オートポリスのGT500開発テストで見え隠れした3メーカーの2020年『クラス1+α』への課題
10月16日から大分県日田市のオートポリスでスタートした、スーパーGTの2020年モデルの開発テスト。トヨタGRスープラ、ニッサンGT-RニスモGT500、そして2020年からレイアウトを変更して挑むホンダNSX-GTの3台がそろった初のテストだが、2020年からGT500クラスに導入される『クラス1+α』規定への対応に向け、各メーカーともさまざまなトライを行っていることが見え隠れした。
■エンジンコントロールユニット変更へ急がれる対応
2020年モデルは、すでに9月にGRスープラとニッサンGT-Rが鈴鹿でシェイクダウンされたが、1日目は両車ともなかなか周回をこなすことができなかった。それは、2020年規定からこれまでのコスワース/ペクテル製から、ボッシュ製にエンジンコントロールユニット(ECU)が変更されたためだ。
鈴鹿ではテスト2日目になり両車ともしっかりと対応し、今回のオートポリステストでも初日からECUに由来すると思われる“トラブル”はなかった。ただ、このボッシュ製のECUに対しての合わせ込みがまだまだ必要なのは間違いないようだ。
ボッシュのECUは、市販車で多く活用される『トルクディマンド式』という制御方法が使われており、すでにDTMでは採用されているものだが、スーパーGTのエンジン制御の世界ではこれまで使われていないものだった。
「まだ違和感や乗りづらさがありますね」とGT-Rをドライブしたロニー・クインタレッリは語る。また、GRスープラをドライブした石浦宏明も「少しずつ良くはなっていますが、走らせていろいろなところを触らないと。今まで緻密な制御をしてきたので、同じように動かそうとしてもすんなりいかないです。アウトラップや、雨のなかでも普通に乗れるようにしなければならない」という。ドライバーのアクセル操作に素直に反応するエンジンでなければ、当然戦えない。
一方、ホンダNSX-GTはこのオートポリステストの前日にシェイクダウンされたが、トヨタ、ニッサンほど苦労した様子はなかった。とはいえドライブした伊沢拓也は「ECUに大きな違いがあるので、僕たちもその特徴を掴みたかった」とやはりテスト前からの課題だったことを挙げている。
ホンダについては、「1ヶ月シェイクダウンが遅れてしまった分、エンジンや制御系などを煮詰めることができた」と佐伯昌浩プロジェクトリーダーは語る。また、ホンダはシビックでのツーリングカーレースでボッシュを経験しているのも大きかったようだ。
この制御については、今後も2回予定されているテストで煮詰められていくはずだが、ベンチテストでは分からない部分も多く、大きな課題のひとつと言えそう。ちなみに、今回のテストではピットアウト時にエンジンストールするマシンが多く、かなり回転数を高めて発進するシーンが多く見られた。
■共通パーツへの対応は。細身のサスは現段階でトラブルなし
2020年モデルのGT500マシンは、スーパーGTがDTMドイツ・ツーリングカー選手権とともに作り上げたクラス1規定+αの規定で作られている。一見すると、ベース車両の部分以外はこれまでのGT500マシンとそこまで大きな差はないように感じられるが、内面では共通パーツが増えており、このパーツにいかに合わせ込むかが重要になる。
「足回りが共通パーツになったり、空力が変わっているので、そういった要素からくる変化が(レイアウト変更よりも)大きい」というのは伊沢だ。
2020年モデルからは、メーカー間で『C1サスペンション』と呼ばれるものが全車ともに採用される。DTMではすでに採用されているが、タイヤコンペティションがあり負荷がかかるスーパーGTでは、強度に異常がないかという不安も生まれるほど細いサスペンションアームだが、これまでのテストではそれに起因するトラブルはない。
とはいえ、足回りが新しくなることで、セッティングにも影響するのは間違いない。共通パーツはその他にも多数あり、これらへの対応もこれから求められていくだろう。また、ホンダはFRとなることで、これまでなかったパーツへの対応も求められるかもしれない。
■空力はまだ変更の可能性あり?
2014年から採用されたGT500規定では、DTMと共通する空力開発が許されたエリアとして、ホイール車軸を中心としたラインから下の部分、前後ホイールハウスの周辺を繋いだ『デザインライン』から下の部分の空力開発が可能だった。
しかし、2020年からフロアも共通パーツとなり、さらに前後ホイールハウス周辺の形状も同じになる。DTMではさらに、空力感度が高いフロント左右のフリックボックス、サイドのラテラルダクト出口『エレファントフット』、リヤサイドも共通形状となっており、全車が同じ形だが、スーパーGTでは2020年はフリックボックスとラテラルダクトを開発することができる。
空力面でライバルに差をつけることができる部分だけに、ホンダはテスト初日から別のフリックボックスなどのバージョンが登場するなど開発の様子が見られた。一方、ニッサンはフリックボックスとラテラルダクトに変化はなかったが、サイドミラーの形状に変化が。これはドライバーからの見えやすさ、さらに空力も関連してのものだ。この部分は開発ができ、DTMでも各メーカーがミラーステーをウイング形状にしている。
一方、トヨタはオートポリスではほとんど外観に変化はなかった。ただ、トヨタのみならず、今後のテストで空力面での変更があることは間違いないだろう。
■ホンダのスピードにライバルも注目
今回のオートポリステストで、1日先に走行を開始したのがホンダNSX-GT。9月の鈴鹿では行えなかったシェイクダウンのために1日早く走り出したのだが、初日からトラブルはゼロではないが、順調に走行した。
2020年からレイアウトが変更されたために、ライバルと完全に“同じ土俵”での戦いとなる。当然レイアウト変更は大きな改良となると思われていたが、いきなりトヨタ、ニッサンと同等のスピードを発揮した。
テストであるためそこまで参考にはならないものの、テスト2日目まで、3台ともにタイムはそこまで大きな差はついていない。逆にシェイクダウンながら差がついていないNSX-GTのスピードはライバルも気にしており、「NSXはどうですか?」と“逆取材”を何度も受けた。「オートポリスに来る途中に見たオートスポーツwebのNSXのシェイクダウンの記事に『1分36秒台』と書いてあって驚きました」と石浦。
これまではミッドシップハンデもあったが、2020年からはそれもない。完全に対等な戦いは、ホンダ陣営もライバルも望んでいたものだったが、いきなり火花が散ったオートポリステストとなった。
なお、2020年規定『クラス1+α』への変化については、現在発売中の『SUPER GT File Ver.7』に詳しい。またテスト詳報は今後オートスポーツNo.1518でもレポートが掲載される。
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