イチから見直してブレーキングで攻められるマシンに。チーム一丸となって掴んだARTAの予選PP【第5戦GT500予選あと読み】
2年ぶりにスポーツランドSUGOで開催されているスーパーGT。特にGT500クラスの公式予選はトップ6台が0.5秒以内にひしめく接戦となったが、その中でも頭一つ抜け出る走りをみせてポールポジションを獲得したのがARTA NSX-GTの野尻智紀/福住仁嶺だった。
今シーズンは開幕戦から優勝候補と目されながらも、前半4レースを終えて表彰台はなし。特に前回の第3戦鈴鹿では5番グリッドからスタートするも、決勝でペースを上げることができず、最終的に11位でチェッカーを受け、ノーポイントに終わった。
前回のレース後、チームのエースである野尻は8号車担当のライアン・ディングル エンジニアと長時間にわたって話し込んでいたが、その表情は今まで見たことがないほど険しいものだった。
その際、相方の福住とともに「もう一度、全部を見直さないといけない」とコメントしていた野尻だったが、約3週間のインターバルで、文字通り“クルマのセットアップ全て”を見直してきたという。
「チームとともにセットアップのことをイチから見直してきました。このセットアップにしたら、どういう作用が出るのか、ポジティブな面もネガティブな面も含めて、イチから洗いざらいやりました」と野尻。
「それこそSUGOで言うと『このコーナーでこういう走りをすると、こっちのコーナーも同じ動きになる』とか『こういう動きになったらSUGOは速く走れない』とか……SUGOの攻略法みたいなのも、エンジニアさんたちに話して、よりイメージしてもらえるようにしました」
そう語った野尻。先月末のスーパーフォーミュラ第5戦もてぎでは圧倒的な強さでポール・トゥ・ウィンを飾った。その時もチームと一緒にドライバーのフィーリングとデータの擦り合わせを徹底的にやってきたのだが、同様のことをスーパーGTでもやってきたという。
「自分たちの中で、しっかりと根拠を持って物事を進めることができれば、道に迷いそうになった時も戻ってこられると思います。これまでは道に迷ったら迷いっぱなしというのが、僕たちの弱い部分だったので、そこを何としても改善したかったです」
その中で、野尻はライアンエンジニアとの意思疎通をしっかり取ることを心がけて、事前準備はもちろんのこと、予選日も進めていた。
「ライアンの狙いや意図をしっかり聞いて、それに対して僕は、ネガティブな要素も含めて、どんなことが起きるかという想定を話し合ってきました。今回はブレーキングも攻められて、空力もドライバーが嫌がらない使い方ができて、その上でアンダーステアとかオーバーステアをどう均一にするかという部分を、しっかり細かく見てきました」
それに対してライアンエンジニアもドライバーからのフィードバックにより重きを置いてセットアップを考えるようにしてきたという。
「エンジニアだと、例えば、この速度に対して荷重がどうかかかっていて、車高がどのくらいになっているのかなどを計算してセットアップを決めています。でも、ドライバーはもっと細かい部分でのクルマの動きが大事になってきます。そこはドライバー2人からのフィードバックをさらに重視してセットアップを考えて、まだやったことがないところをアジャストしてやりました」
「結果的には良かったですけど、公式練習ではもう少しロングランのセットも見ておきたかったです。その辺でまだ心配になる部分が残っているので、この3週間のインターバルと同じで、ドライバーからのフィードバックを頼りに、一緒にデータをひとつひとつ見直して、決勝日に備えたいなと思います」
3週間のインターバルで徹底的にドライバーたちと話し合ったことで、今まで以上にマシンに対しての理解度を深めていた様子だった。
もちろん、Q2で唯一の1分09秒台をマークした福住も、鈴鹿からのインターバルをフルに活用して、再びチーム一丸となれるように努力してきた。
「(セットアップに関しての話は)僕自身は、そこまで深くは関わっていないのが正直なところですけど、野尻さんが次に向けてどのようにチームと話をしているのかは、一緒にミーティングもしているので、分かっていました」
「さらにコミュニケーションの面で、もっと効率よくできる方法はないのかとか、僕も分からないこととかもあったので、それは積極的に聞いたり、ライアンさんと話す機会も増やして、ひとつひとつの行いを大事にしていました」
「クルマのことを理解しながら、チームのためにできることはないのか、そういう細かいところも自分なりに考えながら、今回に臨みました」
こうした地道な努力を積み重ねてポールポジションを獲得した福住だが、ここでぬか喜びするのではなく、今一度しっかりと見直していく必要があると語った。
「こうしてポールポジションを獲れたことは良かったですし、素直にひと安心しています。でも、今回うまくいっているからこそ、見過ごしてしまっている部分はあるかもしれませんし、悪い流れになってしまった時に、どういうふうに対策していかないといけないかなどを考えておかないといけません。そういう部分では、課題はまだたくさんあると思います」
「明日の決勝に向けては警戒心をちゃんと持って、しっかりと対処できるように臨みたいです」
同じように、決勝レースに関しては野尻、エンジニアのライアンとともに慎重なコメントが聞こえてきていたが、“勝ちたい”という想いは3人とも共通して強く持っているのは間違いない。その目標に向かって、ポールポジション獲得の余韻に浸ることなく、今回の予選後もミーティングを重ねていた。
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