千載一遇のチャンスを得て、フェラーリの戦略を心配するライコネン「僕らは馬鹿なことをすべきじゃない」【F1アメリカGP無線レビュー】
F1第18戦アメリカGP決勝のスタートで好発進を切ったキミ・ライコネン(フェラーリ)は、2番グリッドからそのままルイス・ハミルトン(メルセデス)のインに並びかけ、ターン1で前に出た。2秒のギャップを築き、ハミルトンもタイヤマネージメントを考えてそれ以上は攻めてこない。
ライコネン(以下、RAI)「右リヤはOK? ターン19ですごくオーバーステアだった」
フェラーリ(以下、FER)「チェックしているよ、キミ。こちらでは特に何も問題はない。データ上は大丈夫だ」
5周目にはそんな波乱もあったが大事には至らなかった。
FER「ターゲットはHAM(ハミルトン)に対して2.5ギャップだ」
アンダーカットを阻止するために2.5秒のギャップを維持し、10周目にバーチャルセーフティカー(VSC)でハミルトンがピットインする。フェラーリはハミルトンがこの時点で2ストップ作戦に切り替えたと読んでいた。
FER「HAMは2ストップのようだ」
ライコネンは17周目あたりからタイヤのグリップ低下を感じ始めた。19周目には新品ソフトに換えたハミルトンが追い付き猛攻を仕掛けてくる。
これまで何度も戦略上の失策でチャンスを逃してきただけに、ライコネンはレースエンジニアのカルロ・サンティにタイヤ交換の必要性を訴える。
RAI「OK、フロントのグリップが落ちているぞ」
FER「了解。タイヤをなんとか保たせろ。もう先は長くないぞ」
RAI「彼を抑え込むのは無理だ。僕らは(無駄にステイアウトするような)馬鹿なことをすべきじゃない」
FER「あぁ、我々はそんなことはしない」
RAI「もうタイヤは終わりかけだ」
21周目にピットインの指示が出され、ソフトタイヤに交換。ハミルトンが2ストップだと考えているフェラーリは、ハミルトンと同じペースで走りギャップをキープしていれば勝てると踏んでいた。
FER「今のところHAMのペースをターゲットにしている。39.5(1分39秒5)だ。彼のペースにマッチしさえすればいい。タイヤと燃料だけ考えろ。最後まで保たせるんだ」
ライコネンにはハミルトンのペースが逐一報告される。そして32周目にはハミルトンのブリスターが悪化しペースがどんどん低下していく。
FER「HAMはクリフだ。おそらくすぐにピットインする」
ライコネンがサンティからそう伝えられた翌37周目、ハミルトンはピットイン。4位から再び猛追を見せていく。
FER「HAMはピットインしてP4。残り3周あたりで我々に追い付いてくるが心配はない」
RAI「クソったれのトロロッソをどうにかしてくれ」
FER「すまない、青旗は出るよ」
RAI「あぁ、でもクソったれなくらいブロックされたよ。HAMはどこだって?」
FER「P2のVER(マックス・フェルスタッペン)の後ろだ。VERはSS、HAMはSだ。37.3で走っているけどピットインしたばかりだ」
RAI「新品か中古どっち?」
FER「新品タイヤで33.7だ」
ライコネンにはフェルスタッペン、ハミルトンとのギャップが毎周伝えられ、その数字は刻々と小さくなっていく。
46周目には燃費の心配もなくなり、最後までフルプッシュの指示が出た。
FER「HAMは4.5秒後方。エンジン1、最後までプッシュしてくれ。燃費もタイヤも問題ない」
しかし残り5周を迎える頃には3台がテールトゥノーズ状態になり、DRS圏内に入ってくる。54周目には中団グループのフォース・インディア対ハースの集団が前に見えてくる。
FER「VERはDRS圏内だ」
RAI「**ったれ、青旗を振ってくれ」
FER「了解、伝える。HAMとVERが後ろでバトルしている。あと2周、あと2周だ。K1を使っても良いぞ。メインストレートとバックストレートで使っても良い」
ハミルトンはフェルスタッペンとのとバトルでコースオフし追い上げを断念。フェルスタッペンもフェラーリのテールには及ばず、ライコネンは1.281秒差のトップでチェッカードフラッグを受けた。
2013年以来の勝利に、ライコネンの口からも思わず「長かった」という言葉が漏れた。
FER「グランデ、キミ! グランデ!」
アリバベーネ代表「よくやった、よくやったぞ友よ!」
RAI「あぁ、**ったれ! 長かったな……」
FER「ありがとう、キミ」
ライコネンはサンティとともに表彰台に上がり、勝利の美酒を心ゆくまで味わった。いつものようにまずはボトルを口に運び、最初のシャワーはサンティへ。これまで何度も味わった苦渋の末にようやく掴み獲ることができた完璧な戦略と勝利に、2人の絆は固く結ばれた。
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