【レースフォーカス】もぎとった2ポイント差。最終ラップ、クアルタラロがミルと演じた9位争い/MotoGP第10戦
MotoGP第10戦フランスGPではチャンピオンシップのランキング上位ライダーが下位に沈んだ。ランキングトップのファビオ・クアルタラロ(ペトロナス・ヤマハSRT)は9位、ジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)は11位。そしてマーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)は10位。そこでは表彰台争いに勝るとも劣らない、激しいポジション争いが展開されていた。
フランスGPはスタート直前にウエットとなった路面が状況を変えた。ポールポジションからスタートしたクアルタラロだったが、ドライコンディションで行われたセッションではトップタイムをマークしていたものの、ウエットコンディションで行われた初日のフリー走行1回目では18番手に終わっていた。
クアルタラロは路面がウエットコンディションとなったとき、大きなリスクを冒した。
「チームにお願いして、バイクを大きく変更した。フリー走行1回目ではフィーリングがすごく悪かったから。タイヤの暖めで苦労はしたけれど、感じはよくなったよ。レースで挑戦したことがないセッティングだったから、少し神経質にはなったけれどね」
ウエットレースが宣言されたフランスGPは、2019年に最高峰クラスにデビューしたクアルタラロにとって初めてのウエットコンディション。レース序盤はリヤタイヤの暖めに苦戦した。このためにクアルタラロはオープニングラップでダニロ・ペトルッチ(ドゥカティ・チーム)、ジャック・ミラー(プラマック・レーシング)、アンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)に交わされて4番手にポジションを落とす。このとき上位を走っていたライダーたちのラップタイムよりも、クアルタラロのタイムは1秒以上遅かった。クアルタラロはレース序盤、なすすべなくどんどんポジションを落とし、4周目で10番手。以降はこの付近で周回を重ねることになる。その原因にはリヤタイヤの暖めついての問題があった。
「レースをマネジメントするのは簡単じゃなかったよ。こういう状況で、リヤタイヤを暖めるのに苦労したのが主な問題なんだ。レース序盤にひどかったのはそういうわけなんだ」
奇しくもレース終盤には10番手付近にチャンピオンシップのランキング上位陣が集まった。ランキング2番手のミルもそのひとりだ。最終ラップには、クアルタラロはミルと9位を激しく争った。
「レース中にチャンピオンシップのことを考えたのは初めてのことだったと思うよ。ジョアンが僕をオーバーテイクしたとき、『ありえない』と思った。そこで、9コーナーで激しくブレーキングして、彼をオーバーテイクしたんだ。少しだけワイドになって彼を押し出した。でも僕もそうだった。だって、限界を超えていたんだ。これは9位争いなんだけど、まるで優勝争いみたいだった。すごくおもしろかった。だれもそんな“チャンピオンシップ”で勝ちたいと思わなくっても、僕は勝ちたかったんだ。これは本当にすばらしいオーバーテイクだったよ」
後方の“チャンピオンシップ”を制したクアルタラロにとって、さらに幸運があった。ドヴィツィオーゾが表彰台を逃したことだ。ランキング4番手のドヴィツィオーゾはフランスGPまでに、クアルタラロとは24ポイント差だった。
「フィニッシュラインを通過した時にジョアンとマーベリックより前でフィニッシュできてうれしかったよ。でも、スクリーンを見てドゥカティライダーが勝ったとわかった。それで、今日はドヴィが勝ったんだと思ったんだ。(チャンピオンシップで)接近されたと思った。でも、勝ったのはペトルッチだった! 2位はアレックス(・マルケス)、3位はポル(・エスパルガロ)だ。『よし!』って思ったよ。僕は怒っていたけれど、うれしかった。ウエットでの初レースはもっとひどいものだったかもしれないんだから」
もしもクアルタラロが9位、ドヴィツィオーゾが優勝していたら、その差は一気に6ポイントにまで縮まっていたのだ。しかし、実際にはドヴィツィオーゾは4位フィニッシュ。ランキング3位に浮上しながらもクアルタラロとの差は18ポイントにとどまった。
■苦戦の週末を過ごしたミル「こういうレースを繰り返すことはできない」
一方、最終ラップでクアルタラロと9位を争ったミルも、クアルタラロ同様にレース序盤にリヤタイヤの暖めに苦戦していた。そしてやはりMotoGPクラス2年目のミルにとって、ウエットコンディションでのレースは初めてのことだった。
「今日はマネジメントするのに難しいコンディションだった。レース序盤は、リヤタイヤを暖められないということが起こったんだ。それで、とてもタイムをロスした。それからフィーリングがよくなってきた。それは期待以上だったよ」
13番グリッドスタートだったミルがレースで選択したレインタイヤは、前後ともにミディアム。16番手からレース序盤にポジションを上げ、最終的に転倒を喫したものの、一時は2番手を走行したチームメイトのアレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)も同様のタイヤ選択だった。ミルによれば、このタイヤ選択は問題なかったという。そして路面が乾き始めていったレース後半、ミルはペースを取り戻していった。
ミルが23周目に記録した自己ベストタイムは、ペトルッチよりも1秒近く速かった。このレース序盤にひどく遅く、終盤には速さを取り戻していった状況に、ミルは「普通じゃない」と言う。
「アレックス(・リンス)がとてもレース序盤で強かったのはよかった。データを比較しバイクを比較し、すべてを比較して何が起こったのか確認できる。僕はレース後半ではよくなった。僕もマーベリックも、(ヨハン・)ザルコも、みんな残り15周くらいで最速だったんだ。何が起こったのかを知るのが重要だ」
「問題は、コーナー進入時のリヤだ。コントロールが難しかった。もしコーナー出口のグリップがなかったら、電子制御でマネジメントできる。でも、コーナー進入ではバレンティーノ(・ロッシ)に起こったように、リヤを失うだけだ」
レース序盤、ミルがポジションを落としたのにはもうひとつ理由があった。オープニングラップ、3コーナーでバレンティーノ・ロッシ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)がリヤを失ってスリップダウン。これを避けようと、ミルやビニャーレスはコースアウトを余儀なくされたのである。
この転倒により、ロッシは3戦連続のノーポイントでレースを終えることになった。ロッシは自身の転倒を含む、ヤマハが総じて苦戦したフランスGPについて、「ずっと僕たちはハーフコンディションでは苦しんできたよ。今日はウエットコンディションだったけれど、完全なウエットではなかった。通常、フルウエットでは僕たちヤマハはそんなに悪くないんだ。ドライコンディションならスリックが履けるけど、完全にドライじゃなければ苦戦する。加速で苦しみ、リヤグリップを十分に得られない。バイクをマネジメントするのが難しい」とレース後の取材のなかで解説している。
ミルに話を戻そう。オープニングラップで転倒したロッシを避けたものの、ミルはポジションを大きく落とした。さらにペースは上がらず、3周目には20番手にまで後退する。
レース中盤には17番手付近を走行。しかし、最終ラップにはクアルタラロと9位争いを演じたのは上述のとおりだ。ミルとしても、チャンピオンシップのことは念頭にあった。「これでOKなんだ」と、チャンピオンシップについてミルは言う。
「ドライコンディションだったら、ファビオは速かっただろうね。たぶん、今日は優勝するチャンスがあったはずだ。でも僕は、ドライコンディションでも優勝争いができるほどではなかった。たぶん11位よりは上だっただろうけど、5位争いといったところだろう。でも、たとえ僕が5位で、ファビオが優勝したとしたら、もっとポイント差は開いていた。悪いレースも一度は許される。でも、(次戦)アラゴンでこういうレースを繰り返すことはできない」
フランスGPの週末、ドライで速かったクアルタラロに対し、コンディションにかかわらずミルはいい流れで来てはいなかった。後方でのレースとなったフランスGPは、ミルにとってポイント差の痛手を最小限に抑えられたということだろう。
カタルーニャGP終了時点でランキング3番手につけていたビニャーレスも、フランスGPでは躍進できなかった。5番手スタートだったビニャーレスは、ミル同様にロッシの転倒を避けようとコースアウト。20番手にまで後退したが、最後にはクアルタラロ、ミルとともにワンパックとなった。最終ラップには、クアルタラロとミルの9位争いに割って入り、10位でフィニッシュ。しかし、ドヴィツィオーゾが4位でフィニッシュしたことで、ランキングとしては4番手に後退した。
チャンピオンシップ上位のうち、ドヴィツィオーゾを除くライダーたちが苦戦を強いられたフランスGP。そんななかでもクアルタラロはミルの前でフィニッシュを果たした。フランスGPまでに、クアルタラロとミルとの差は8ポイント。しかし、クアルタラロが9位、ミルが11位でフランスGPを終えたことで、ふたりのポイント差は10ポイントとなった。クアルタラロはトップを維持し、ミルとの差を2ポイント広げた。一方、ミルは、失うものが最小限ですんだと考えている。この2ポイントがどういう意味を持つのかは、今後の展開が知っている。
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