桜の季節だけじゃない、冬だからこそ訪れたい雪国の名城「高田城」の魅力
(歴史ライター:西股 総生)
築城は徳川家康の六男・松平忠輝
皆さんは「名城」とは、どんな城だと思いますか? 「名城」を「すぐれた城」という意味に解するなら、高い防禦力を誇る城こそが「名城」の評価に値する。
今回紹介する高田城は、そうした意味では掛け値なしの名城である。ただ、印象はかなり地味だ。石垣のない土塁造りの城だし、天守もない。本丸に三重の隅櫓が復興されてはいるものの、さほど見映えがするわけではなく、櫓や門などの現存建物もない。お城ファンの間でも、さほど人気が高いとはいえず、「高田城って名城だよね」といっても「えっ、そうですか?」と、怪訝な顔を返されることがほとんどだ。
新潟県上越市にあるこの城が、もっとも賑わうのは桜の季節だろう。城跡公園に植えられた桜の花が咲き誇ると、カメラを手にしたお城ファンも多く訪れる。
でも、そこじゃないんだよなあ、と筆者は思ってしまうのだ。この城の本来の魅力は、満開の桜の中などには決して見出せないのだ。雄大なスケールに満々と水をたたえた広い堀、その向こうに横たわる巨大な土塁こそ、高田城の魅力として愛でるべきではないか。ほら、いったでしょう? 高い防禦力を誇る城こそが名城だって。
高田城を築いたのは、松平忠輝という人である。豊臣政権に服属した上杉景勝が会津に転じたのち、越後に入ったのは堀秀治だ。秀治は、春日山城に改修を施して当座の居城としつつ、直江津の港に面した地に福島城という平城を築いた。
関ヶ原の合戦ののち、秀治が没して堀家に跡目争いが起きたのを見た徳川家康は、領地を没収して、替わりに自らの六男である忠輝を60万石で封じた。1610年(慶長15)に、いったんは福島城に入った忠輝ではあったが、4年後には内陸に8キロほど入った場所に新しい平城を築いて移った。これが、高田城である。
一般には、忠輝が「波の音がうるさくて眠れない」といって福島城を嫌ったとの説が流布しているけれど、実際はそうではないだろう。この時期、海辺の城が廃されて内陸側に移るという現象は、全国各地で起きているからだ。
豊臣系の大名たちは、朝鮮出兵に応じるために港に面して城を築くことが多かったが、地盤が軟弱で地震や水害のリスクがある上、防衛上もベストとはいえないことが多い。そこで関ヶ原合戦ののちは、自領での戦略的持久態勢を考えて城を内陸側に移したのだ。
さて、忠輝は家康の六男だから御三家の次点クラスの立場だし、何といっても60万石の大封だ。そんな人物が新城を築くのだから、天下普請となる。忠輝の舅である伊達政宗を総奉行として、前田・上杉・真田・仙石といった錚錚たる顔ぶれが動員された。できあがった高田城が、凡庸な城であるわけがない。
近隣に手頃な石の産地がなかったために土造りとはなったが、広大で雄渾な城ができあがる。筆者が、最初にこの城を訪れたときの印象は「土で、ここまでやるか!」である。高田城は、土造りの城としては到達点、最高傑作と評してよいのだ。
堀と土塁を眺めながら歩いているだけで、タダモノではないスケール感とボリューム感がひしひと伝わってくるが、この城の名城ぶりがもっともよくわかるのは、本丸の枡形虎口であろう。現在、この枡形は内側の土塁が失われて素通しになってしまっているが、枡形空間の巨大さには目を見張る。古絵図を見ると、壮麗な櫓門が建っていたことがわかる。大坂城・名古屋城に比肩しうる、全国でも屈指の枡形だったのだ。
そんな名城を、「桜のきれいな城」で片付けてしまうなんて、無粋ではないか。むしろ、花見客に煩わされない季節にこそ、じっくり味わいたい。個人的には、冬の高田城も捨てがたい。こんなに雪景色の似合う土造りの巨城なんて、他にないもの。
筆者:西股 総生
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