新たなトライもあればリセットも。“例年と異なるもてぎ”への3車のアプローチ/第4戦GT500プレビュー
スーパーGTはシーズン第4戦を迎え、舞台は2020年初開催となるツインリンクもてぎ。もてぎといえば近年は最終戦の舞台として定着しており、低気温のなか、ノーウエイト、そして短距離(250km)という条件下で争われてきた。それが今回の第4戦は、夏の終わりの高温期、ウエイト(と燃料リストリクター)あり、レース距離300kmと、さまざまな面で近年のもてぎ戦とは異なる条件のもと行なわれる。
中盤戦ということでGT500ランキングトップ勢のウエイトはかさんできており、彼らにとっては「1ポイントでも多く」という粘りのレースを展開する時期に入ってきている。一方、ここまでのレースでとりこぼしてきているランキング下位勢にとっては、生き残りをかけた“絶対に落とせない一戦”となる。
また、搬入日となる金曜の時点でも、晴天だった次の瞬間には雲が広がって雨粒が落ち、雷鳴とともに豪雨に見舞われたかと思うとまたすぐに太陽が顔を覗かせるなど、天候が不安定なのも気がかりだ。
そんな複雑な要素が絡み合うなか、各陣営は今週末のもてぎをどう戦うつもりなのか? ランキング2位のKeePer TOM’S GR Supra、同3位のRAYBRIG NSX-GT、そしてニッサン勢からはCRAFTSPORTS MOTUL GT-Rに、今回の持ち込みセットの考え方や週末の戦い方などについて聞いた。
キーパーは、前戦鈴鹿では「持ち込みセットを外していた」と小枝正樹エンジニアは言う。勝利した富士の開幕戦、そして第2戦を通じて2020年車両の富士に対するセットアップについて理解を深めていったが、鈴鹿ではそれがうまく機能しなかった形だ。
「ウチがやっている方向性が(他車に)負けていない部分もありますが、それが鈴鹿では行きすぎてしまったのか……。ちょっとはっきり分からないですけど、合わなかったなぁというのはあります」
「前回はいろいろトライをしていた部分もあったのですが、今回はそれを見直してきました。リセットに近いかもしれないです」と、鈴鹿よりは富士に近いアプローチのようだ。
「もてぎでも『きっちり曲がって・きっちり加速して』という部分は富士と共通するところもある」ということでセットがうまくハマる可能性もありそうだが、「燃リス(燃料リストリクター)がありますからね」という。
ここもてぎで実際にどれだけ燃料リストリクターが効くのかは未知数だが、「鈴鹿でも充分効いてましたが、ここはそれ以上に厳しいかなと思います」と小枝エンジニア。ランキングトップをいく僚友のau TOM’S GR Supraとともに、我慢のレースとなりそうな予感だ。
ランキング3位はホンダ勢トップとなるRAYBRIG NSX-GT。前回の鈴鹿戦では予選日夜に大幅なセット変更を敢行したことで、決勝2位という逆転につなげることができた。
前回の決勝日に好結果を導いてくれたセットアップが、ここもてぎにも応用がきくかというと、「ちょっと難しいかな」と伊与木仁エンジニアは首をひねる。
「(2020年型車両で)ここを走ってないので、鈴鹿の応用という感じではないです。(山本)尚貴も最近よく言いますが、テストがない今年の状況では、レースウイークに新しいことをトライしていかなければいけないと思うんです。だから正直、今回もまったく新しい内容を入れています」
前回は持ち込みセットがよくなかったが、そこから修正する対応力を見せることができた。だが、伊与木氏は「それ(対応力)と同じくらい、持ち込むタイヤの重要性が上がってきています」という。
「この短いレースサイクルのなかで、タイヤメーカーさんも大変な思いで開発をしているわけですが、彼らから提示される選択肢のなかから、どういう根拠で持ち込みスペックを選ぶか。とくにコンパウンドはなかなか事前の計算が立たないので、そこをどう選ぶかが今年は非常に難しくなっています」
もてぎというサーキットでのウエイトの影響についてもについても「テストがない状況では、今年のクルマにおいて重量がタイヤに及ぼす影響も走ってみないと分からない」部分があるという。
新たな試みを入れているセットアップと、悩んだ末に決めた持ち込みタイヤ。それらがどう機能するのか、走り出しのセッションから注目していきたい。
ところで、今回はフルブレーキング箇所の多いもてぎでの暑い時期のレースということで、ブレーキも肝要だ。とはいえ、事前の計算によると完全にブレーキパッドがなくなるようなことはないと伊与木氏は言う。
「ただ、ブレーキバランスは注意が必要ですね。ずっとフロント寄りだとフロント(のパッド)が減る割合が多くなる。そうするとロックしやすくなるので、どのくらいのタイミングで(ブレーキバランスを)リヤにもっていくか。そこはレースをしながらアジャストが必要です」
キーパー、レイブリックともに”重量級”なこともあり、両車とも雨は歓迎方向。伊与木エンジニアは「ややこしい天気に乗じて上位に行けるように組み立てないといけない。真っ向ドライで勝負して勝てるとは言えないけど、雨絡みになるなら勝ちに近いところに行かないとダメだよね」と、悪天候に対しても気持ちを引き締めている。
■CRAFTSPORTS MOTUL GT-Rの期待と不安
前戦鈴鹿ではMOTUL AUTECH GT-Rが今季初優勝を遂げた。その裏で悔しい思いをしていたのが、同じミシュランタイヤを履くCRAFTSPORTS MOTUL GT-Rだ。
平手晃平は「鈴鹿では公式練習からエンジンがあまり回っていなくて、うまく流れを作れなかったんです」と振り返る。
「うまく流れをつかめていれば、予選Q1もあとコンマ1秒くらいでしたし、突破できていたと思います。なんとか決勝では6位まで順位を上げることもできて、良くないなかでもできるだけのことはできた。ただライバルというか、23号車に先に勝たれてしまい、正直悔しかったですね」
鈴鹿では、モチュールGT-Rとはタイヤのスペックが異なっていた。結果的にはクラフトスポーツがマーキングしていないミディアムソフトをうまく使いこなしたモチュールが優勝。
これに関して平手は「(2台の)選択が分かれたことで結果も割れた。だから、今年の新しいテクノロジーの良さがはっきり見えました」という。
「逆に僕らとしては『このコンディションなら確実にこのレンジだろう』と狙ったタイヤが意外とそうでもないというのが分かった。そのあたりを今回は考慮して、持ち込んできてはいますね」
もてぎでのGT-R勢はどんな走りを見せてくれるだろうか。平手は「富士の2戦はスープラの直線の速さにやられっぱなしでした。もてぎもエンジンサーキットなので、不安はあります」と心境を語る。
「ただ、まわりがウエイトを積んできているなか、僕らは軽い方なので、表彰台を狙ってしっかり走りたいですよね。雨かもしれませんが、去年も雨では勝っていますから(第7戦SUGO)」
もちろんクラフトスポーツ以外にも、ARTA NSX-GT、カルソニックIMPUL GT-R、そしてZENT GR Supraなど、ウエイトの面からも上位進出に期待がかかるマシンは多い。背負うものや思惑が微妙に各陣営で異なってくるシーズン中盤戦、どんなレースが展開が待っているのだろうか。
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