“裕福な暮らし”をしていた80代の仲良し夫婦が、福井の火葬場で焼身自殺。いったいなぜ…? 老夫婦が壮絶な心中を図った“悲しすぎる理由”
〈 「火葬炉から真っ黒に焼け焦げた遺体が発見された」80代の“裕福な老夫婦”が火葬場で焼身自殺…福井の火葬場で起きた“悲しい心中事件”の顛末 〉から続く
故人のご遺体を火葬し、その人生を締めくくる場所「火葬場」。今でこそクリーンな運営をしている場所が多いが、かつては火葬場でさまざまな事件が起きていた。いったい、どんな事件が起きていたのか——。
ここでは、元火葬場職員・下駄華緒氏が、火葬場で起きた事件を徹底調査してまとめた書籍『火葬場事件簿 一級火葬技士が語る忘れ去られた黒歴史』(竹書房)より一部を抜粋して紹介する。(全2回の2回目/ 1回目 から続く)
◆◆◆
妻の糖尿病が進行し、認知症の症状も出はじめた
この壮絶な焼身心中を図った老夫婦だが、いったいどんな理由があったのだろうか。
ふたりが暮らしていたのは市内にある木造2階建ての住宅だった。自宅の周囲には広い田んぼを持ち、これらでつくった米と年金がおもな収入源であり、貧乏暮らしというわけではなかった。
報道によると、広い庭があり池には何匹もの錦鯉が泳いでいて、庭木もきちんと手入れがされていたといい、丁寧な暮らしぶりが窺える。
夫婦仲もとても良く、近所では一緒に買い物に出かける姿をよく見られていた。
ずっとこの暮らしが続けば不幸な選択をしなくて済んだかもしれない。彼らの暮らしに徐々に暗雲が立ちこめるようになったのは数年前からだった。
もともと奥さんのほうが糖尿病であったのだが、数年ほど前から症状が悪化して自力で歩くのが徐々に難しくなってきていたのだ。
さらに糖尿病の進行と重なるようにして、認知症の症状も出はじめていた。
夫は「妻の面倒は自分で見る。これ以上は必要ない」と…
最初は軽い物忘れ程度であったが、徐々に奇行が目立つようになっていた。
とうの昔になくなった母親を呼んだり、杖をつきながら集落のなかを徘徊したりなど症状が進行していった。
やがて旦那さんが奥さんにずっと付きっきりで生活しなければならなくなった。もともと農作業をしながら足の悪い奥さんに代わって掃除、洗濯、炊事などの家事を引き受けていたのに、そこへ奥さんの介護も加わるのだから、負担も激増だ。
そんな生活をしていたら今後は旦那さんのほうも過労で倒れてしまうのではないか、近所の人も心配していたのだという。
そこで手伝いを申しでたり、行政サービスなどを教えてあげたりしていたというが、旦那さんは「妻の面倒は自分で見る。これ以上は必要ない」と、他人の世話になることを頑なに拒んだ。
もともとそういう性格だったのだろう。近所付き合いも薄く、近所に住む親戚にもあまり頼ることはなかった。周囲の人いわく、もともと無口でとても気難しい人だったようで、奥さんしか信用していないようなかんじだったそうだ。非常に優しく、真面目な方だったのかもしれない。
夫の身体にも不調があらわれ、入院することに…
しかし、やはりそのままでは生活が辛くなる一方。そこで親戚の再三の説得のおかげで、週1回の頻度でデイサービスに奥さんを預けるようになった。
大変だった介護生活にもわずかだが余裕ができ、好転するかに思えた。
しかし、運命の歯車は残酷だ。ここでさらに悪い出来事が重なってくる。
今度は旦那さんの身体にも不調があらわれたのだ。
もともと患っていた痛風が悪化し、頻繁に痛みの発作が起こるようになった。
やがて庭木の剪定をしているときに倒れ、自分も入院することになってしまった。
このときの入院が、不幸な選択をするきっかけになったのかもしれない。
妻の認知症もどんどん進行し…悲壮な決意に突き動かされてしまった
どこへ行くにもいつも一緒だった奥さんだが、入院生活のあいだは自分のそばにいない。妻はどんどん認知症が進んでいく。もう夫である自分のこともあまり記憶していないみたいだ。そんなときに自分ももし病状が悪化してずっと入院生活になってしまったら、夫婦は引き裂かれてしまう……。
そんな考えに陥ってしまう気持ちもわからなくはない。
唯一心を許していた奥さんである。離れ離れになってしまうくらいなら……。記憶にも残らなくなって、心も離れてしまうくらいなら……。
そんな悲壮な決意に突き動かされてしまったのかもしれない。
旦那さんは持っていた土地などを市に寄付すると、遺言書に書いた。
それらの固定資産は、評価額で680万円にものぼる。
しかし、市は「いずれも市として有効な活用策が見出せない」として、寄付を受ける権利を放棄し、旦那さんの親族に相続されることになった。
この事件は火葬場云々よりも社会問題として非常に関心が寄せられた出来事である。このようなことが繰り返されないことを願うばかりだ。
(下駄 華緒/Webオリジナル(外部転載))
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