耐え抜こうとしたタパレスも最後は破壊…井上尚弥に弱点はあるのか “敗者”の証言が示す尋常じゃない強さ
強固なブロックを固めても、強打で凌駕する井上。その強さに「穴」はあるのか。(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext
「見えなかった」
この言葉は、世界が“怪物”と称する井上尚弥(大橋)に敗れた男たちが、揃って口にする言葉だ。彼らの多くは分かっていても止められないパンチに対策を見いだせないまま、リングに沈んでいる。
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キャリア通算のKO率90.4%の驚異的なスタッツが物語るように、井上の最大にして最強の武器は「爆弾」とも評されるハードパンチなのは明らかだ。素人目にはこれをケアすれば、突破口を見出せるのではないかと思えてしまう。しかし、そこまでボクシングは甘くはない。引けば、引くほど井上の深みに飲み込まれていくのだ。
12月26日に行われたボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一戦12回戦(東京・有明アリーナ)で対峙したマーロン・タパレスも、その深みにはまった。
序盤からカウンターを当てられる間合いを図りながら、後ろ重心で顔を遠ざけたタパレスは、さらにL字ガードで守勢を強めた。井上をして「意外とパンチが当てられなかった」と言わしめた技術力は、勝利の糸口を掴む可能性を感じさせた。
確かにタパレスは耐えに耐えた。しかし、しぶとさを見せる難敵を前にしても「色々考えながら試合進めていた」という井上は、「軽いパンチでも当てていけば崩していける」と確信。そして、瞬間的な隙を逃さなかった。10回のフィナーレはまさにそうだった。
頑丈な壁をこじ開けるように、ガードの上から強烈なワンツーを見舞う。最後はスッと伸びた右拳が顔面を貫いた。ガクッと崩れ落ちたタパレスの姿は、受けた拳の破壊力をまざまざと物語った。
今年7月に井上に8回TKO負けを喫したスティーブン・フルトン(米国)が「試合中のボディーへのジャブが見えなかった。パワーというより(パンチの)タイミングだったと思う」(試合後の会見談)と評したように、タパレスもまた「とにかくスピードが速くてついていけなかった。タイミングを合わせることができなかった」と語った。
井上には異次元のパワーが備わっている。それは26戦23KOの実績も示している。しかし、そのパワーをより効果的に発揮させているのは、あらゆる引き出しを持つ技術力と、タパレスも語ったスピードに他ならない。
20年にラスベガスでタイトルマッチを行ったジェイソン・モロニーも「イノウエが勝つには、1秒だけ完璧であればいい。あいつは、ただただ尋常じゃない。信じられないほど素早いんだ」と漏らしている。つまり、どれだけ守ろうとも、ほんの数秒あれば、仕留められる。そんな印象を井上は、ライバルたちに強烈に植え付けているわけだ。
ひとたび守勢に回れば、変幻自在な駆け引きでこじ開ける。ならばと、攻勢に転じれば一撃で仕留められてしまう。あの手この手を尽くしても倒せない井上に弱点などあるのか。少なくとも、10ラウンドを戦ったとは思えない綺麗な顔で「自分にとってはまだまだ通過点」と言い残した怪物に隙は見いだせなかった。
[文/構成:ココカラネクスト編集部]
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