走行データが足りない“ぶっつけ本番”で勝利をもぎ取ったライコネン【今宮純のF1アメリカGP分析】
2018年F1第18戦アメリカGP決勝は、フェラーリのキミ・ライコネンが5年ぶりに逆転優勝を飾り、表彰台の真ん中でひさしぶりのラッパ飲みを披露した。F1ジャーナリストの今宮純氏がアメリカGPを振り返る。
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F1第18戦アメリカGP決勝、39歳になった4日後にライコネンが勝てるときがめぐってきた。ふだんと同じ無表情のまま、気負い立つ様子も無くコクピットにおさまると、スタートにそなえ集中の密度を高めた。
まるで“ヒルクライム”のように登り坂がそびえ、天空にあるような幅広い1コーナーがこのサーキット・オブ・ジ・アメリカズの特徴だ。ピットアウト時にみんなが通るインサイドの路面グリップがやや高いのは分かっている。そこを一直線に加速すれば、ウルトラソフトタイヤなので必ず一番乗りできる。
5勝もしてきたポールポジションのルイス・ハミルトン(メルセデス)だってそんなことは知っている。だからスタートの瞬間、まっすぐ行かず左のライコネンをけん制しようと“斜行”した。急こう配の坂を斜めに加速、並びかけるのがやっとだった。ライコネンはこの動きを見てとり徐々に進路を右へ。自分が窮屈なラインのまま1コーナーにアプローチしたら、相手はクロス・ラインをとって出口で仕掛けてくる。
サキヨミしつつややセンター寄りから天空の1コーナーで先行。2017年の2番手からハミルトンをここで出し抜いたベッテルとまったく同じ。チャンピオン候補者は2年連続、同じパターンで攻略を許した(深層心理として慎重に行かねばという判断は当然あるだろう)。
トップランナーとなったライコネンは、客席にたなびく旗を見て風向きを感じとりながら、ウルトラソフトで最適なペースを維持。ハミルトンはライコネンの背後に付けない、スーパーソフトタイヤだからだ。2秒以上のギャップ、それ以下に迫ろうとすればタイヤを酷使してしまう。いまは慎重になるべきときだ。
9周目、またも不運なダニエル・リカルド(レッドブル)が電気系ダウンでバックストレート入口にストップ。セーフティカー導入ではなくバーチャルセーフティカー(VSC)でコントロールされた。するとメルセデスは動き、上位陣でハミルトンだけが11周目ピットへ。あの『賢いチーム』が真っ先に戦略的行動に出たのだ。
この週末、テキサスのオースティンには雨が続き、異常低温気象となった。先週は30度もあったのに一転、そのせいで金曜はウエットコンディション、土曜フリー走行3回目でやっと60分間だけドライとなり、ロングランはできなかった。その条件はメルセデスもフェラーリも皆いっしょである。
これをフカヨミすると、万事において抜かりなく入念に、慎重に、着実にデータベースを構築して、それに則ってレースを管理するメルセデスには収集可能データが不十分だった。スーパーソフトのスタートを選び、ソフトでつなぐ“2ストップ・プラン”の根拠は過去のデータから想定されたものだろう。さらに天候の影響に加えて、日曜にピレリがタイヤ内圧推奨値を大きく変えた。ドライのリヤタイヤは2017年が19.0PSI、2018年のアメリカGP予選日まで20.0PSI、決勝日からは21.5PSI(!)。昨年より約15%も高められたのだ。
この変化に対応する時間はスタート前レコノサンス・ラップ10分間のみ。
メルセデス陣営だけでなく各チームともスタート練習を繰り返し、そのラップではいつもより速い本番ペースで走行。“ぶっつけ本番ゲーム”に向かうしかない。こうした流れを大胆に要約すると、データ管理レースが得意な『賢いチーム』ほど、いつものようにはできにくくなる。
誤解をおそれず表現するなら『出たとこ勝負』だ。走るドライバーと現場にいるスタッフたちによる“アナログ的”な、ちょっと前のF1期に近いようなレース状況となった7年目のサーキット・オブ・ジ・アメリカズ……。
勝てるときがめぐってきたベテラン・ライコネンがスタートを決めた。序盤21周をウルトラソフトでトップ疾走、終盤は若いマックス・フェルスタッペン(レッドブル)を寄せつけなかった。自分がやるべきことを自分がちゃんとやりきったから、ポジティブに『自己満足』、シャンパンを表彰台真ん中でまずラッパ飲みライコネン。5年前のオーストラリアGPのシーンが思い出された。
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