがどんなものなのかを知りたかった」
9月1〜2日に、富士スピードウェイで開催されているスーパー耐久シリーズ第5戦『富士SUPER TEC』。今回、このラウンドには近年世界的に盛り上がりをみせるTCR規定のマシンによるST-TCRクラスに5台が参戦しているが、アデナゥから参戦するRacingline PERFORMANCE GOLF TCRに、脇阪寿一が乗り込んでいる。豊富な経験をもつ寿一がなぜゴルフGTIをドライブすることになったのか、そして初めてのTCRマシンはどんな印象だったのだろうか。
近年世界各国でシリーズが開催されているTCR規定は、ツーリングカーレースのなかでも安価なコスト、そしてGT3を参考にしたバランス・オブ・パフォーマンスによって、今後世界のツーリングカーのメインストリームになると言われている。そんなTCR車両のうち、今季スーパー耐久に新設されたST-TCRクラスにはホンダ・シビックTCR、アウディRS3 LMSの2車種が2台ずつ参戦。鈴鹿からはアデナゥが走らせるフォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCRが、『Racingline PERFORMANCE GOLF TCR』という車両名で登場した。
そんなアデナゥのゴルフGTIの富士戦の第3ドライバーとなったのは、あのスーパーGT三度の王者である脇阪寿一だ。今季チームはフィリップ・デベサをAドライバーとして、チーム代表でもある密山祥吾がBドライバーとなっていたが、そこに寿一がドライバーとして加わる。
「フィリップ選手と僕で『富士どうしようか』とふたりで話していたときに『寿一さんにダメもとでお願いしてみよう』となったんです。その後、トヨタさんからの了解を得て、乗ってもらうことになりました」とチーム代表も務める密山は言う。
■脇阪寿一がフォルクスワーゲンを駆る理由
一方、TOYOTA GAZOO Racingのアンバサダーでもある寿一は「密山選手から話をもらったのが最初で、フィリップ選手もよく知っているので、ふたりのレースに協力したかった」と参戦を決めた理由を語ったが、もうひとつ大きな理由があるという。
「このTCRというツーリングカーレースがヨーロッパで立ち上がって、欧州のメーカーがいろんな車種を出している。そこで、僕はこのクルマがどんなものなのかを知りたかったんです」
「メーカーとしては、フォルクスワーゲンは大きな存在ですよね。そういったノウハウがこのゴルフGTI TCRにも入っていると思うし、僕がそれを経験することによって、トヨタのいい部分、フォルクスワーゲンのいい部分を頭の中に入れて、これからのクルマ作りに活かしたいと思ったんです」
「TOYOTA GAZOO Racingはボス(豊田章男社長)自ら他のメーカーのクルマにも乗るし、僕もきちんと意味をもって、このクルマに乗りたいと思う。『もっといいクルマづくり』のための僕なりの手法ですね」
こうして実現した寿一のフォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCRのドライブだが、寿一が気付いたゴルフTCRの印象は「安定はしているけど、良い意味で『雑』」だという。それはどういうことなのだろうか。
「日本のレーシングカーはもともと市販車からレーシングカーとして作り変えようとすると、いろいろと変えなければいけない部分多くて、作り込んでいくとクオリティは上がるけど、コストも上がって高くなってしまう。だけど、たとえばペダルのフットレストなんかをとっても、ゴルフは剛性が全然ないんです」と寿一。
「でもこのTCRは市販のレーシングカーで、売り出す価格とコストを考えると、ゴルフGTI TCRはきっちりしているのかな。いま、TOYOTA GAZOO Racingもその仕組みに気付いて、市販車からレースカーにするときのコストの下げ方も研究している。でも、(ゴルフに乗ると)もっとやりようはあると感じましたね」
そんな寿一のTCR評は、市販レーシングカーの乗り味としては非常に的確なものだろう。自身のチューニングショップであるアデナゥで、多数のゴルフを手がける密山も「基本はゴルフらしさがすごくあって、(規定ではできないが)Racinglineのパーツを組み込みたいくらい、市販車との共通点がある。ここで得られたデータはお客様にもフィードバックできると思っています」と語っている。
■アデナゥにもたらされる“寿一効果”
さて、そんな寿一も乗り込むRacingline PERFORMANCE GOLF TCRだが、8月2日に行われた予選では、デベサと密山がアタックし、ST-TCRのポールポジションを獲得した。また、寿一はCドライバー予選で1分52秒114をマーク。同じST-TCRでホンダ・シビックTCRを駆った道上龍を上回ってみせた。
決勝でも期待が高まるRacingline PERFORMANCE GOLF TCR。しかし寿一は、10時間という長いレースで「ガンガンいくというより、このクルマを経験するためにじっくりいきたい。そしてふたりが喜んでくれるようなレースをしたいね」と語った。
密山も「パッと初めて乗ったのにもかかわらず、クルマやチームの問題点もすぐに指摘してくれましたし、すごく勉強になっています」と“寿一効果”を語る。ST-TCR車両にとって10時間耐久は世界的にもそれほど多く経験が積まれているわけではないが、明日のレースのなかでも注目のクラスと言えるだろう。
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