温泉宿でテレワーク。ワーケーションのネクストノーマル、温泉地と企業のマッチングサイト『ONSEN WORK』グランドオープン。(後編)

BIGLOBE Style2021年3月31日(水)12時0分

ビッグローブ株式会社(東京都品川区、代表取締役社長:有泉健 以下、BIGLOBE) は、2021年3月17日に温泉地と企業をマッチングするサイト『ONSEN WORK(https://workation.biglobe.ne.jp/onsen/)』をグランドオープンしました。それと同日に開催された記者会見の様子を2回に分けてお届けします。

前編はこちら

前編に続き、後編では企業・温泉宿・地方自治体など、さまざまな立場から「ワーケーション」を語ったトークセッションの模様をお伝えします。

トークセッション:エンゲージメント向上にも効果あり?!「ワーケーションへの期待と課題」

テーマは「ワーケーションへの期待と課題」。ワーケーションを推進する企業、それを受け入れる温泉宿、それぞれが抱く思いを発信してもらいました。また、「ONSEN WORK」がもたらす心身への効果効能についても専門家を招いてご紹介いただきました。

〈登壇者〉

・ビッグローブ株式会社 代表取締役社長 有泉健氏

・日本航空株式会社 人財本部人財戦略部 東原祥匡氏

・株式会社日本能率協会コンサルティング 江渡康裕氏

・伊東市長 小野達也氏

〈Zoom参加パネリスト〉

・一般財団法人日本健康開発財団 後藤康彰氏

・公益財団法人 日本交通公社 守屋邦彦氏

・別府 杜の湯リゾート 秋吉有里氏

(モデレーター:竹内香苗氏)

企業におけるワーケーション導入の現状と市場規模

竹内:「ワーケーション」という言葉を聞く機会も増えました。日本航空ではいち早く導入されていましたが、社内の反応はいかがでしょうか。

東原(日本航空):はい、2017年夏頃から働き方改革の一環として実施を始めました。全社員2000人のうち、2割に当たる400人がワーケーションを実施しています。ワーケーションはメンタルヘルスや新たな価値創造にも繋がっていると思っています。今後もどんどん促進していきたいです。

竹内:ワーケーションの市場規模はいかがですか。

守屋(日本交通公社):ワーケーションの形態が多様であるため、まだ正確なデータは取れていません。既存のデータを使用して、市場規模を感覚的に捉えてみます。まず人数について、観光・レクリエーション目的で観光地を訪れる人の数は、年間1.7億人回です。そのうちで、3泊以上滞在する人は全体の約20%=3,400人回分に当たります。例えば、この総数のうち1割の人がワーケーションで滞在するとすれば、ワーケーションの市場規模は年間340万人回になります。

守屋(日本交通公社):また、消費額についていえば、観光目的の方の消費額は10.5兆円ですから、先ほど同様に試算すると、年間2,600億円の市場規模となります。

守屋(日本交通公社):また、私どもが20〜30代の若い世代を対象に行った調査では「ワーケーションが旅行のきかっけになる」という質問に対して、「あてはまる」との回答が全体の約6割を占めました。色々な働き方にトライする世代に対してどのようなワーケーションを提供していけるか、が今後の課題になると思います。

有泉:市場規模は十分に期待できます。本サービスは、企業に福利厚生の一環として導入していただいて初めて市場が生まれるのだと思います。投資対効果を測るために、医学的な改善効果や、社員のメンタリティーの改善を証明することが大切です。その為にまずは体験してもらうプロジェクトの提供を決めました。

観光地が抱える問題と「ONSEN WORK」への期待

竹内:プロジェクトに協力していただく別府温泉がある別府市 長野市長からビデオメッセージが届いています。

別府市 長野市長:Go Toトラベルキャンペーンで一時は賑わいを取り戻しましたが、やはり一時的なものではないかと心配しています。中長期的な取り組みが必要であると思っているので、その点でワーケーションには注目しています。別府市としても、「ONSEN WORK」に非常に期待していますし、できることはなんでも協力させていただきたいと思っています。

竹内:伊東市 小野市長は、いまのメッセージどのように受け取られましたでしょうか。

小野(伊東市長):別府市と同じように、伊東市も非常に厳しい状況にあります。来遊客数・宿泊客数ともに減少しており、統計を開始した昭和38年以降、最低の数字となっています。伊豆高原という名称で知られている南部地域を中心に、ワーケーションの取り組みを促進しつつ、伊東市独自の観光施策を行っていく予定です。

竹内:地方自治体は非常に大変な思いをしていることと思います。別府 杜の湯の秋吉さん、現状を教えていただけますでしょうか。

秋吉(別府 杜の湯):同じく、経営状況は大変厳しいです。インバウンド客がいないこと、国内の客もGoToバブルはあったものの、それ以降は先が見えない状況です。なのでワーケーションについては大きな期待を寄せています

竹内:次に紹介する旅行業界の方々へ行ったアンケート結果を見ると、Go To トラベルキャンペーンの恩恵はあったものの、今後の課題は別問題として捉えている印象があります。

〈質問①〉「Go Toトラベルキャンペーン」は新型コロナウイルスの影響で減少した客数の回復に効果がありましたか。

〈質問②〉「Go To トラベルキャンペーン」を実施してみて、あなたが今後の課題になると感じたことを全てお答えください。

竹内:小野市長は以前からは連泊滞在モデルを取り入れていますが、どのように考えていらっしゃいますか。

小野(伊東市):連泊をはじめとした、ワーケーションに適した体制づくりが大切だと思っています。今後さまざまな自治体がワーケーションを導入すると思います。その中でも伊東市を選んでもらうための具体的なプランとして、ワンストップ窓口の開設を4月からスタートします。伊豆高原観光オフィスでこれまでに行ってきた修学旅行の受け入れのフローを、そのままワーケーションの受け入れへと置き換えたものです。企業からのさまざまな要望に柔軟かつスピーディーに対応できると思っています。

竹内:ありがとうございます。では、ワーケーションに関わるそのほかのアンケート結果を紹介します。

〈質問③〉「ワーケーション」目的の客を受け入れるためにどのような設備やサービスを追加する予定がありますか。

〈質問④〉「ワーケーション」目的の客を受け入れるにあたり、懸念点を感じるものを全て教えてください。

有泉(BIGLOBE):食事に対する懸念をされている方がかなり多いのは驚きの結果でした。

秋吉(別府 杜の湯):お食事については、とても悩みます。これまでは温泉宿は、「非日常のプロデュース」に取り組んできました。そこに「ワーク」という日常をどう融合させるのか、は課題です。毎日の食事を、お腹いっぱいの懐石料理にするわけにもいきません。杜の湯リゾートでは、すでに数社のワーケーションを受け入れているので、お客様からの声も受けながら改善に取り組んでいるところです。

竹内:ありがとうござます。ここまでは温泉地・地方自治体目線でお話を伺ってきました。

ワーケーションによる企業へのメリット

竹内:では、これからは企業に視点を写したいと思いますワーケーションによる企業サイドのメリットについて、東原さんどのようにお考えでしょうか。

東原(日本航空):2年ほど前にワークエンゲージメントという観点で、複数社と合同で検証を行いました。その結果、ワーケーションによって会社に対する帰属意識が高まるという結果がでました。そして驚いたことに、その効果はワーケーション期間中だけでなく、終了後も持続したのです。企業導入にあたっては、短期での有効性を考えてしまいがちですが、長期的な効果を図ることが大事だと思います。

有泉(BIGLOBE):私も、東原さんのお話に共感します。「スッキリした」「ストレス解消になった」という感覚値は共感しやすいのですが、福利厚生などの制度設計を考えた時には感覚値に頼るわけにはいきません従業員のモチベーション・ロイヤリティー・エンゲージメントがどのように変わるのか、それらが医科学的な結果として数値で示すことが、企業における制度設計の大きな後押しとなるでしょう。そうしてはじめて福利厚生として取り入れていただけると思っています。

竹内:裏付けが大切ということですね。江渡さんはBIGLOBEがおこなった実証実験の結果について、どのようにお考えでしょうか。

江渡(日本能率協会コンサルティング):私たちは従業員の体験がどう働きがいに繋がるのかの検証をお手伝いしています。今回は温泉ワーケーションに参加したBIGLOBE社員を対象に、参加前と事後とアンケート行いました。その中で目覚ましい認識の変化があったのが、自分自身の働き方の中に「ワーケーションを取り入れたいか」という質問です。

体験後の回答では「ぜひ取り入れたい」という前向きな回答をした人が全体の80%にもなりました。

カスタマージャーニーの結果をみても、ポジティブ・ネガティヴのどちらの反応もありますが、「Wi-Fiなど通信環境の不便さ」などネガティヴな側面は、今後の取り組みとして温泉宿の努力などで改善できると思っています。また、温泉地でのワーケーションの効果が滞在時だけでなく、終了後も持続していることが面白い結果でした。効果が一時的ではなく、広く長く繋がっていくのはとてもいいことだと思います。

「温泉ワーケーション」に期待できる医学的効果

竹内:効果が持続するのは本当にいいことですね。医科学的な視点からはどのような結果がでていますでしょうか。

後藤(日本健康開発財団):医科学的な効果を見える化するために、ワーケーションの初日と最終日に「生理」「心理」「身体機能」のデータとりヘルスチェックを行いました。サンプル数がまだ少ないので、統計として処理できる段階ではありませんが、ポジティブな結果も出てきています。

心拍の変動分析を行ったところ、温泉ワーケーションによって自律神経のバランスが整ったという結果がでました。自律神経は免疫システムに直結している機能なのでコロナ時代には非常に大切な機能といえます。

また、心臓から血液を送り出す力の強さ、血管の健康度を予測する末梢血液循環の分析においてもいい効果が得られました。ポイントは、この効果が温泉入浴によるものであるということです。温泉入浴すると血流が促進され、酸素が末梢血液まで運び込まれ、二酸化炭素は洗い流される。これを繰り返すことにより、血液の循環がよくなるのです。加えて、肩こり・腰痛・目の疲れの改善も報告されています。近年シャワーだけで入浴を済ませる人が多いですが、そういうひとは入浴するという習慣を日常に持ち帰り、血管の若返りを日常的に取り組んでもらえるようになるのではないかと期待しています。

体験企業コメントから探る「温泉ワーケーション」のメリット・課題

竹内:ありがとうございます。実際に温泉ワーケーションを体験した企業の皆さまのご意見をビデオでご覧ください。

損害保険ジャパン様:1日の中に、自分がお客様として過ごす瞬間があるのは刺激になり、お客様視点のサービス企画の質が上がったと思った。ワーケーションだからこそ、長期間滞在が可能になり、家族とともにその土地の名産品など、悔いなく楽しむことができた。

三井住友ファイナンス&リース様:ワーケーションは外部から遮断され、ゆっくりと腰を据えて話し合いができるので、そういった場面には向いていると感じた。環境を変えてリフレッシュした気持ちで取り組めるのもいいのだろう。ただし、一人で行くのでは、在宅勤務とあまり変わらないのが正直なところ。現状の検証数ではデータが少ないと思う。100社ほどあると企業導入に向けたデータとして参考にできると思う。

竹内:メリットは実感しつつも、企業として導入するにはまだデータが足りない、と言うことかと思います。江渡さんいかがでしょうか。

江渡(日本能率協会コンサルティング):数字については、今後BIGLOBEのプログラムを通して徐々に集まってくると思っています。生産性という観点でみれば、ワーケーションは長期的な効果が見込めます。企業にとっては、ワーケーションにより、ひとり一人の働き方が変わったり、企業と個人の関わり方が変わったりする、という利点をどう考えるかが大事になるでしょう。

20代の学生300人を対象に、ニューノーマルの働き方に関する調査を行いました。その結果では労働条件などの基盤になる話以上に、会社が自分たちのことをどう考えてくれているのか、に注目しているということがわかりました。企業が、あの手この手で施策を打っていくなかで、ワーケーションをどう位置付けて考えていくのかがとても大事だと思っています。

江渡(日本能率協会コンサルティング):次の結果もインパクトのあるデータです。ワーケーションを取り入れている企業は、8割以上の従業員が「自分たちを大切に考えてくれている」と感じている。働き方を柔軟に受け入れようとしてくれているという印象が伝わるということなのだと思います。私たちは今後もデータを取り続けて納得感を示すことが大切だと思っています。

竹内:今の話を受けていかがでしょうか。

東原(日本航空):ワーケーションも含めた柔軟性のある働き方が可能なことは、従業員がさまざまな選択肢を持てることになります。採用競争力や人材維持のために、すごく大切な観点です。リモートワークは、仕事や時間の使い方をセルフマネジメントができる人材でないと難しいとも思います。「自立型の人材育成」という観点でも、前向きに仕事・人生と向き合えるワーケーションはすごくいい機会になると思っています。

有泉(BIGLOBE):ワーケーションは、その経験で得たメンタリティーや効果が持続するという結果が出てきてます。これらが数値として証明ができると、多くの企業で福利厚生として導入する際に強力な後押しになると思っています。これからのBIGLOBEの取り組みの中でも非常に重視しているところです。

竹内:事例を増やすことで企業導入に向けた期待が高まりますね。最後に、ワーケーションを促進させるために、今後どのような動きが必要だとお考えでしょうか。

小野(伊東市長):宿泊施設内の通信環境調査や、首都圏企業勤務&フリーランスワーカーに向けた伊豆・伊東のワーケーション体験モニターツアー実施など、ワーケーション受け入れの体制づくりをさらに進めたいと思っています。

竹内:ワーケーションを続けてきた立場として、東原さんはどのようにお考えでしょうか。

東原(日本航空):出社前提から、リモートワーク前提に変化しつつある中で、仕事の質の向上を重視するようになりました。その点で企業としては働き方を選択できるようサポートすることが必要だと思っています。制度設定の観点でいうと、心理的安全性が保たれた上で、生前説にたって制度改革をしていく必要があると思っています。私も温泉好きなので引き続き温泉でのワーケーションをしていきたいです。

竹内:ありがとうございました。どの視点でみても、これからの新しい働き方に向けて「ONSEN WORK」が具体的に素晴らしいプロジェクトであると感じていただけたのではないでしょうか。以上でトークセッションを終了いたします。

BIGLOBEが掲げるSDGsスローガンと「ONSEN WORK」

有泉社長は、会見の中でBIGLOBEが掲げるSDGsスローガンにも言及しました。

有泉:『人と社会と地球の未来づくりに貢献する』これがBIGLOBEが掲げるSDGsのスローガンです。「ONSEN WORK」は、企業においては健康経営の1つの手段として、従業員においては福利厚生として、温泉宿においては新たな市場の創出、と、三方よしのサービスになると思っています。これを、我々はSDGsの一環として取り組んでいきたいのです。

新型コロナウイルスの大流行で一気に導入が推進されたテレワーク。「ワーケーション」や「リモート副業」も台頭し、働き方は多様性を増す一方です。一気に押し寄せた「働き方改革」の機会をしっかりと掴むことで、人材獲得競争力の強化や企業へのエンゲージメント・ロイヤリティの向上が見込めるでしょう。

BIGLOBEは、「ONSEN WORK」で得た検証結果を継続的に公開していきます。投資対効果を感じてもらえるまで・ワーケーションが浸透するまで長く続けることを念頭におき、サービス展開をはかっていくといいます。

温泉宿でリモートワーク——世界的にも「働きすぎ」と言われてきた日本人の働き方に一石を投じるサービスになることは間違いありません。

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